第7章 開幕!覇王決定戦

 「それでは私はこれで。」
 「ああ、色々ありがとう。」
 陽光目映い空の下、昔よりもずっと色白になったフィラはトーザスと握手を交わす。それからトーザスは白い宝玉を掲げ、すぐに姿を消した。
 「___」
 緑の草原、青い空に白い雲、振り返れば白い砂浜に細波が寄せる。色に乏しい黄泉の景色に比べ、我が故郷はなんと鮮やかなことか。両手を広げて深く息を吸い込むと、脳天に突き抜けるような爽快感があった。
 「嘘みたい。」
 この景色に触れると、黄泉にいたことが夢のように思える。でも、ついさっきまではあの暗い世界にいたのだ。レイノラに導かれ、榊の力を借りて天界に帰り、トーザスに中庸界まで送ってもらった。
 「でも、嘘じゃない。」
 おそらく数ヶ月の間すごしたであろう土地は、まるで空想の世界のようだった。でもそんな時はロケットの蓋を開けば良い。そこには黄泉の装束を纏って手を取り合う、自分とサザビーの姿がある。仙山に描いて貰った写真のように精密な絵は、黄泉の思い出を現実のものにしてくれる。
 「さあ___行くか!」
 フィラはクーザーから南西に数キロ離れた海岸に降りた。そことクーザーの間には傾斜のきつい丘がある。いきなりかの地に降りなかったのは覚悟のため。丘を上がって北東の景色が見えるまでに、自らの腹を決めるため。
 その先に何が見えるのか___最初は恐怖を抱きながら、それでも歩くほどにフィラの足取りは軽くなり、急くように丘を駆け上がった。そして___
 「___」
 フィラの目に飛び込んできたのは、変わり果てたクーザーの姿。しかしそこでは新たな命が息づいていた。かつての城や街並みは僅かな瓦礫に変わり果てた。しかしそのすぐ近くに、まだテントのようなものがいくつか張られているくらいだが、確かに新しい人の集まりが見えた。
 「___ぅわあああああ!」
 居てもたってもいられなかった。フィラはその場で何度も飛びはね、絶叫して丘を駆け下りる。時折首のロケットを握り締めながら。




前へ / 次へ