第24章 乱心

 「我々は二人の偉大なる戦士のために祈りを捧げる。だが安らかな眠りを願うことはない。我々が戦う限り、彼らも共に戦っている。我々が願うのは、この戦いを見守り続けてもらうことだ。彼らとはいずれまたどこか違う場所で会えるだろう。その時に、笑顔で勝利の報告をしよう。」
 レイノラは抑揚を消した重い声で言った。海原を臨むテラスに立ち、台座にサザビーの上着と百鬼のバンダナを置いて、彼女は目を閉じた。後ろに並ぶ者たちも同じく目を閉じ、二人の戦士に祈った。
 「___」
 いつものように、右にリュカ、左にルディーと手を繋いでいたソアラは、これ以上二人に悲しむ姿を見せたくないと思いつつも、肩の震えを止められず、きつく目を閉じて俯くばかりだった。
 「___」
 子供たちはそんな母の姿を見やり、グッと小さな手に力を込めた。母が泣いても、二人は我慢した。
 葬儀は必要だった。遺体もない、墓もない、まして戦いは終わっていない。それでも二人のために祈り、これからまた戦いの舞台に戻るにはどうしてもけじめが必要だった。それを一つの区切りとしても悲しみが消えるわけではない。ただ___
 「僕たちがやらなきゃいけない。絶対に!」
 長らくの戦友の遺品を前に、力強く拳を握るライ。
 「共に戦うことはないわ。私たちの勝利を見守ってくれればそれでいい。今はどうか安らかに。」
 勝利の誓いをなによりの安らぎにしてほしいと願うフローラ。
 「お二人の無念は必ず。」
 もう涙を見せず、代わりに黄泉で垣間見せた冷酷な一面を取り戻した棕櫚。
 「あたしはもう負けない。何があったって挫けることはない。」
 悲しみに打ち拉がれるのではなくそれを克服しようとするミキャック。
 「___」
 ただ手を合わせるだけ。鍛冶作業に臨むときのように、ひたすら平静でいた竜樹。
 「もうだいたいのことは言い尽くした。だから一言だけ。愛しているよ、ニック___ふふ、これではサザビーに皮肉を言われるな。」
 疲弊しながら、しかし振り返ることなく前へと進みはじめたフュミレイ。愛するニック・ホープはもう彼女の背中を見ているだろう。
 「お父さん!僕が悪い奴を全部やっつける!絶対に!」
 「お父さん、サザビーさん、もうあたしは泣きません。次に泣くときは、この戦いに勝ったときにします。」
 情熱と冷静をその身に宿し、ただ勝利のために立ち上がることを強く決意した魂の継承者たち。
 「___」
 しかしそのリュカとルディーの少し後ろで、ソアラだけは何もできなかった。前に進むことも、後ろを振り返ることも、平静でいることも、強い決意を見せることも、何一つできずにただ目を閉じるばかりだった。
 彼女は未だ、絶望の渦に飲まれ続けていた。




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