3 もう一人の女神

 ゴォォォッ!!
 谷が唸り、突風と共に轟きが走る。
 その瞬間、レイノラの刃は洞窟そのものを天井から床まで一刀両断にしていた。
 剣風は洞窟の壁という壁を罅入らせ、砕き、溢れかえった衝撃はレイノラの背後にいた黒い鳥を吹き飛ばすほどだった。
 バァァァァンッ!!
 まるでガラスのカップを落としたかのように、洞窟が割れた。力に耐えかね、虚無に囲まれた谷が弾け飛んだ。

 瓦礫の嵐の中で、レイノラは卵を見据えていた。
 巨大な卵の中心。縦に一筋の裂け目。
 谷の崩壊と共に、卵の内から赤い血潮が溢れ出る。

 (違う___!)
 卵殻は大きく裂けていた。そこにいたのは鳥ではあったがバルカンではない。黄泉の怪鳥の異名を持つ巨大な鳥、赤堰(せきせき)だった。
 「卵はもう無い。」
 鳥の死骸の中で、目玉が光る。卵の奥に炎が灯り、ドロドロの血の海の中からウルヒラの首が伸び上がった。
 「もう必要ないのです。」
 後ろに黒い鳥が舞い戻る。
 『余興だ、レイノラ。』
 そして、別の声。
 「っ!」
 レイノラは慄然とした。命を捨てる決意のもと、彼女はキュルイラと別れた時点で無心の境地に達し、ただバルカンを討つためだけに前へと進んできた。それが、後ずさりをしてしまった。
 『君は、いや君とその仲間たちは常に私を驚かせてくれた。だから私も君を迎えるに当たって余興を用意した。そういうことだ。』
 「バルカン___」
 バルカンがいた。すでに新たなる生命となって誕生していた。しかし、容姿は変わり果てていた。まるで死体のようだった。
 バルカンの体には皮がない。全身が朽ち、崩れかけているが、しかし生きていた。解剖標本のように、筋肉も骨も臓腑も全てが剥き出しだった。嘴は外皮を失い、蛇腹模様の骨の塊になり、顔面の筋肉に囲まれたまん丸の眼窩に目玉はなく、赤い光が灯るのみ。胸では肋が白い流線を晒し、腹では臓物が蠢き、尾は骨の鞭が垂れるのみ。あれほど雄々しかった翼も、枯れ木のようにみすぼらしい。それでもバルカンは生きているのだ。死体のような姿で。
 「そん___な___」
 しかしレイノラが戦いたのはそれではない。奴の立つ場所が問題だった。
 『さすがに驚いているな?』
 バルカンの周囲には何も無い。大地も、色も、匂いも、何一つ存在しない。バルカンは全てを消し去る暗黒の中で微笑している。何食わぬ顔で「虚無の中」にいるのだ!
 「どういうこと___」
 『これが進化の結果だ。それ以外に何がある?』
 「なぜ虚無の中にいる!?」
 『Gへと近づいているから。それ以外に何がある?』
 「おのれ___!」
 レイノラの全身から黒い波動が巻き起こる。それは虚無と同化するほどの漆黒だった。
 「宵闇の裁き!!」
 左手から放たれた黒い波動がバルカンを襲う。バルカンは前方、そそり立つ黒の中に立っているように見えるが、視覚は誤魔化しようがある!
 ゴウッ!!
 波動がバルカンを飲み込む。
 「!」
 手応えがあった。それは波動がバルカンを圧したということ。もし虚無の中にいれば、虚無に触れた時点で手応えも波動も消えるはずだ。
 「この期に及んで罠か!」
 そう言い放ち一気に間合いを詰めたレイノラは、右腕の円月を振るった。
 「___!!?」
 が、咄嗟に体を開いて軌道を逸らす。瞬間、波動の手応えが消えたからたった。
 「ちっ___」
 右に体勢を崩しながら、レイノラは円月が半月に変わったのを見た。刃の半分が、音もなく消し飛んでいた。軌道を変えなければ、虚無に自らの腕を飲み込ませていたところだろう。しかし安心するのは早い___
 ガッ!
 「っ!!」
 虚無の中から腕が飛び出す。筋肉と骨が剥き出しのグロテスクな腕は、レイノラの顔を鷲づかみにした。バルカンの左手は、レイノラのこめかみと頬に爪を食い込ませ、倒れかけた彼女の体を軽々と引き上げた。そして止まる。
 『このまま引きずり込めば、どうなるか分かるな?』
 バルカンの体は虚無の中に。しかし腕だけは外へと飛び出していた。おそらく先程も手だけを外に出して宵闇の裁きを受けたのだろう、だから手応えがあったのだ。
 「なめるな!」
 レイノラの右目が輝く。凄まじいエネルギーが迸り、眼前のバルカンの人差し指と中指を粉砕する。
 (これは___?)
 フックは外れなかった、しかし見るべきものはあった。バルカンの左腕から蒸気のような煙が零れている。筋繊維もいくつか切れていた。
 『余計なことをした。』
 「___なに?」
 ブシュァァッ!!
 次の瞬間、バルカンの指から血飛沫が溢れ出た。それはただの血ではない。レイノラの顔に降りかかると、焼け付く音と共に白い煙を立ちのぼらせる。血は強烈な酸を帯びていた。
 ザンッ!!
 バルカンの左腕が手首から落とされる。レイノラが悲鳴も上げずに放った半月が、バルカンの腕を断ったのだ。その断面からまた夥しい量の血が噴き出し、レイノラの全身に降りかかる。しかし彼女は闇の波動に身を包み、後方へと飛んだ。
 顔に食らいついたままのバルカンの左手を消し飛ばす。現れたレイノラの顔は、白黒逆の右目を潰され、顔半分から首にかけて酷く焼けただれていた。それほど強烈な酸だった。
 「魔力が鈍い___?」
 距離を取ったレイノラはすぐさま回復呪文を施すが、治癒は思うように進まなかった。
 『これも進化の一つだ。俺の血は体外に出ると同時に強烈な酸となり、そればかりか魔力への強い抵抗力を持つ。なぜそうなったのかは分からないが、虚無の中での誕生が成った時点で、俺の血はそうなったらしい。』
 「虚無の中での誕生___」
 『おっと、答えを言ってしまったか。』
 バルカンの血が口の中にも入り込んだため、レイノラの声は掠れていた。しかし彼女はいまだ精悍。バルカンもその気丈ぶりを面白がってか、口滑らかだった。
 『そうだ。今の私は虚無の中で誕生した。実に危険な挑戦だったが、成し遂げたのだ。』
 「手法を聞かせてくれるかしら?どのみち私はもうあなたと、ここにいる二羽の鳥以外に会うことはできない。」
 『だが可能性を諦めてはいない。現に私が虚無の中にいるのだ。方法を聞くのは、そこに虚無を克服するヒントがあると考えたからだ。』
 「___」
 『そういう強かさ、嫌いじゃない。』
 そう言ってバルカンはニヤリと笑い、レイノラは闇の波動を弱めることなく彼を見据えていた。
 『進化は新たなる誕生の過程で起こる。生命が生きている間に得た経験が、子孫へと受け継がれることで進化は起こる。私はあえて虚無にその身を食わせ、子孫を残すことを繰り返した。自らの生命を終わらせるときは、虚無にその身を食わせる。死の繰り返しは気の狂いそうな作業ではあったよ。』
 「待て___子孫を残すことを繰り返したって___」
 『繰り返したのだ。時間は幾らでもあったからな。』
 「どうやって!?誰を相手に!?」
 レイノラは掠れた声を荒らげた。バルカンの勿体ぶった言い方に、悪い予感が掻き立てられた。
 『教えない。』
 だがバルカンは、そう言って笑った。
 「そう。」
 次の瞬間、レイノラの傷ついた顔が一瞬で元に戻り、半月の刃が元の円月へと再生した。そして矛先を___
 「!」
 後ろにいた赤と黒の鳥たちへと変えた!
 ゴゥゥ!
 刃が炎を食う。虚無に囲まれた空間が目映いばかりに燃え上がる。刃の前に躍り出たのは全身の炎を肥大化させたウルヒラだった。
 「零結!!」
 漆黒の円月刀を振り下ろすと同時に、レイノラの右手から魔力が迸る。それは燃えさかるウルヒラの炎を一瞬にして消し飛ばし、赤い鳥を体の内から凍り付かせた。
 「___」
 しかしレイノラの表情は険しいままだった。氷付けのウルヒラが粉々に砕け、辺りに散った炎の切れ端に照らされてキラキラと輝く。その向こうでは、虚無から出たバルカンもまたグロテスクに光っていた。
 『見事な機転だ。』
 バルカンの肩に黒い雀が留まる。その喉が雀自身の頭ほどに膨らんだかと思うと、小さな嘴の間から透き通った曲線を覗かせた。
 「ウクェッ。」
 吐き出されたのは水晶だった。親指と人差し指で作る輪ほどの大きさでしかない。しかし雀が飲み込むにはあまりにも大きかった。
 「アポリオ___」
 レイノラが苦々しげに呟く。水晶は紛れもなく、エコリオットのアポリオだった。
 『その通り。この中では外の一日が十三年に相当する。エコリオットのよりも高性能だ。』
 「十三年!?馬鹿な___」
 アポリオの時間のズレは七年が最長だったはず。しかしレイノラはバルカンに教えられるまでもなく、カラクリに気が付いた。
 「そうか!オルローヌ___!」
 『正しくはオルローヌの記憶だ。探求神オルローヌはアポリオの作り方も、改善すべき点も知っていた。だがそれを教えられて喜ぶエコリオットでないことは、十二神なら誰もが知っていることだ。』
 なるほどアポリオがあれば時間の問題は解決する。ただもう一つ、母体の問題が残っている。今のバルカンの生命力を思えば、一介の鳥で相手になるとは到底思えない。
 『案ずることはない、答えはすぐに見せる。』
 そんなレイノラの思考をバルカンはすぐに言い当てた。つくづくオルローヌの能力は厄介だ。フェリルが、いやバルカンが早晩に仕留めようとしただけのことはある。
 『ただその前に褒めさせてほしい。君が矛先を彼らに変えたのは、私がアポリオを使ったと察したからだ。そして虚無に道具は持ち込めない以上、アポリオは私でなく彼らが持っていると睨んだ。まさにその通りだよ。そして君が私に背を向ける危険を冒してまで彼らを仕留めようとした狙いもほぼ正解だ。私の体はご覧の通りまだ不完全でね。より完全にするためには彼らの助けが必要に違いないという読みはその通りだよ。』
 「く___」
 忌々しかった。バルカンの体からは時折白い霞の玉が吹き上がり、また筋肉が無意味に痙攣しては繊維の一部を断裂させたり、毛細血管が弾けて血の球を飛ばしたりしている。内に燻る巨大な力に対し、体が悲鳴を上げているかのようだった。
 そこに活路を見出そうとしていたレイノラだが、バルカンにはあまりにも余裕がありすぎた。その時点で望み薄である。
 『さて、そんな君へのご褒美に、これから君が気になっている私の母を紹介しよう。』
 「___」
 何も答えず、無表情へと戻ったレイノラを見て、バルカンは失笑しながら続けた。
 『ところでこの黒のザノゥの能力は便利だが、これは君たちと共に黄泉からやってきた男のものだ。フェリルが殺して手に入れたが、今は私がザノゥに分け与えた。ザノゥの口の中にはどんなものでもしまえるのだよ。』
 「___」
 その力は、かつて太鼓腹の臍にあったはず。
 『役目を終えたので、彼女にはアポリオから出てもらった。』
 嘴が大きく開く。そこから人の手___女の手が現れる。力無く、ダラリと垂れた手に続き、肘、そして髪。酷く乱れた赤い髪に顔を隠されたまま、女の体がザノゥの口から吐き出される。若々しく美しい肉体は、血色も良く力に満ちあふれていそうなのに、なぜか生気が感じられなかった。
 ボトッ。
 吐き出された裸の彼女を、バルカンはその腕に抱き留めた。顔を隠した長い髪を退かしたとき女の正体は分かる。それは___とてつもなく恐ろしい事実を思い知る瞬間になるだろう。
 その時は、すぐに訪れた。
 「!!」
 レイノラが震えた。息を詰まらせ、肩を竦め、電撃が走ったかのような衝撃を受けた。

 レイノラはその顔を知っていた。しかし最後に見たのはバルディスの時代だ。
 ただ、オル・ヴァンビディスに来てから彼女を思い出す機会があった。
 それは棕櫚がムンゾ神殿の探索結果を報告したときのこと。
 フェリルが監禁されていた場所、ムンゾ神殿の奥から知らされた真実。
 バルカンがフェリルと結びついたのもそこだった。
 「紅玉の女神___ウィアロージェ!」
 レイノラが掠れた声を絞り出す。
 『そう。』
 バルカンはしっかりと頷いた。
 『ウィアロージェだ。我が愛しのフェイ・アリエルとともに、ムンゾに捕らわれていた女神の一人だ。』
 「馬鹿な___彼女は!」
 死んだはず___と言おうとして言葉に詰まった。
 『気付いたようだな。そう、あの場所にはそれらしい記録があっただけだ。だれも死体を見ていない。もっともあと二人の女神は事実死亡していたわけだが。』
 確かにその通りだ。ムンゾ神殿の奥のアポリオにあったのは、ムンゾが四人の女神を監禁し、そのうちウィアロージェを含む三人は死亡したという「記録」だけだった。それが事実かどうかは定かではない。唯一の事実は、バルカンに救われたフェイ・アリエルが復讐のためにムンゾを殺したことだけだ。
 しかしどうにも符合しない点が多い。バルカンがGを欲したきっかけは、フェリルとの再会と彼女を苦しめたムンゾへの憎悪だ。フェリルに復讐を果たさせ、ムンゾを殺めた時から、彼の凶行は始まっている。ウィアロージェはバルカンがGを目指す前に救われている。では今まで彼女はどうしていたのか?バルカンが匿っていたとしたら何のために?
 『死んだことにして欲しいと頼んだのは彼女だ。』
 「!?」
 『彼女は死を拒んだが、フェリルのように反抗することも望まなかった。誰にも関わらない、静かな場所で時の流れが己の傷を癒すのを待ちたいと言った。それは彼女のためでもあり、私のためでもある。つまり彼女は、表に出てしまっては、ムンゾの悪行も、フェリルの怒りも、私の野心も、押し隠すことはできないと感じていたのだ。それが露見されれば、フェリルも私もここまでは来られなかった。』
 おそらくウィアロージェの願いは事実だ。そうでなければ、フェリルの復讐に同調しなかった段階で殺されている。バルカンは彼女への同情から、フェリルも同じ地獄を味わった同士として慈悲を与えたのだろう。
 それが幸いしてしまった。当時は持っていた人並みの優しさが、今になってバルカンにチャンスを呼び込んだのだ。
 「悪戯なものね___」
 レイノラは溜息とともにそう吐き捨てた。呪う神もいないが、運命の悪戯とはこういう事を言うのだろう。
 『性骨の能力を得たとき、フェリルがいなかったのは残念だったが、私にはまだウィアロージェがいた。静かなるアポリオの中で、彼女はより虚無へと近づいていた』
 「___どういうこと?」
 『アポリオは当時からここに置いていた。これではなく、エコリオットから貰ったものだがね。』
 レイノラは頷く。
 『ここは鳥たちの楽園であり、虚無を背にする場所。ここでは多くの雑念が失われ、鳥は私の意志にかかわらず無垢となり、人もより正直になる。そして大きな虚ろなる穴があいた生命は、自らその身を虚無へと傾けていく。』
 バルカンは両腕に抱くウィアロージェの体を持ち上げ、レイノラに全身を見せつける。
 「あ、穴___!?」
 ウィアロージェの胸、みぞおちの辺りに漆黒の穴が開いていた。しかし向こう側が透けて見えるのではなく、黒い円が開いている。
 『渇望はやがて絶望を呼び、虚無となる。ムンゾに打ち付けられた束縛の杭は、彼女に飽くなき平穏を渇望させた。しかしそれが満たされないことに気付いた瞬間、渇望は絶望に変わり、空洞化した己の内が虚無と化したのだ。』
 「卑劣な___!」
 『偶然だ。虚無の側で、彼女は自ら虚無に落ちた。それでも生きる事への強い執着が、彼女を特別な存在にした。そして虚無に適応する卵を産み、私に恩を返してくれた。さらに今度は___』
 「!?」
 目を疑う光景だった。バルカンのグロテスクな体、その筋肉や血管やらが蠢いて、ウィアロージェの体に食いつき始めたのだ。
 『私の肉体に安定をもたらしてくれる。』
 死体のような体がウィアロージェを取り込んでいく。そして目に見えて変わり始めた。
 『先程も言ったとおり、私の肉体はまだ完全ではない。虚無に適応する反面、通常の世界では有り余る生命力に体が対応し切れていないのだ。ただそれを補うことはできる。強靱な肉体を食らうことで解決する。』
 バルカンの右半身の一部。ウィアロージェを抱いていた胸から肩、首筋から頬にかけて、肉が力強さを増し、皮膚が生まれる。ウィアロージェの体が皮膚だけが残して吸い尽くされているかのように。
 悪魔の所業。しかしこれはGの能力の一つだ。
 (Gはやがて、命を奪わずとも力を吸えるようになった___)
 やはりバルカンはGに近づいている。絶対的な自信をもって邁進している。
 『さて、私が不安定な体を押して虚無から出てきた理由、君を殺さずにこの虚無の鳥かごに閉じこめた理由は___もう分かるね?』
 取り込むため。それ以外にあるまい。
 『分かっている顔だ。そして君はこの危機に抗おうとしている。だが私は虚無という逃げ場がある。君にはそれがない。鳥かごの中の君はもうどうすることもできない。』
 「___」
 レイノラはバルカンを睨み付ける。敢然と、無言で。
 『いい顔だ。でもそれは死地に赴く者の顔だ。決意の先に持つのは絶望でしかない。この場で絶望を抱くとどうなるか___』
 そう言ってバルカンは己の胸に指を当てる。レイノラが胸の異変に気付いたのはその時だった。
 「!」
 ハッとして己の胸を見る。僅かだが、装束の内から黒い霞が立ちのぼっていた。次の瞬間、バルカンはレイノラに接近し、筋骨剥き出しの腕を振り下ろしていた!
 『なに!?』
 だが手応えがない。斬ったのはレイノラの姿を映した霧でしかなかった。
 「閉ざせ___」
 バルカンは空を見上げた。そこではレイノラが夜空に暗黒の波動を溶かしていた。
 「闇の棺。」
 虚無の黒を別の黒が上塗りした。レイノラから走った漆黒は、一気に地の底まで包み込む。虚無に包まれた空間の中に、別の囲いを作り上げる。
 「虚無の鳥かごの内側に、闇の鳥かごを作った。ここから出なければ、虚無には戻れない。」
 『貴様___!』
 「私は私の使命を全うする!今この場でおまえに敗れようとも、絶望することはない!」
 これは最後の戦いだ。結果がどうあれ自分は虚無に消えるのみ。ならば全身全霊を以て、ここでバルカンを倒す!
 『良かろう!その意気に免じて付き合ってやる!そして七年の賜物を私に捧げろ!』
 闇の女神の刃と、鳥神の爪が交錯する。迸った衝撃は二重の鳥かごの中で嵐となって吹き荒れた。




前へ / 次へ