第7章 行動せよ!
「そうか___千人殺しのことを語ったか。」
鴉烙は車椅子の車輪を軋ませ、甲賀を見るでもなくその話にだけ耳を傾けていた。
「風間は積年の恨みを抱いてここに戻ってきたのです。確かに鴉烙様の能力はあまりにも絶対的でありますが、奴が鵺様を骨抜きにでもすればただごとではありません。」
「鵺がそうなると思うか?」
甲賀は至ってまじめに話したつもりだったが、鴉烙は鼻で笑っていた。
「もしなった場合、厄介だということです。」
甲賀は本来鴉烙の前でも頑とした自我を持つ男である。扉で凄まれると引いてしまうのは、実際鵺を怒らせて死ぬほどの恐怖を味わったことがあるからだ。
「うむ、確かに鵺は私の側にいなくてはならない。娘の命が万が一にでも奪われることだけはあってはならない。」
鴉烙は葉巻を取り出し、その先をナイフで切り取る。
「外向きの目をした男どもに懐かれるのは、あまり良いことではないな。」
いつの間にやらテーブルの上では甲賀の右手が火のついたマッチを摘んでいた。鴉烙が葉巻に火を灯すと、手は甲賀の元へと戻っていった。
「そうです。風間は鴉烙様のお命を狙い、砂座には全くの忠義心もございません。」
「鵺から遠ざけるには外に出すしかあるまい。あやつの側にはおまえにいて貰うことになる。」
「それは___構いません。鴉烙様に認めていただいていることを実感できる勤めと考えます。」
扉の恐怖が頭をよぎらなかったと言えば嘘だが、甲賀はしっかりと気をつけしたまま己の胸に手を当てた。
「よかろう。さて、風間どもには___」
鴉烙はテーブルの引き出しから薄い紙の綴りを取り出し、数ページばかり捲る。
「こやつだな、今までは静観していたが、そろそろ堂々とした女の化けの皮に手をかけてみたい。」
そのページに記された名は___姫凛。それは判の押されていない契約書だった。
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