第１７章　二人の戦神

　そこに来るに至っての特別な感慨はない。ただいつもより集中していたのだろうか、得意の迷い癖が今回はなりを潜めていた。木々の緑をくぐり抜け、川岸を上流へと進み、やがてたどり着いた湖。向こう岸に見える山の切れ目を抜けると、周囲を山々に囲まれた平原が現れる。目指していたものはその先にあった。
　一人だから喋ることもないが、それにしても口を紡いだ思案顔で、竜樹は走り続けた。
　「あれか＿＿＿あそこにセラが＿＿＿」
　ようやく一言呟いたのは、垣根に囲まれた庭園、その中の閑静な館を見たときだった。
　＿＿＿
　木組みの門には番兵などいないし、蹴破ろうと思えば蹴破れるし、乗り越えるのも簡単。ただ礼儀として、小さな門を前に竜樹は襟を正した。
　「たのもぉぉっ！」
　そう威勢良く叫んでから、約三分待つ。いつもより辛抱強かったのは、彼女も緊張していたからだろう。
　「ほいほい。おまちどうさま。」
　門扉がキィと軽い音をたてて開くと、顔を出したのは白髪の老人だった。
　「あんたが戦神セラか？」
　「いえいえ、私はただの召使いでして。」
　「セラに会いたいんだ。入ってもいいか？」
　また少し待たされるかもしれない。ただ今日に関しては、待てと言うならいくらでも待ってやるという覚悟があった。竜樹はここに来るまでの道すがらで、戦神セラには決して失礼の無いように振る舞おうと心に決めていたのだ。
　「親方様もあなたの帰りをお持ちもうしておりました。ささ、中へ入られなさい。」
　だが老人の答えは竜樹にとって思いがけないものだった。あっさり招き入れられたどころか、「帰りを待っていた」というのは＿＿＿
　「＿＿＿ありがとう。」
　そう答えて門を抜けたとき、竜樹は思わず固唾を飲み込んでいた。




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