第6章 転換期

 「もうちょっとだよ。」
 「うん。」
 すでに森は暗くなっていた。日は陰りはじめ、昼間から薄暗い森はじきに何も見えない闇に覆われる。膝まで簡単に潜り込む雪を必死にかき分けて、子供たちは進んだ。
 ギシギシ___
 風が吹くと木々が撓り、目前に雪の固まりが落ちてきて壁となった。霜焼けで赤くなった頬の少女が雪の固まりに手をさしのべて炎を放つ。雪はすぐさま溶け落ち、再び道が開いたが少女は辛そうな顔をしていた。
 「大丈夫?」
 「平気よ!」
 少年が心配そうに彼女の顔を覗き込む。すると彼女は必死の強がりで気勢を上げた。
 深い森の中、雪をかき分けて進むリュカとルディー。父に内緒で半日かけてこの森までやってきた。二人にとっての「先生」に助けを求めるため。だが脚は感覚がないほどに悴み、もう一時間もしないうちに森は暗やみに包まれるだろう。不安が二人の胸中に渦巻いていた。
 「グルル___」
 食べ物の少ない森。浅い灰色の被毛を纏った大熊が、恰好の獲物を見つけて喉を鳴らしていた。
 「なんだかどっち行ったらいいのか分からなくなって来ちゃったね___」
 「やっぱりお父さんに言ってから来れば良かったんだよ___」
 弱音を吐くリュカの頭をルディーが拳骨で叩いた。
 「それは言わない約束でしょ!」
 気性が良く現れている。リュカは言い訳もせずに頭を抑えていた。足を止めた二人___そのとき!
 「グアォウッ!」
 大熊が木々の狭間から勢いよく飛び出した。ただ二人は飛び上がって驚くどころか、天性の感覚で身を翻していた。ルディーは瞬く間に手のひらを輝かして爆発呪文プラドを大熊にぶつけた。
 「う___」
 しかし雪を溶かしながら進んだ道のり、幼い体に秘められた魔力も限界に達しようとしていた。意識を失うようによろめいたりディーをリュカが抱きかかえて必死の横っ飛び。大熊の爪は空を切ったが、牙を剥いて倒れた二人にすぐさま食らいつく!
 「そこまでにしておけ。」
 が、大熊の動きがピタリと止まった。子供たちと熊の狭間には、かつてを思い起こさせるほどに凍てついた目のミロルグが立っていた。熊はすぐさま数歩後ずさると、くるりと尻尾を巻いて走り去っていった。




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