第33章 降臨

 「サザビー___サザビーよね?」
 窮地を救ってくれた仮面のアヌビスを見つめ、ソアラは問いかけた。確かに彼はサザビーだ。あえて問うまでもなく、もうソアラは彼の魂に触れて答えを見ている。それでも彼自身の言葉で聞きたかった。
 「いや、俺はブラックだ。仮面が外せない限りサザビーじゃない。」
 しかしサザビーは首を横に振った。表情豊かな彼らしくもない無表情な仮面が、ソアラにはやるせなかった。
 「外せないって___?」
 「俺のことは後でもいいだろ?先にそいつだ。」
 「!___そうだ、ルディーが!」
 ルディーはソアラの胸の中で気を失い、酷く青ざめた顔で呼吸も消えかけている。胸の皮と肉が削げ、露出した骨に四つの穴。おそらくそれは心臓に傷を付けている。
 「エレク!ゼレンガ!」
 ルディーも竜の使いである。ドラグニエルとソアラ自身の力を分け与えれば、生命力を呼び覚ますことができるはずだとソアラは考えた。しかし___
 「くっ___ぅうあ___!?」
 深手を負っているのはソアラも同じなのだ。片腕は砕けて言うことを聞かないし、腹には穴が開いているし、首だって食らいつかれている。力を呼び起こそうとすると、自分の意識が吹っ飛びそうになる。肉体と精神のバランスが崩れていくのが分かった。
 「その状態じゃ無理だ。大丈夫、もう追いついてきたよ。」
 そう言ってソアラを支えたサザビーは、空を指さした。
 「ソアラ!」
 翼の獅子に化けた棕櫚の背中から、フローラが心配顔で叫ぶ。その姿を見た瞬間、安堵感が一気に広がったのだろう、ソアラは微笑みを浮かべたまま気絶してしまった。




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