第19章 誰か
セラの世界。
「そんなことないよ。お姉ちゃんは僕たちの味方さ!」
「そうかなぁ___いてて。」
ルディーの手を引いて、リュカは林を奥へと進んでいく。グレインの不意打ちから目覚めたルディーは、まだ痛そうに首に片手を当てて不機嫌な顔だった。
大人たちほど深く立ち入っているわけではないにせよ、竜樹がアヌビスの一味であり、しかもこちらの世界への扉を開いた張本人であり、彼女のせいで母が巻き添えを食ったことくらいは分かっている。リュカのウキウキとした顔が信じられないというのが、ルディーの偽らざる本音だろう。
「お姉ちゃん!」
藪の向こうに立ちつくす竜樹がチラリと見えた。リュカはルディーの復活を報せようと元気良く藪を突き抜けてきた。
「!」
竜樹は驚いた顔をしていた。リュカは身を強ばらせ、嫌々ながらに藪を抜けてきたルディーも目を見開いた。そこに転がるグレインの骸がそうさせた。
「あ___ああ___!」
他人なら良いというものではないが、竜樹の足下に転がっていたのは知った顔だった。こういった光景は黄泉でも何度か見ていたが、つい先日まで一緒にいた男、ましてルディーはこいつに因縁がある、その人物が今目の前で死んでいるというのはあまりに衝撃的だった。
パキッ___
グレインの死体が崩れはじめた。その欠片の音が静寂を断つ。
「うあああ!」
ルディーの手が猛烈な輝きを放つ。激情に任せて、彼女の魔力は一気に高ぶった。
「ディオプラド___!」
「駄目だよ!」
白色の爆裂弾が放たれる。すぐに林に爆音が轟いた。
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