第13章 覇王誕生の夜に

 「へえ、お母さんに弟なんていたんだ。」
 部屋の中にはソアラとルディーだけ。弁天堂から帰ってきたソアラに先程のような動揺はなく、彼女はありのままを我が子に伝えた。
 「ごめんね___」
 「___もう怒ってない。でも___もう嫌いにさせないで。」
 ルディーはソアラの目を見ない。顔を背けたまま、それでもありったけの勇気を振り絞って、彼女は震える声で言った。
 「もうお母さんのこと嫌いになりたくないから___!」
 「ルディー___」
 自分の言葉を引き金に、強がりなおませさんの顔がクシャクシャになった。
 「だって___だって___お母さんいつもいなくなって___あたしの知らないところで変なことばっかりして___!」
 変なこととは玄道とキスしたことではない。アヌビスとの戦いに夢中で自分たちを置き去りにしてしまうことだ。天界で一度は「戦っているお母さんが好き」と言ったものの、強がりな彼女の言葉を額面通りに受け止められようものか。地界への旅しかり、手紙を残して去った天界への出立しかり、ルディーは多感だからこそ、ソアラがこちらを振り向いてくれないことが不満だった。それが玄道との一件をきっかけに彼女の中で爆発した。
 「これ以上変なことしたら本当にお母さんのこと嫌いになっちゃうもん___そんなのやだもん___!」
 泣きじゃくるルディーをソアラは抱きしめた。慰め方は色々あるが、今はそうすることしか考えられなかった。とにかく彼女を自分の胸元に抱き留めたい一心で、ソアラは衝動的に動いた。
 「ごめんねルディー___駄目なお母さんだけど、それでも何よりもあなたとリュカのことを愛しているから___」
 「うわああああ___!」
 幼い噎び泣きは、いつまでもソアラの胸の中で響き渡っていた。




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