第21章 楔

 小さな水晶の中で大きな動きがあった頃、ムンゾの世界から三つ向こうの森の女神リシスの世界にも動きがあった。
 計ったように「楔(くさび)」は打ち込まれる。ライとフローラがレイノラと話し、戒めを受けたすぐ後に、大きな楔が一面の森を揺るがそうとしていた。
 「ここか___」
 青年はダ・ギュールの言葉を思い出す。
 「ターゲットは慎重な婆さん。まずは世界を荒らし回れ___だったな。」
 青年の両手に炎が灯る。炎の中にちらつく黒。彼の顔に描かれた紋様の黒と同じく、光を受けても褪せることなく漆黒のまま。
 「木には火だ!」
 そして青年は、眼下の森に向けて特大の火炎を放った。火は森の一角を松明に変えるかと思えた。しかし潤いに満ち足りた緑の木々は、炎をもろともしない。
 しかしそれは、ただの炎ならである。
 「暗黒の火種がそう簡単に消えるかよ!」
 橙に輝く炎は消えた。しかしそこに塗されていた黒い炎は生きていた。それは意志を持って木々のうろに潜り込み、敢然と燃え続けた。リシスの息が掛かっているとはいえ、木であることには変わりない。体の内に潜り込んだ消えない炎に、木が一つ、また一つと黒く燃え上がる。
 「俺様は暗黒神官ダ・ギュールの愛弟子だ!嗄れたババアをあぶり出してやる!」
 青年は徐々に勢いを強めていく黒い炎を見下ろし、けたたましく笑った。狂気の沙汰。しかしその顔立ちには確かにライの面影があった。




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