4 その瞳に映るもの

 ムンゾの世界。
 ゆうべ、ここでは人知れず大きな出来事があった。
 谷を囲むように広がる森、その一角に木々が焼けこげ、砕かれ、なぎ倒され、吹き飛ばされた場所があった。それはある洞窟から森の切れ目まで一帯が破壊し尽くされた跡だった。まだ辺りは燻っていて、これをした人物がそう遠くない時間までここにいたことを物語る。森の切れ目の辺りには、白い羽根が散っていた。
 だがこれは小さな破壊の跡でしかない。
 ゴゴゴゴゴゴ___!
 新しい朝を迎えようというその時、ムンゾの世界は震えていた。
 巨大地震は大地を歪め、大気すらも震わせる。震源地は森に囲まれた谷間。大地が裂け、木々を飲み込み、全てを破壊していく。空から崩壊の景色を見下ろしているのは、全身に力を漲らせた大地神ビガロス、肘を抱いて静観する酒の女神キュルイラ、多くの鳥を従えて周囲に目を光らせる鳥神バルカンだった。
 日が昇る。大いなる一日が始まった。
 「___!」
 日の光を浴びて、鳥の影が踊る。すると、より谷の真上に近い位置を飛んでいた鳥たちの影が突如として千切れた。唐突に鳥たちの首が、翼が、体が、真っ二つに裂かれていた。
 大気の超震動による見えない刃。フェリルの得意技だ。
 「くるぞ!」
 バルカンが叫ぶ。翼から放たれた羽根が宙に広がり、真空の刃の軌跡を露わにする。鳥たちはそれを避けるように飛び、バルカンもまた身を逸らしてやり過ごす。ビガロスは頑強な岩を自らの前に出現させ刃を蹴散らし、キュルイラは酔いどれのような柔らかな身のこなしで、何をするでもなく刃を回避した。
 超振動の刃は罠として仕掛けることの多い技。それを敵に向かって飛ばさなければならない状況が、フェリルの窮地を物語っていた。そして___
 「___なんということか___!」
 ビガロスが呻く。
 「フェイ・アリエル。」
 キュルイラが呟く。
 「間違いない___確かにフェイ・アリエルだ___!」
 バルカンが戦く。
 「___」
 フェリルは現れた。隠れてはいたが、逃げることはなく、フェリルはゆっくりと宙に舞い上がった。顔つきは昔とは違うかもしれない。しかし彼女は確かに三人の知る飛翔の女神、フェイ・アリエルだった。三人は呆然としてしまった。レイノラから聞いても、その目で見るまでは信じ切れなかったのだ。
 「ヘヴンズソード。」
 それがフェリルに隙を与えた。
 「なっ!?」
 フェリルの体が一瞬にして空の高みへと跳ね上がった。見上げると、彼女の周囲に無数の光の点が散りばめられていた。それはすぐさま大量の稲妻となって戦場に降り注ぐ!
 「安息の壺。」
 「!?」
 しかしキュルイラがどこからともなく取りだした酒壺の蓋を開けると、稲妻は瞬時に行き先を変え、吸い寄せられるように壺の口に飲み込まれてしまった。
 「本当に君だったとは___」
 次の瞬間には、バルカンがフェリルと同じ高さに到達していた。彼は神妙な面もちだったが、フェリルはただニヤリと笑うだけだった。その仕草に嘴を歪め、バルカンは怒りを込めて翼を開いた。
 「降魔の羽根!」
 ダーツのような羽根がフェリルを襲う。それは突き刺されば敵の力を奪う魔導の羽根。フェリルを仕留めるのではなく、取り押さえるための攻撃だった。
 「シロッコ!」
 しかし羽根はフェリルの周囲で巻き起こった風にあえなく吹き飛ばされる。強烈な熱風は瞬時に水分を奪い、宙に舞う羽根を罅入らせ、砕け散らせる。ジェネリの秘技はバルカン自身にまで襲いかかり、嘴を干上がらせ、大いなる翼を綻ばせる。
 ゴッ___
 しかし風はすぐに止んだ。熱風の中心にいたフェリルを巨大な岩壁が包み込んだのだ。
 「手ぬるいぞバルカン!敵が三人の神を殺していることを忘れたか!」
 「すまない___」
 バルカンを庇うように立つビガロスは、重厚な声で鳥神を叱咤する。だがバルカンは複雑な面もちで、迷いを消せずにいるようだった。シロッコで艶を失った嘴に、寄ってきたキュルイラが酒瓶を傾けた。
 「無理もないわ。バルカンとフェイ・アリエルは昔なじみだものね。」
 「___そうなのか?」
 ビガロスが眉をひそめる。バルカン自身もキュルイラの言葉に驚いているようだったが、反論しない姿が答えを物語っていた。
 「酒の女神は情報通なのよ。たぶんあたしかオルローヌくらいしか知らないわ。」
 「その話は後だ___!」
 癒しの酒を浴びて潤いを取り戻した嘴で、バルカンはそう吐き捨てた。彼が指さす先では、フェリルを包んでいた岩壁に無数の亀裂が走り出していた。
 ゴバッ!
 ジェネリの奥義は岩を石に変え、石を砂に変える。亀裂から溢れ出した熱風で、巨大な岩壁は無数の石へと砕かれた。
 「砕いたか。」
 だがビガロスは慌てなかった。そうなることは分かり切っていたからだ。石は光を浴びてキラキラと輝いていた。土色の奥に、鋭利な煌めきを宿していた。そして___
 ズドドドドド!
 熱風をもろともせず、大量の弾丸となってフェリルの体に食い込んだ。
 「___!!?」
 古代呪文ソーマで束縛を覆されたときのように、また他人から奪った能力に自信を持ちすぎていたのだろうか?確かにそうかもしれない。しかしシロッコならば小石を砂粒に変えるなど雑作もないはずだった。だがビガロスの石には熱も防御も通用しなかった。
 「おまえ自身がダイヤの弾丸を作ったのだ。見事な研磨だったと言っておこう。」
 ビガロスが檻にした岩壁には大量のダイヤの粒が眠っていた。それはシロッコであっても砕くことができない最強の弾丸となってフェリルを襲ったのだ。
 「が___」
 フェリルの全身、頭から足の先まで大量の穴が開いた。血のシャワーを吹き出して、フェリルの体が仰向けに傾いていく。その顔、体を崩しながら。肉が解れ、溶け出すように、別人の顔をさらけ出しながら。
 「フェリルじゃない!?」
 フェリルどころか、肉襦袢を破るかのようにして現れたのは男だった。しかもフェリルの体を脱ぎ捨てると、筋肉も、骨格までも肥大し、彼女よりもずっと大柄な男に変わったのだ。全身に風穴を開けた男はすでに死んでいる。いや、死んだからこそ術が解けたと言うべきか。
 「オルローヌだ!知恵の傀儡、ウィザドールの術!濃密な知識を植え付けることで極度の暗示に掛け、そいつそっくりの複製を作り出す!」
 キュルイラが叫んだそのとき___!
 コォォォォ___!
 大地震で滅茶苦茶になった地表から、風の唸り声のような音と共に赤紫色の光が立ち上った。
 「!?」
 その光は一瞬にして空へと届く四角柱。四つの角では赤紫色がそれぞれ青や黄色に入り乱れながら、一層強い輝きをもって空の高みに走っていた。
 「ぐ___!?」
 ビガロスとキュルイラが光の中で身を強ばらせる。赤紫の柱の中で、二人の体表面には白いオーラが走り、それは時折スパークしながら彼らの全身を縛り付けていた。背を真っ直ぐに伸ばし、肩を張り、全身の筋肉を怒張させる。意図せずとも、強烈な束縛の力の中で体は自然とそうなっていた。
 「これは!」
 まさに野生の勘か、バルカンだけは危機を予見して飛び退き、かろうじて光の外にいた。そして彼はこれがムンゾの束縛術の中でも最も高等な部類の、「神の牢獄」に使われるものだと知っていた。だが声を大にする必要はなかった。
 「セサストーンよ。」
 フェリルが教えてくれたから。

 赤紫色の光の中で、彼女は悠然と漂っていた。この光の中で束縛を受けないのは術者のみ。つまり彼女は本物のフェリル、飛翔の女神フェイ・アリエルだった。
 「貴様___!」
 ビガロスは怒りに満ち満ちていた。今度のフェリルは先程とはまるで別人だった。苦しむかつての同胞を心から嘲り笑い、獲物を前に邪念で瞳をぎらつかせ、全身から溢れんばかりの欲望を滲ませる。
 先程の偽物とは格が違う。彼女が放つ凄みは、かつて大神バランを殺め、レイノラを襲ったアイアンリッチのそれに似ていた。違うのは、彼女に理性があることだ。それはフェイ・アリエルとアイアンリッチの器が違いの現れであり、彼女がより現実的にGに近づいていることを意味していた。
 セサストーンの監獄があろうと無かろうと、彼女はこの場にいるあらゆる生命に対し、自らの優位性を全身から匂い立たせているのだ。
 「なぜだ___フェイ・アリエル!」
 「説明する意味がないわ。」
 全身を硬直させる束縛の中で、ビガロスは喉をねじ曲げながら叫ぶ。しかしフェリルはまるで聞く耳を持たなかった。
 「おのれ___!」
 神の牢獄セサストーンは全ての力を無力化する。それはかつてジェイローグを封じ、竜樹に破壊されたものの最近まで天界に現存していた、あの巨大な石牢に施されていたのと同じ術だった。つまりビガロスがどんなに力を込めようと、大地を震わせようとしても、ここでは意味をなさない。だが、これはこの直方体を結ぶ角の基点があってこそ意味をなす。いわば水虎の陣にも似た能力なのだ。
 二人の神もそれを思い出した。
 「バルカン!基点を破壊しろ!」
 ビガロスが声を荒らげる。フェリルは意地悪に頬をつり上げた笑みで、それをただ見ているだけだった。
 「___」
 楽天的なキュルイラが青ざめていた。呆然と開けた口、肉感的なその唇を震わせて、ただ一点だけを瞬きもせず見つめていた。
 恐ろしかった。いまこの理解しがたい事実に向かい合って、彼女は混沌の渦中にいた。叫びたかったけど、恐怖で声が出なかった。叫ぶことを、ビガロスに伝えることを忘れさせられていた。

 束縛された瞬間の体の向きのあやだった。彼女は少し離れた位置でビガロスの方を向いていた。フェリルは二人の間に漂い、キュルイラも、フェリルも、ビガロスの肩越しに彼の後ろを見ていた。

 そこにいる男を。

 何食わぬ顔で神の牢獄に入り込んできた鳥を。

 鳥神バルカンを。

 ビガロスの背後で、バルカンは嘴を開けた。その喉奥で、破滅の輝きが渦を巻く。
 「キュルイラ___なんだというのだ!?キュルイラ___!」
 呆然として顎を震わせるキュルイラに、ビガロスは問うた。そして気が付いた。フェリルがバルカンに基点を破壊される可能性を恐れていないことを。彼女の大きな目、その瞳に小さな光が映っていることを。それが鳥の嘴の奥にあることを。
 「なんということだ___」
 愕然とするしかなかった。この男は、おそらく十二神の中でも最も誠実な好漢だった。その鳥神が!?
 「なぜだ!バルカン!」
 それはビガロスの心の叫びだった。しかし答えはない。ただ、フェリルの瞳に映る光が大きくなっただけだった。

 カッ___!

 瞬間、牢獄が解れた。四角柱が三角柱へと変わっていた。ビガロスとキュルイラは未だ赤紫の光の中だったが、バルカンは外にいた。それはつまり、バルカンの攻撃に立ちはだかるスペースができたと言うことだった。
 鳥の喉奥から放たれた破壊光線は、無力化した地神の背中に抉り込む前に、漆黒に食い止められていた。
 「間に合ったか___」
 立ちはだかったのはレイノラだった。白黒逆の右目を露わにし、夥しい黒い波動で破壊光線を蹴散らしていた。
 「!」
 レイノラの背中をさしたる驚きもなく見ていたフェリルは、思い立ったように地表へと飛んだ。そして地震で滅茶苦茶に入り乱れた森の中へと飛び込む。
 「く___!」
 そこには海神オコンがいた。
 「せこい真似しなさんな。」
 フェリルの後ろにはセサストーンの基点があった。四角柱を三角柱に変えたのはオコンだったのだ。しかし三点あれば束縛の効果は持続する。次の基点を狙ったオコンに対し、フェリルの行動は早く、的確だった。

 「レイノラ!どうなっているのだ___バルカン!答えぬか!」
 レイノラとバルカンの対峙は無言だった。レイノラはただバルカンを睨み付け、バルカンは無表情でいる。いきり立つビガロスの声だけが響いていた。
 「何かの術で操られている___とか?」
 キュルイラはビガロスよりも冷静だった。いや、あまりに馬鹿げていて、信じられないと言った方が良いのかもしれない。希望的観測を口にする彼女は、引きつった笑みさえ浮かべていた。
 「バルカンは私たちの敵だ。」
 「!」
 しかしレイノラは毅然とした口調で、希望をうち砕く。
 「それは紛れもない事実だ。勇気ある男が見た、確固たる事実だ。」
 バルカンは答えない。それがビガロスを苛立たせる。
 「まことか___まことなのか!?___答えよ!バルカン!」
 そして___
 「予定より早い露見だった。」
 「!!」
 あざ笑うように嘴を歪め、バルカンは答えた。それはビガロスとキュルイラが消せずにいた僅かな望みさえ、粉微塵にする言葉だった。
 「もう少し密やかにしていたかったが、君の部下たちのおかげで予定が変わったのだ。良い部下を持ったものだな、レイノラ。」
 昔のバルカンを少しでも知るものなら、今の彼の姿を現実と受け入れるのは難しかった。鳥神バルカンは大らかで誠実で思慮深い男だった。それが今は、サザビーの死を嘲り笑い、レイノラを挑発するための餌程度にしか見ていない、傲慢と強欲の固まりと化している。
 「言いたいことはそれだけか___?」
 レイノラは低く、重い声で言った。彼女を包む闇のうねりが激しさを、凄みを増していく。闇の中で黒い長髪が躍り、色の反転した右目の奥底では暗黒が渦を巻く。
 「それ以外に何がある?私は彼のことを大して知らないんだ。虫を踏みつぶすときに、いちいちその虫の生き様を省みるのか?」
 その言葉が決定的だった。レイノラの体から溢れ出た闇が無数の帯となってバルカンに襲いかかる。だがバルカンは意に介する様子すらない。
 ドッ___!
 むしろその場から弾き飛ばされたのはレイノラの方だった。しかしそれはバルカンの攻撃ではなく、オコンの体当たりだった。
 「!?」
 レイノラはすぐさま宙で踏みとどまり、今まで自分のいた場所を振り返った。
 「オコン!」
 彼女が見たのは、赤紫の柱の中にいるオコンだった。起点を破壊されて四角柱から三角柱に変わったセサストーンが、再び四角に戻っていた。
 「すまない___迂闊だった___セサストーンを破壊するどころか俺まで檻に掛かるとは___」
 全身を硬直させながら、オコンは口惜しさを滲ませて言った。彼が弾き飛ばしてくれなければ、レイノラも神の監獄に封じられていたのは間違いないだろう。だが___
 「甘すぎるわ。こっちには十分時間があったのよ?予備の基点を用意してないわけがないじゃない。」
 森にいたフェリルが浮上してきた。殺意に満ち満ちた笑みを称えて。
 「さて、闇の女神レイノラ。君の怒りはこの窮地を切り抜けられるか?」
 バルカンは顎を突き上げて問いかける。彼は自らの勝利を微塵にも疑わない自信を漲らせていた。
 「___」
 檻には囚われなかった。しかし檻の外には地獄の番鳥が二羽、逃亡者を食い散らかす事だけを考えて待ちかまえている。
 (サザビー___)
 しかしレイノラは怯まなかった。あの男の顔を思い浮かべるだけで、彼女の体は戦いの意志に満ち満ちていった。

 その報せを知ったのはほんの少し前、夜明けとほぼ同時のことだった。闇の鏡を使える時間ではなかったが、我が娘のようなフュミレイが、悲しみを振り払って全てを知らせてくれた。フュミレイが会得している闇の力、それをレイノラの闇の力に感応させる。教えたわけでもない神の領域の意志疎通法を、彼女は傷ついた心でやり遂げたのだ。
 「サザビーが敵を暴きました。敵は鳥神バルカンです。その代償に、彼は命を失いました___」
 その瞬間、フュミレイは毅然としていた。レイノラの方がむしろ動揺し、僅かながら目を泳がせてしまった。
 「凛様___私もすぐに戦場へ___」
 「いえ、あなたはそこに残りなさい。皆と悲しみを分かち合いなさい。」
 「___しかし凛様の向かわれる戦場にはバルカンが___」
 「いるでしょうね。おそらくバルカンも全てが白日の下に晒される覚悟だろうから___」
 「では___」
 「だからこそ残りなさい。私が戻ると信じなさい。」
 「___」
 「今は彼のために祈りなさい。」
 「___分かりました。ご武運をお祈りします。そして___どうか生きてお戻り下さい。サザビーのためにも。」
 「もちろん。」

 敵は強い。しかも今対峙している二人は、二人であって二人でない。おそらく勝機は乏しいだろう。ただ、それでもやらなければならないのだ。ここでの敗北はさらに三人の神の死と、二つの邪悪がより一層Gに近づくことを意味するだけでなく、彼の死をも無駄にすることになる。それだけは絶対にあってはならない。
 (偉大なる父よ、闇の神ウルティバンよ。古き言いつけを破ることをお許し下さい。そして私に戦う力をお与え下さい。)
 ボッ___!
 レイノラの全身を覆っていた闇が一気に勢いを増して膨れあがり、無数の帯となって彼女の体を包み込んでいく。それは幾重にも入り乱れた繭のようになり、やがて黒い輝きを放って中心に吸い込まれるように消え去った。
 「へぇ。」
 フェリルが感心した様子で言った。もちろん笑みは絶やさずに。
 「闇の神ウルティバンは戦いのモードを持っていた。やはり鷹は鷹を産む。」
 バルカンは良く動く目でレイノラを眺めていた。その変化をじっくりと観察するかのように。
 「___」
 レイノラが変わった。ドレス風だった装束は、武闘着のような形に変化していた。黒一色に見える布地には、よく見れば絶えず闇が揺れ動き、それは右手に握られた漆黒の鞭、左腕を覆う手甲にしても同じ事だった。
 色の違い、光と闇の違いはあるにせよ、その姿はドラグニエルによく似ていた。形だけでなく、主人が戦意を露わにすると服に棲む何かが躍動するところまでそっくりだった。
 (父よ___お力添えに感謝いたします。そして___)
 額に現れた銀色のティアラは彼女の前髪を持ち上げ、白黒逆した右目を隠させない。ソアラが黄金に輝くように、レイノラは闇に輝いていた。黒い波動を漲らせ、全身から戦いの意志を溢れ出させていた。
 彼女は諦めていない。怯んでもいない。全身全霊を持って二人の悪鬼に挑むことしか考えていない。彼女を突き動かすのは世界のため?過去の清算のため?愛する人との約束を果たすため?それもあるだろうが、今は違う。
 今は、一人の男のために闘う。
 (誇り高き戦士、サザビー・シルバよ。私に力を___!)
 決死の覚悟を胸に、レイノラの戦いが始まった!




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