2 開戦の狼煙

 「ふぅん、なるほどなるほど。」
 榊の趣味で左右二箇所を結った髪型に変えたソアラは、屋内庭園の庵で熱心に仙山の話に聞き入っていた。
 「つまり妖魔の能力は、家族性のものと突発性のものがあるわけね。」
 「そうだ。」
 会話の始まりはソアラが妖魔の能力に疑問を抱いたことからだった。妖魔も男女が交わって子を授かるのだというけれど、その子はいったいどんな能力を得ることになるのか?である。
 結論からいえば、男親の能力が引き継がれる確率が高い。能力そのものを引き出すまでの時間はその子の資質如何だが、おおむね父の能力をそのまま引き継ぐか、そこに母の能力が何らかの変化をもたらしたものになるという。こういった能力を家族性といい、妖魔の中でも血縁の距離を測る物差しにもなるそうだ。
 「仙山の場合は家族性なの?」
 「そうだ、私は直に触れなければ色を塗り替えることはできないが、父は色を飛ばすことができた。ただし精密な描写はできない。」
 「そうすると、その辺がお母さんから受けた影響ね。」
 「そうだな。」
 妖魔の能力については他にも分類がある。それが能力の質、大きく分けて、攻撃型、変身型、特殊型である。攻撃型とはつまりソアラの呪文のようなものを意味する。能力で直接相手を傷つけられるものだ。変身型はその名の通り、変身である。妖魔ではないが竜の使いなどはこれに似ている。特殊型はその他の能力。より細分すれば、直接的な攻撃能力を持たない補助型と、攻撃能力を発揮するのに身体の一部分に変化を生じる変化型、全くどの範疇にもない特殊型となる。仙山は補助型、榊の能力は特殊型である。
 「姫の能力も家族性なのかしら?」
 榊に仕える者は彼女を姫と呼ぶ。なぜならサカキサマとは言い辛いから。
 「いや、突発性だ。そのために姫は___」
 「仙山。」
 彼の背後に唐突に闇が開き、仙山は少しあわてた様子で襟を正し、正座した。
 「お役目ご苦労様でした、姫。」
 ソアラも正座して礼をする。相変わらず馴染むのが早い。
 「うむ。由羅、深い興味を抱くのは大いに結構、しかし我がことは我に問え。良いな?」
 「はい、肝に銘じます。」
 「仙山も、慎め。」
 「はっ、申し訳ございませぬ。」
 榊に仕えてから早くも五夜が過ぎ、少しずつこちらの時の流れに体が慣れてきた。サザビーとミキャックのことは心配で仕方ないが、今は自由がない。それに榊と喧嘩をしても、いい結果にはならないと感じていた。今更ながら、人を対象にしたヘブンズドアを研究しておけば良かったと思う。
 「由羅、これを頼む。」
 榊はソアラにパンパンに張りつめた小さな布袋を渡した。
 「はい。」
 ソアラが受け取った袋の中には、大小様々な植物の種が詰まっていた。これを見るたびに棕櫚の名が口をついて出そうになるが、それは禁句だ。
 「ぬしの能力は役立つが、余り易々と人に見せつけるものではないぞ。あらゆる妖魔がもっともほしがる情報が、そやつの能力の正体じゃからな。」
 「でも使えるものは使った方がいいですよね?」
 「それはそうじゃな。」
 ソアラの微笑みに榊は頷いた。渡されたのは農作物の種だ。一夜の長さに変化が生じる以外、黄泉に気候変動はない。しかし、時に気まぐれで雨や雪が降ることはあるそうだ。農作物は収穫と種まきがうまく循環し、作物の備蓄が滞らないように栽培されている。しかし気まぐれの雨や雪で作害が起こることもしばしば。朱幻城も百夜前に見舞われた大雨で、この時期になって不作と種の不足に悩まされている。妖魔と妖人の立場については厳格でも、榊は下位の者を労ることは忘れない。いまもこうして自ら畑に赴き、妖人たちを労ってきた。
 「それじゃ、また苗まで育ててみます。」
 「助かる。」
 ソアラは自らのアイデアを榊に認められ、一つの役目を預かっている。呪文で温室と強い光を作り出し、種の成長を早めようと言うのだ。現在、豊富な食糧の備蓄を削って朱幻城の食は成り立っている。それを早く元の水準に戻すための良策だった。もちろんまだ実績がないため、色々な種類の種を少しずつ任されているに過ぎないが。
 「しかしぬしは変わった奴じゃ。我らの目で見るからかのう?」
 おかげで榊に対する信頼は向上した。彼女はこうして雑談にも応じてくれるし、食事を共にしてくれたりもする。
 「あたしの故郷でもこの色のせいで変わった奴って思われてましたよ。」
 「色?」
 「珍しいんです、あたしたちの世界では。」
 榊はその能力と役割ゆえ張りつめた気配を持ってはいるが、それが本当の姿ではない。まだ短いつきあいではあるが、彼女は若く、口と態度は厳しくても根は優しい人柄であると感じた。現に今だって、パッチリとした目をさらに輝かせた好奇心旺盛な顔で、畳の上に座り込んだくらいだ。
 「ぬしは我らのことばかり勘ぐるが、私とて異界に興味がないわけではない。話して聞かせよ。」
 「喜んで!」
 互いの距離を近づけるには、互いのことを知り合うのがいい。もっと榊に信頼されるために、聞いてくれるのなら彼女に旅の話をするのも良いと思った。サザビーやミキャックのこともよく説明し、捜索に出ることを許してもらう必要だってある。
 しかし、こういうときに限って間の悪い報せが飛び込むものだ。
 「姫!」
 庵の壁を抜け、榊を呼ぶ声がする。
 「姫!どこにおられますか!?」
 ヒステリックに榊を呼び回る声、どうやらただごとではなさそうだ。
 「仙山。」
 榊は憮然とし、顎で戸を指す。仙山は頷いて立ち上がり、戸を開けて顔を覗かせた。
 「何事だ?騒々しい。」
 「これは仙山様!姫はどちらに!?」
 顔いっぱいに冷や汗を浮かべた禿頭の妖魔は、仙山の見つけると一目散に駆け寄ってきた。彼は薫族(くんぞく)と呼ばれる一族で名は唐木(からき)。水晶を使って言葉を送受をする、つまり電報の能力を持っている。薫族は皆この能力を持っており、大派閥の幹部妖魔は側に一人置くのが通例。
 「ここにおわす、そのまま申せ。」
 「ははっ!」
 薫族はその場で跪くと、体を小刻みに震わせながら大きく息を吸い込んだ。
 「天破様が水虎様殺害の罪で餓門により身柄を拘束!」
 そして叫ぶ。その言葉を聞いたとき、仙山は無意識に「なに?」と呟き、榊は表情も姿勢も変えず、開いた扉の向こうを見つめていた。
 「天破様は罪を認め、手打ちに処されたとのことです!」
 榊の様子を窺えるほど冷静だったソアラも、その言葉には凍り付いた。仙山は言葉を失い、榊はただじっと一点を睨み付けたままでいる。
 「その報せはどこより送られたものだ!?」
 仙山の語気も強まる。
 「金城です!」
 冗談ではない___薫族が金城というのだから間違いない。
 「姫!」
 振り向いた仙山は鬼気迫る顔をしていた。すぐには言葉を発しない榊に緊張が高まり、ソアラも息をのんだ。 
 「これで餓門が派閥の長か。」
 若さに似合わないほど冷静沈着に、榊は呟いた。
 「計略に違いありません!」
 「わかっておる。」
 苛立つ仙山をよそに、榊は立ち上がった。
 「しかし落ち着かねばなるまい。これは宣戦布告の報せではない、我らがいきり立って戦を始めてはそれこそ餓門の思うつぼじゃ。」
 「それが狙いだと思います。天破派を抹殺して自分が頂点に立つ。水虎を殺したのもおそらく___」
 言いかけたソアラの口を扇子の先が押さえた。
 「慎まぬか、由羅。」
 「___すみません。」
 榊に戒められ、ソアラは口を詰むんだ。榊だってそれは分かっているんだ。でも、それを声を大にして言えるだけの確証がないだけ。
 「羅生之宮(らしょうのみや)へ行く。仙山、吉良に警戒を強めさせよ。」
 「はっ。」
 「私にも何かお役目を。戦いは得意なんです。」
 じっとしていられる性分ではないのだ。ポポトル時代の経験があればこそ、ソアラは榊の力になれる自信があった。榊は大きな目でソアラの紫色の瞳をじっと見つめる。そして___
 「よかろう、私と共に参れ。」
 「はいっ!」
 ソアラは力強く頷き、立ち上がった。

 榊に手を引かれ入り込んだ黄泉の闇の中は、奇妙な空間だった。所々青みがかった雲のような物が見え、全てが真っ黒でなかったことは驚きだが、上下左右さえ定かでなくなるほど身体が安定しない。大地に足を据えられるのは引力があるから。その力が様々な方向から働いて、身体を引き千切られるような苦しさがあった。魔力で浮遊しようとしてもうまくいかないだろう。短い時間とはいえ、闇を観察できたのはこの中でも平然としていられる榊が手を引いてくれたからだ。
 「!」
 光が目を打つ。見やった先には白い円が開き、唐突に凄まじい勢いで身体がそちらに引っ張られていった。これが榊の能力。彼女は異常な闇の中を自在に動き、目的地を見つけて出口を開く。
 「わっ!」
 「くっ___」
 現れたのは木造の小さな宮殿の上空。空に放り出されたことで榊を巻き込んで落下しかけたソアラだが、素早く魔力を解放して浮遊する。
 「気をつけい。」
 「すみません。」
 グンと下に引っ張られた肩に手を触れて榊は顔をしかめた。ソアラは彼女の身体を支えるようにして気遣ったが、榊はその手を払った。
 「世話を焼くでない。ゆくぞ。」
 「___はい。」
 些細なことだったが、彼女が苛立っているのがよく分かった。榊は落ち着いているように見せて、本心を胸の奥底に押し込めている。
 (煙たがられてもフォローしなくちゃいけない。あたしは彼女の部下なんだから。)
 眼下に見える木造の宮殿に向かう榊の後ろに続き、ソアラは飛んだ。

 羅生之宮は高台にあり、建物の前には石畳と階段、それから___
 「あれは___なんですか?」
 階段を上りきったところに朱色の柱が立っていた。柱は二本の支柱で繋がって、組木のようにも見える。
 「鳥居。神の出入り口じゃ。」
 「へえ___」
 文化の違いとはおもしろいものだ。番犬のような石像に目を奪われたりしながら、ソアラは榊を追った。狛犬というらしい石像の間を抜け、靴を脱いで木造の宮に上がる。木の軋む音を聞きながら、正面の障子を開くと蝋燭が揺らめく板の間が広がった。
 「!」
 殿に居座る仏像が橙の光で浮き上がって見え、ソアラはギョッとして肩を竦めた。
 「愚かしき事態となったな、榊。」
 仏像に目を奪われて気づくのが遅れたが、宮の中には二人の人影が待ちかまえていた。
 「遅かったではないか!あいかわらずおまえのところの薫族は出来が悪いな!」
 一人は体が大きく、太い眉毛は天に向かって突き上がる。いかにも血の気の多そうな妖魔。
 「気にするな、赤辰(せきたつ)は気が立っているのだ。」
 もう一人は弁髪で隻眼の妖魔。冷静沈着だが、近寄りがたい風格を持つ。
 「おい、羅生之宮に連れを帯同か!?」
 赤辰はつり上がった眉をさらに厳しくして、ソアラを睨み付けた。彼の全身から感じられる包み隠さない力強さにソアラは息を飲んだ。
 (凄いな___八柱神___いやそれ以上の力を感じる。)
 「申し訳ございませぬ。しかしこの者、新参ではありますが知恵と力は一流。是非お二方に一度お目にかけたく連れて参った所存にございます。」
 ソアラはその言葉を素直に喜んだ。榊の側近の筆頭である仙山とまともに渡り合ったことにより、榊はソアラに一定の評価を与えていたということだ。
 「なるほど、慎重なお主が新参を愛でて連れて参るとなると___」
 弁髪の妖魔はそこまで言いかけ、思い出したように口を詰むんだ。榊の斜め後ろにいたソアラは、彼女の横顔に影が差すのを感じる。
 「棕櫚以来だ。おまえが利用されるだけされて逃げられたあの女々しい男よ!」
 「よさぬか、赤辰。」
 榊は唇一つ噛まない。ただ、その指先が微かに震えていたのをソアラは見逃さなかった。やはり彼女と棕櫚の間には浅からぬ因縁がある。
 「今は昔の話をしている場合ではない。そちの名は?」
 「由羅と申します。」
 一通りの礼儀は教わってきた。ソアラは素早く正座して三つ指着いて礼をする。紫の髪が揺らめく蝋燭の炎でキラキラと光った。
 「この辺りでは見慣れぬ色だな。」
 「___遙か遠方より参りましたから。」
 「何せつい数夜前までは水虎様の名すら知らなかった田舎者。しかし警戒の任に着いていた仙山と互角を演じた才の持ち主であります。」
 適当な誤魔化しを言い出したソアラの声に重ねるようにして、榊が話す。横目でソアラを睨み、「無駄口は聞くな!」と訴えかけていた。 
 「なるほど、詳しい話はまたの機会にしよう。あまり悠長にしていられる状況ではない。我が名は鉄騎(てっき)、こやつは赤辰、ともに天破派の幹部だ。そなたには以後我らが同士として、良い働きを期待する。」
 「精進いたします。」
 もう一度礼をしたソアラの前に榊が立て膝になる。
 「主はこれまでじゃ。外で待っていてくれるか?」
 「はい。」
 細くて小さな手に肩を叩かれ、ソアラは立ち上がると板の間を出て障子を閉めた。
 「聞き分けの良い娘だな。」
 「そう見せているだけでございます。」
 榊の言葉に鉄騎は笑ったが、実際障子の隅に耳を当てようとしたソアラはドキリとして肩を竦め、そそくさとその場から離れた。
 「よく分かってらっしゃる___」
 苦笑いを浮かべながら、彼女は狛犬の側に寄っていき、まじまじと眺め始めた。ただ考えているのは他でもない、宮の中での出来事である。そうそう、そもそもこの羅生之宮がなになのかがよく分からない。
 (榊はあの二人に敬語を使ってたし、あの厳つい妖魔が遅いって彼女を叱ってた。ってことはあの二人も普段はここにいる訳じゃないんだ。三人だけで何かを話し合ってると言うことは___そうね、三人ともこの近辺の巨大集落を治めている天破派で、これまでも度々歩調を合わせていた一派ってところかしら。)
 ほぼ正解である。鉄騎、赤辰、榊はこの辺りの天破派勢力を確固たるものにしている巨大集落の頭首だ。年齢なども含め、この中では榊の地位は二人より劣る。他にも、天破派には榊以上の地位にある妖魔はたくさんいる。それでいて彼女が大集落を治めているのは、彼女の能力が皇蚕の鴉烙に匹敵するほど重要だからだ。
 鍵の封を作れるのも、決して簡単でないにせよ異世界に行けるのも彼女だけ。その特異な能力故に、鴉烙と同様高いモラルが求められる存在でもある。だから、彼女は今回の件においても非常に慎重だった。
 「餓門の仕業だ!それ以外には何もない!」
 障子を震わせるほどの怒声が響き、驚いたソアラが宮を振り返る。今のは赤辰の声だが、かなり激高している様子だった。
 「では奴らの愚劣な行為を黙って受け入れろと言うのか!?偉くなった者だな貴様も!」
 怒鳴られているのは榊だ。おそらく好戦的な持論を展開している赤辰を諫めたのだろう。榊は真っ向の戦いに積極的ではなかったから。
 「やめろ赤辰!」
 「貴様もこの幼児の言葉を聞くか!?」
 普段気持ちを抑えている者は、時に爆発することがある。榊の引き金は棕櫚の名と、その小柄を馬鹿にされることだ。
 「それしきの口しか聞けぬ貴様に何が分かる!」
 榊の暴言が轟いたと思うと、宮の内側から障子を突き破って小さな彼女が吹っ飛んできた。首を捕まれて投げ捨てられたのだろう。石畳に身体を打ち付けた彼女の首には赤い手形がくっきりと残り、破られた障子の向こうでは赤辰が仁王立ちしていた。
 「すでに戦団を動かす用意は整っている!貴様も立ち後れぬうちに戦いの支度をするのだな!」
 「この___」
 飛び去ろうとした赤辰を睨み付け、榊が空間に文字を描き始める。しかしその手をソアラが押さえた。
 「貴様___!」
 怒りを込めて逆の手がソアラの頬を張った。しかしソアラは真っ直ぐに、榊の怒りに満ちた光を見つめ続けた。
 「___駄目よ。」
 そしてただ一言だけ、部下としてではなく彼女の心情を理解できる者として助言した。
 「___」
 榊は唇を噛みしめ、空間に半分ほど描かれた文字が霧散していく。赤辰はすでに羅生之宮を去り、鉄騎も石畳へと降りてきていた。
 「榊、あやつは乱暴なやり方しかできない男なのだ。私が代わりに詫びよう。」
 「いえ___」
 「しかし今は状況が混沌としている。餓門派にも今回の報せを否とする者は必ずいるはずだ。彼らの決意を導くためには、我々が態度で示すことも必要と思う。」
 鉄騎の言葉は冷静だが、彼も赤辰と考えは同じだった。
 「我々に同調してくれることを望むが、無理は言わない。おまえは派閥を越えて己の身を大事にしなければならない存在だからな。」
 「そんな___私はそのようなつもりで___」
 「またな。」
 鉄騎は榊の反論を手で制し、速い足取りで石畳を鳥居の向こうへと立ち去っていった。
 「___結局こうなってしまった。赤辰が戦うと言い出すのは分かっていたというのに、身体のことを虚仮にされて熱くなってしまった___本当に、私は幼子のようじゃ___」
 「そんな___姫はご立派です。」
 だが榊は顔をしかめてソアラが握る手を振り払った。
 「いつまで捕まえている!」
 「___すみません___」
 だがソアラの頬が赤く腫れ上がっているのを目の当たりにすると、榊から怒りが消えていく。ただ、気まずい沈黙がそのまま続いていた。
 「お主は___随分と口やかましいのう。」
 「___性分です。昔を思い出して___」
 ポポトルの頃、実力を買われてそれなりの地位を得ていたと同時に、その特殊さで人々の注目を集める存在だったソアラ。一方で暴力の矢面に立たされることも多かった。今の榊の姿にだぶるものを感じていた。
 「鉄騎と赤辰とは集落の距離が近い。何らかのことがあればこの羅生之宮で落ち合い、話しを持つことにしているのじゃ。派閥というのは各々が好き勝手に動いて良いものではないからのう、我々は派閥の中の小会として共に動いておる___そうそう、ここのことも話さねばならぬか。羅生之宮のような社は黄泉の各地にある。水虎様が己の目の象徴として置かれたものじゃ。」
 榊はソアラが問うまでもなく、この会の意味を説明した。
 「分かったか?」
 「はい、ありがとうございます。」
 少しあっけにとられたがソアラは微笑んでお辞儀する。
 「よし、帰るぞ。」
 「戦いの用意はしますか?」
 「___まだじゃ。餓門の仕業であるという確証が欲しい。」
 榊は空間に文字を描き出し、闇を開いた。
 「あの___あたしにできることなら何でもしますから。何なりと言って下さいね。」
 「本当に世話焼きじゃな、主は。」
 榊は呆れた様子で苦笑いする。朗らかではなかったが、彼女がようやく笑みを見せてくれたことはソアラを喜ばせた。体格のことは言えないが、小柄な彼女を見ていると守ってあげたくなるのは確かだった。
 「すまぬ。これからも頼むぞ。」
 「___はいっ。」
 二人は手を結び、闇へと入り込んでいく。このとき、すでに戦いの幕は切って落とされようとしていた。
 「進撃用意!」
 真紅の旗を手に、赤辰が咆吼する。彼の言葉に偽りはなく、集落にはすでに妖魔たちの戦団が結成されていた。




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