第4章 無念の果てに

 色鮮やかな木々が繁茂する深い森、その中に一際不釣り合いな瓦礫の山がある。砕けた岩が蠢き、重々しく退かされたのは、四本腕の男が消え去ってから少ししてのことだった。
 「日の差さない洞窟でも凍えることはなかったが___なるほど、この暑さか。」
 現れたのは女三人。ミロルグは獣たちの嬌声を聞きながら、うだるような外気に顔をしかめた。彼女が一念を込めると、フローラとニーサを包む光が消える。
 「で、ここはどこだ?」
 洞窟はザキエルの手で崩壊した。しかしミロルグの魔力は崩れ落ちる岩をことごとく食い止めていた。頭知坊が去るのを見送って外に出れば、どうやらここは南国のようである。
 「ポポトル___」
 深い感慨を込めて、そう呟いたのはフローラだった。
 「なに?」
 「ここはポポトルよ。だって___」
 崩れた洞窟の周りだけ、木々がなぎ倒されている。良く開けた視界の向こうに雄々しき火山があった。
 「なるほど___新たな邪悪の巣窟がここにあったというのも、何かの因果かもしれないな。」
 その言葉の意味するところには感じるものがある。青春を刻んだ土地の懐かしさに、フローラは目を閉じて沈黙し、島の蒸し暑さを肌に染み付けた。そうとも、旅はこの島から始まったのだ。
 「さて、裏切りの連続であの蜘蛛男が勝ち残ったようだが___とりあえずクーザーに向かうしかないかな?」
 しかし感傷に浸っている暇はない。ミロルグは小さく息をついてフローラに問いかけ、彼女も目を開ける。
 「そうね。でも正直に言うとは私はクーザーよりもアレックスが心配___頭知坊はあの子のことを良く知らないみたいだったし___」
 「ザキエルが死んだ今では、クーザーにいると信じるしかないか___」
 深刻な顔になる二人。そんな重苦しい空気を盲目の母が断ち切った。
 「死んでいませんよ、ザキエルは。」
 「え?」
 穏やかな微笑みで大胆なことを言う。まるで亡き師アレックスを思わせる仕草に、フローラは心をくすぐられた。
 「私が助けました。大地に落ちる直前に、魔力で捕らえてあります。」
 よく見ればニーサの手が朧気に光っている。さりげない美技はミロルグの目さえ盗んでいた。
 「さすがお義母様!」
 「あらあら。」
 フローラが思いあまってニーサに抱きつく。驚いてよろめいた母だったが、すぐに優しい笑顔で彼女の髪に指を通していた。




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