第26章 覚醒の時
風が刺さるように冷たい。そよ吹くような微かな風なのに、身を晒すと肩を抱きたくなる。それはきっと世界そのものが冷え切っているからだろう。聞こえるのは砂粒が神殿の床や柱に擦れる音くらいで、その神殿そのものも時間と共に朽ちていく。
「ここは死んでる___」
風を掴むのに慣れた種族にとって、ジェネリの世界は悲しすぎた。翼の傷が幾らかでもましになると、ミキャックはジェネリの世界の嘆きを一層強く感じるようになった。
「そうだな。」
竜樹が答える。ミキャックの横に立つ柱、彼女はその陰で安座していた。
「ソアラが自暴自棄になっていたの、実は少し分かるところがあったんだ。こんな世界を見せられて、もしあたしの側に甘えられる誰かがいたら戦う気なんて失せてたと思う。」
「___」
ミキャックの言葉に竜樹は何の反応も示さない。ミキャックはハッとして口元に手を当てた。
「ごめん、聞かなかったことにして。」
「いいよ、俺だって話したい。おまえたちにもっと信じてもらいたいしな。」
深い仲でもない相手に本音を漏らして戸惑わせた、そう思ったミキャックだったが竜樹の考えは違った。彼女の優しさに胸を擽られ、ミキャックは続けた。
「___今の状況どう思う?世界を救う気持ちでこっちに来て、何もできていない状況。アヌビスを倒すことも十二神を守ることも、何一つできてない。それでいて仲間を失って___だからちょっとソアラの気持ちも分かるんだ。」
「でもよ、そのソアラだって諦めるのをやめたんだ。俺たちは最期まで、骨が燃え尽きるまで戦えばいい。それが死んだ連中の供養にもなる。」
竜樹の意志は揺らがない。戦いに迷いなく、全てを百鬼の遺志に重ねて考えている。自分が百鬼の代わりになる。その思いが彼女を奮い立たせている。
「自分の命は?」
「惜しくない。何度も死んだ命だ。」
「あたしは___惜しいわ。」
「ぁん?」
「ううん、なんでもない。」
その時だけ風が強く吹いて、弱々しかったミキャックの言葉を掻き消した。柱の陰から首を伸ばして彼女を見上げる竜樹。しかし振り返ったミキャックは穏やかに微笑むだけだった。
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