第25章 伝説の剣

 ジェネリの世界。
 主を失い荒れ果てた神殿に、人の温もりはない。訪れた者の足跡は少なからず残るものの、それさえも時と共に消え去ろうとしている。
 ギュゥゥンッ!
 もはや死骸と化した神殿に、生命が舞い降りた。しかしその生命もまた傷つき、ここを棺と間違えて身を投げ込んだかのようだった。
 「はあっはあっ!」
 光が弾けると、傷ついた戦士たちはバタバタと崩れた。その中心にいたソアラは、肉体的な傷こそ無くとも片膝をついて顎から大粒の汗を滴らせていた。ほんの一瞬だけ目が虚ろになるが、周囲の景色が彼女を奮い立たせる。
 「く___棕櫚は!?」
 強く目を閉じるとカッと見開き、ソアラはすぐさま髪を振り乱して立ち上がった。
 「大丈夫。衰弱は激しいけど持ちこたえられる。」
 棕櫚は床に俯せに倒れ込んで動かない。ミキャックの魔力を背に受けながら、目を閉じてただ細々と息をしている、そんな弱々しい彼の姿を見るのは初めてだった。
 「私も___」
 「無茶だよ。君にはもう魔力が残ってない。」
 へたり込んでいたフローラが立ち上がろうとする。しかしライが手を取って止めた。その力は決して強くなかった。
 「大丈夫、あたしも回復呪文はだいぶ鍛えたから。」
 両手に暖かな光を灯し、ミキャックは微笑む。しかし彼女の美しかった羽は見る影もない。
 傷はあまりにも深かった。しかし生き延びたこと、それが全てだ。
 「大丈夫か?」
 竜樹がソアラに問いかける。意外な気遣いに驚きながらも、ソアラは頷いた。
 「___もちろん。」
 「俺は分かるんだよ。怒りにまかせて羅刹を出した後は今のおまえみたいになる。体に力が入らないくらい疲れきっちまうんだ。」
 「___」
 オコンを驚かせたソアラの攻撃。あの瞬間だけ、彼女はこれまでの竜の使いとは違っていた。戦いの気配を鋭敏に感じ取る竜樹にはそれが分かっていた。
 「行けるのか?ここはあいつの世界に近すぎる。」
 「行けるかどうかじゃない、行かないといけないのよ。すくなくともエコリオットの世界まで。ただ___その前にみんなに謝らせて。」
 「ああ。」
 「ありがとう竜樹。落ち着ける時間ができたらゆっくり話をしよう。」
 昨日までの情けない姿はどこに行ったのだろう。大切な仲間たちの元へと歩み寄るソアラの両腕、左の無限の紋様も、右のバンダナも、竜樹にはとても誇らしげに輝いて見えた。




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