第5章 父と娘と刺客と罠

 相変わらず薄ら寒いところだ。夜のようで夜でない、天上に蔓延る暗黒の蓋は全てを灰色に見せ、眼下の風景から色気を奪い取る。地に降り立つなり、殺伐とした寂しい気持ちにさせる雰囲気が黄泉にはある。目映さを取り戻した天界とのギャップは凄烈で、初めてこの冷たい世界にやってきたライやフローラ、百鬼親子はみな息を飲む思いだった。
 「これが___黄泉か。」
 いまにも雷鳴が轟きそうだ。高台から見渡す景色は、鬱蒼とした森に無骨な岩山におどろおどろしい空。遠くを飛ぶ鳥の群も烏か禿鷹に見えるようだった。
 「見ての通りのところよ。みんながそうじゃないけど、人の気質もこの世界に似ている。だから___いつでもどこでも油断はできない。」
 百鬼はソアラから黄泉での出来事を色々と聞いていた。それこそ榊という人物のこと、派閥間抗争のこと___ソアラが自らのルーツに触れたと知ったときは感動して彼女を抱きしめもした。しかし実際に立ってみると、自分が考えていた以上に寒い所である。
 「ここは見晴らしが良すぎる。ソアラ、榊の所へ。」
 だがそう言った一時の感傷でさえ、黄泉では危険なのだ。遠くにいた鳥の群が旋回しながらこちらに向かってくるのを見て、レイノラが急くように言った。
 「わかりました。」
 ソアラもすぐに頷き、ただ唖然として周囲を眺める皆に、一人一人声を掛けた。
 「これが戦いの舞台よ。」
 その言葉に秘められた覚悟が、虚しさを闘志で埋める。この殺伐とした世界でアヌビスと戦い、Gを守り、そして生き抜く。その決意を胸に、ヘブンズドアの輝きが朱幻城の方角へと飛んだ。




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