第5章 動乱始まる
(全く馬鹿げている。)
漆黒の長髪。テーブルの上に図面を広げ、沈黙のまま睨み付ける一人の男。その図面はどこかの城の謁見の間のようである。そして彼の後ろには衛兵であろう、詰め襟の制服を着た男が二人。
(水虎様を私が殺めたなど___)
睨み付ける男は天破。広げられた図面は「暗殺の現場」のものであった。
スッ___
天破の手元に細長い針が飛んでくる。針の頭には赤い玉が着いていた。
いま彼の周辺でさえ、この暗殺は天破によるものでは?との声が聞かれ始めている。それは水虎の殺され方が原因であった。
(あのとき、水虎様は玉座に座られ___その直後に無人の剣に急所三点を刺し貫かれた。)
剣は壁に装飾品として駆けられていたものだが、覇王の謁見の間になまくら剣があるはずもない。水虎が己の居場所に腰を下ろした直後、三本の名剣が背後から彼の胸、首、顔を貫いたのである。殺害の現場には、天破も、餓門も、彼らの側近格である妖魔たちもいた。騒然とした現場、水虎がすでに絶命していると判明するや否や、餓門が天破を罵った。
おまえの仕業だ!と___
それが争いの始まり。しかし天破は不利である。それは彼の能力が「念力で物体を自在に操る」ことだからだ。あの当時、剣には誰も触れていなかった。水虎の後ろには誰もいなかった。だとすると、最も安直にこんな暗殺ができるのは天破だけなのである。
(だが、もし私がやるとすればもっとうまくやる___これは私に疑いをかけるための手段だ。)
針を図面の玉座に刺し、天破はじっと紙を見つめる。彼の手元には次から次へと針が飛んでくる。
(それにしても___水虎様がなぜこれしきの殺意を感じ取れなかったのか___それが何よりも不思議だ。)
剣が駆けられていた場所、その当時の人物配置を正確に思い起こしながら、天破は針を刺していく。
(仕組んだのは餓門だ___だが、裏付けはない。)
己の無実を証明するためには、暗殺の仕掛けと実行犯を捜し出すしかない。水虎の右腕かつ頭脳と呼ばれた男は、じっと腕組みして針だらけの図面を睨み付けていた。
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