第20章 奪還

 酒の女神キュルイラの神殿にて。もう夜更けだというのに窓からは灯りが漏れ、テラスから下を覗き見れば神官たちが酒樽を囲んでやんややんやと騒いでいる。酒の女神その人と同じように、人々は一夜の勝利に酔いしれていた。
 勝利の美酒は交わした。しかしレイノラが心から安堵することなどあり得なかった。
 無理もない、こうしている間にも彼女の知らないところで同士たちが命を削っている。またどこかから悪い報せが来るかもしれない。
 (オコンの言葉は正しい___)
 レイノラは漆黒の夜空を見上げ、ふとそう思った。思い出されたのは、ジェネリを失い苛立ったオコンが彼女に向けた言葉___
 「おまえは何をしてくれるんだ?」
 確かにその通りだ。ここまで私に何ができただろう。戦いではアヌビスにさえ抗えず、第二のGとなりうるフェリルのことはまだろくに知りもしない。フュミレイたちがその核心に触れようかという時、こんなところでただ待つことしかできないのか?
 「ジェイローグ、不甲斐ない私を叱ってくれ。」
 夜空の果てを見つめて目を閉じる。その遙か向こうの青空を思い浮かべ、レイノラは呟いた。
 その時___
 「!」
 レイノラは振り返った。テラスへと続く部屋はキュルイラが用意したくれたもの。可愛らしいテーブルの上で、鏡がボンヤリとした青い光を浮かべていた。
 誰かからの連絡だ。フュミレイではないだろうから、オコンかバルカンかリーゼか、あるいは行方の知れないフローラか?レイノラが鏡を手に取るとすぐさま鏡面が黒一色へと変わり、続いてそこに映し出されたのは___
 「遅くなりました。」
 棕櫚だった。




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