1 七色の仙山

 灰色の空に放り出された時、不思議なほど意識ははっきりしていて、瞬間視界に飛び込んできた決して殺風景ではないが味気なくも思える風景に目を奪われた。普通は地平線か水平線があって空がある、それが空から見た世界の姿だと思っていたが、ここにはもう一つ、空平線とでも呼びたくなる線があった。灰色の空と永遠の闇の境に走る線、それを目の当たりにした時ここが「黄泉」であると実感できた。
 「!」
 手を握るサザビーが同じように驚いていることを知り、ソアラはようやく声を発するほどに平静になった。
 「サザビー!」
 「意外にあっけなく辿り着いたな!」
 そう、意外である。中庸界から地界に降り立ったあのときの、全身をねじ曲げられるような感覚はなく、ほんの一瞬目を閉じて短い夢を見ている間に周りの風景だけがまるっきり様変わりしていた、そんな感覚だった。だから、まぶしすぎた天界の名残が残っているのか、黄泉は酷く薄暗い世界に思えた。そう、雷雲が垂れ込めた午後のようなところだった。
 「ねえ、見てよこの森!」
 近づいてくる眼下の景色は一面の森。いや見渡す限り、紺色に近いほど濃厚な緑を満たした木々が広がっている。
 「この景色見ただけで___この世界のでかさが分かる。」
 山のない平坦な大地に延々広がる森。それは途方もない情景だった。あの落下し続ける空に近いものさえある。
 「あ〜、今日はちょっと衝撃的すぎ!」
 ソアラはゾクゾクと身震いするようにして肩を竦めた。
 「!___なあ、あいつは!?」
 サザビーは手を繋いでいるのがソアラだけであることにようやく気づいた。黄泉の景色に目が慣れてからのことである。
 「ミキャック!?」
 ソアラは空中でサザビーを引き寄せると魔力を解放し、浮力を発生させる。二人の身体は淡い光に包まれ、空中でゆっくりと留まる。
 「ミキャックがいない!」
 彼女は空を飛ぶことを得意とするのに、今この広大な景色の中のどこにもあの白い翼が見えない。ソアラはしきりに首を振って周囲を見渡したが、その影さえなかった。
 「あいつも穴に入ったのは違いないはずだ___だが、あの瞬間手が放れた。」
 サザビーも目を懲らすが、見えるのは灰色の空と生い茂った木々。そればかりか___
 「クァァァァ!」
 いつの間にか真っ黒な鳥が二人を取り囲むようにして旋回していた。カラスよりも大きく、猛禽類のように鋭い嘴と爪を光らせ、明らかに二人を狙っている様子だ。さらに少し離れたところの森から数羽飛び立つのが見えた。どうやら仲間を呼び寄せているらしい。
 「どうやらおっかないのはアヌビスや妖魔だけじゃなさそうだな___」
 「下に道が見えるわ。援軍が来る前におりましょう!」
 「任せる。」
 道は森の中を流れる川のようにさえ見えるが、しっかりとその部分だけは木が除かれ、土が露出していた。ソアラは鳥を特に意識することもなく、素早く落下する。鳥はそれを追いかけはしなかったが、上空での旋回は続けていた。
 「さてどうする?とりあえずミキャックを探すことからはじめるか?」
 「もちろん。」
 ようやく地に足がついた。サザビーはまだ身体に奇妙な浮遊感が残存しているようで、軽く飛び跳ねて大地を確認していた。
 「ねえ、そういえばどうやってあたしに追いついたの?」
 「ああ、おまえに渡したクリスタルあったろ、あれミキャックの羽根飾りからもぎ取った奴なんだよ。羽根飾りに魔力を込めると、離れたクリスタルのところへと運んでくれるってわけさ。」
 「それじゃ!」
 クリスタルが健在ならミキャックはすぐにでも飛んでこれるはずだ!ソアラはハッとしてポケットに手を差し込んだ。しかしすぐに顔色が曇る。
 「一本一回だとよ。」
 ソアラが粉々に砕けたクリスタルの欠片をポケットから取り出したのを見て、サザビーが言った。
 「ミキャック___どこに行っちゃったのかしら___」
 ソアラは心配で仕方がなかった。額に手を添え、ミキャックへの思いを巡らせる。彼女は逆境に屈しない素晴らしい根性の持ち主だが、あまり自分を大事にしない。
 「いくら手が放れたっていったて、ほんのちょっとだけよ。きっとこの辺にいるわ!」
 ソアラは軽やかに振り返って、街道を一方へ歩き出そうとする。
 「いや、あの様子じゃ___この辺にミキャックはいないな。」
 だがサザビーは冷静に、しかし顔をしかめて空を見上げていた。ソアラも立ち止まって背後の空を見上げる。そこではあの黒い鳥が何羽も入り乱れて旋回していた。
 「この辺にいればあいつらが知らせてくれる。」
 鳥たちはけたたましい鳴き声を上げながら、二人の様子を伺っているようだ。もしミキャックが近くにいれば、同じような黒いたかりができているだろう。
 「なら遠くへ行きましょう。とりあえずこの道を真っ直ぐ!」
 「___そうだな。」
 サザビーも異論はなかった。ミキャックを竜神帝からさらうつもりで黄泉まで来たというのに、いきなり彼女をはぐれさせる失態。彼女にもしものことがあっては、男としての沽券に関わる。いや、それ以上か___
 とにかく二人は、街道を一方に向かって早足で進みはじめた。鳥は、そんな二人のことを周囲に教えるようにして、旋回しながら続いていた。
 「なんだか___気味が悪いね、この道は。」
 歩き始めてから数分もすると、ソアラが呟いた。気候が涼やかなので汗は出ないが、妙に緊張感だけが高まっていた。理由はこの道にある。
 「景色が変わらないからな。日差しがあるわけじゃないから方向も分からない、道は一直線じゃないにしてもそう大きくは曲がらないし、周りの木は全部同じだ。」
 「そうそれ、最後の奴が一番気味悪いわ。道沿いの木が全部同じ種類の木でしょ、暗くて奥は見えないけど___」
 彼女の後ろを進んでいたサザビーの声が聞こえて、ソアラは少し緊張がほぐれた。たまらず速度を緩めて彼と横並びになる。
 「怖いんだ、おまえが。」
 サザビーはニヤッと口元を歪め、歩きながらソアラの頬を指で突いた。しかしソアラは怒るどころか、彼の手を取るとギュッと握った。
 「あたしだってね、死にたくないし、無事に中庸界に帰りたいのよ。」
 ソアラには冗談を言えるほどのゆとりはなかった。サザビーはそんなソアラの姿、不安げな眼差しと、落ち着かずに少し開いた口元に驚く。
 「そうだな、ミキャックはもっとそう思ってる。とにかく前に進もう。」
 「そうだね___」
 一人で行かせないで良かった。ソアラは精神的にも肉体的にも頑強で、環境への適応力に長けている。しかしミキャック以上に強がりな女でもある。家族を捨ててまでの覚悟で、すでに彼女が追いつめられていたと感じたサザビーは、男として彼女を守る立場でいようと考えた。なにしろ___
 「大丈夫だ、必ず見つかる。」
 「うん。」
 かつての仲間たちで精神的に最も打たれ強いのは、他でもない彼なのだから。

 結局手を繋いだまま歩き続けること暫く、相変わらず道は変わらない。両側には変化のない木々が並び、起伏もなければ道幅さえ変わらない。どれくらい進んだのか、振り返っても分からないし、上昇してもつかめないだろう。ただ、鳥たちはまだついてきている。
 「妖魔でも妖人でもいいから、早く誰か人の住んでるところに行きたいね。」
 「ただ曲者だと思うぜ、棕櫚やバルバロッサのことを思うとさ。」
 「フフ、言えてる。」
 手を繋ぐ安心感。一人じゃないからこぼれた笑顔。そういえば、サザビーはなぜ黄泉にこようと思ったのか。竜神帝からも止められていたのに。
 「ねえ、何であんたも来たの?」
 「あ?」
 ソアラの真っ直ぐで唐突な質問に、サザビーは眉をひそめる。
 「だからさ、何で黄泉に来ようと思ったのよ。帰れるかだって分からないし___」
 ソアラは彼が変な顔をしたので、口を窄めて問いただした。
 「___おまえ一人で行かせられるか?」
 サザビーはソアラにウインクし、白い歯を見せて笑う。ソアラは伏し目がちに彼を見ていた。
 「嘘だね。」
 「嘘じゃねえって。」
 実は嘘だ。ソアラのことも少しは心配だったが、それ以上に黄泉への興味と、何より思い詰めているミキャックに手を貸してやりたかった。
 「なんか嘘くさいんだよねぇ、あんたが言うと___」
 「まじ?」
 雑談のせいか、少し早足のリズムが落ち着いてきたその時のことだった。
 ガシャン!
 何もないはずの道で、突然、重厚な金属音が鳴り響いた。
 「いっ!?」
 そしてサザビーの手からソアラの手がすり抜ける。ソアラが激しく転倒したためだった。
 「くぅあああっ!」
 「ソアラ!?」
 もんどり打って倒れたソアラの周りで砂が舞い、そして彼女の右足ではブーツが拉げて血が大量に染み出していた。ソアラは痛みのあまりに脚を抱えて縮こまり、呻き声を上げている。
 「なんだ!どうした!?」
 しかしサザビーはソアラの身に何が起こったのかすぐには分からなかった。だが不思議と彼女の右足が道に食い込んで見えた。そして側によるとその原因がはっきりと分かった。
 「虎鋏!」
 「なんで___そんなのっ、なかった___」
 ソアラの右足には鋭く分厚い鋸刃の付いた虎鋏が食らいついていた。森などで刃を開いた状態で草葉に隠し、獣がその刃の間に脚を踏み込むと一気に挟みつける、よくある罠だ。しかしここは道、しかも全く変化のない殺風景な景色。罠を仕掛けてどうしようという場所ではない。しかしソアラの脚に食らいついていたのはただの虎鋏ではなかった。
 「ソアラ見えるか?こいつは道と全く同じ色で塗装されている___」
 傷みに顔を歪め、汗を滲ませながら、ソアラは薄目を開けて己の右足に食らいついた凶器を目の当たりにした。血で濡れてようやく形が分かるほど、それは道に同化していた。
 「何でこんなものがあるの___」
 「それは俺が聞きたいくらいだ。ちょっと我慢してろよ___」
 サザビーは土色の虎鋏に探りながら手をかけ、力を込めた。ゆっくりと、ソアラの脚に食い込んだ刃が開きはじめる。
 「くっ___」
 ソアラは歯を食いしばって苦痛に堪えていた、そしてようやく刃が肉から抜け出そうとした時___
 バンッ!
 「ぎゃっ!」
 ソアラが顎を上げて喘いだ。はずれかけた虎鋏が再び彼女の肉を抉ったのだ。サザビーが手を滑らせたのか?
 「!?」
 ソアラが怒りを込めて瞼をこじ開けると、そこではサザビーも同じように苦悶の表情をしていた。しかも彼の肩からは血が滴り、その後ろには「土」が立っていた。
 「視覚というのは五感の中でも最も人が頼りにしている感覚。視覚から得られる情報は数限りなく、人はそれに高い優先度を与える。だが、その情報はそれほど正確ではない。」
 土が喋っている。ソアラはサザビーの肩越しの土に、口が開いたのを目の当たりにした。白い歯と、赤い舌が見えた。そして、その少し上には両目。
 「妖魔___」
 土が幻のように溶けて消えていく。そしてその下から、頬がこけるほどに痩せた顔の吊り目の男が現れた。彼の手にはナイフが握られ、それはサザビーの肩に突き刺さっていた。そしていつの間にか、ソアラを食っていた虎鋏もその黒々した金属質を現している。
 間違いない。これはこの男の能力であり、彼は妖魔である。
 「黒塚は我らの守り神だ。私によからぬ者の存在を教え、私は彼らのために死肉を捧ぐ。」
 黒塚とは空を舞うあの鳥のこと。強烈な殺気を感じたソアラは虎鋏の痛みも忘れて手を突きだした。
 「ぬ!?」
 ソアラの掌が輝き、鋭い氷の刃がサザビーの肩越しを抜けて男を襲う。男はナイフから手を放して後方に飛んだ。
 「大丈夫?」
 「俺はな。」
 ソアラは素早く渾身の力を込めて虎鋏をこじ開けると、左足に重心を込めて立ち上がり、サザビーも構わずにナイフを抜き取って立ち上がった。
 「やはり妖魔か。氷を操るようだな___」
 細面の男の長髪は、彼の尖鋭さをより際だたせる。だがその面立ちを見ることができたのはほんの一瞬。彼の姿はまた溶けるように消えてしまった。
 「透明人間か?」
 「違う___透明だったら姿は見せない。保護色よ、ほらカメレオンとかの。」
 虎鋏、そしてサザビーを刺したときの男の姿は明らかに土そのものだった。
 「そうだ。だが視覚などそれで十分にごまかせる。」
 確かに、もう男がどこにいるのかさっぱり分からない。近くにいてこちらを狙っているのは間違いないだろうが___
 「私がこうしておまえたちの周りを歩いたとしても、一瞬であればおまえたちは気づかない。ほんの風が自然を撫でたほどのことにしか思えない。」
 声が後ろから聞こえたようだったので、ソアラは振り向く。サザビーはそのまま彼女と背をつけあうようにして、前に意識を集中する。逃がれられない能力ではなさそうだが、虎鋏のような罠がいま見える景色の中でどれほど仕掛けられているかも分からない。
 「そして攻撃は近寄らずともできる。」
 気配を感じ取れば分からないことはないはずだ。何より、できる限り静寂を保って音を聞きつけることが効果的となるはず。しかしそんな平静が許されるはずもない。
 「来たっ___!」
 ソアラが傷ついた右足を跳ね上げる。宙に蹴飛ばされたそれは、道の彩りを纏った細長い何か___
 「蛇!」
 「おまえの血に寄ってきて___グッ!」
 首が急激に締め上げられ、サザビーが仰け反って呻く。濃い緑で彩られた糸が彼の首にきつく巻き付いていた。木々の背景と混ざって錯覚しかねないが、サザビーは素早く剣を抜いて糸の出所に向かって投げつけた。糸は切り裂けたが剣はただ木に突き刺さっただけだった。
 「止まってたら駄目だ!飛ぶぞ!」
 「分かってる!」
 サザビーは身を翻してソアラの背にしがみつき、ソアラは一気に魔力を解放して勢いよく浮上する。
 「ほう___」
 地に這いずるようにしていた男は土に彩られた顔を上げる。
 「だが黒塚を忘れている。」
 男の視線の高さで見ると、物の在処が良く分かる。道には保護色を纏った蛇や罠の類が張り巡らされていた。そして空には___
 「ァカァァッ!」
 「うがっ!」
 上空から一気に急降下をかけてきた黒塚が、サザビーの背中に強烈なかぎ爪を突き立てる。
 「サザビー!?」
 注意が背に向いたのがつかの間、三羽の黒塚が巧みに入り乱れながら前方からソアラに襲いかかってきた。
 「くっ、この!」
 黒塚は彼女の顔を狙っていたが、ソアラは腕で必死に身を守る。そうすると別の黒塚が今度は血に濡れた彼女の右足に一撃。
 「ソアラ、手を抜いてるほど余裕はねえぞ!」
 無数の黒塚に取り囲まれて波状攻撃を受ける二人。空中で身動きが取れないまま嬲るように傷つけられていく。だがそれも、ソアラが光り輝くまでのことだった。
 「なに?」
 妖魔の男は目映い輝きに顔をしかめた。上空では、さっきまで紫色の髪が妙に目立っていただけの女が、黄金に輝いている。
 「やっぱり___厳しい世界だわ、最初から全開にさせるなんてさ!」
 輝きに怯んだ黒塚の攻撃が止み、鳥たちの隊列が乱れている。竜の力を発揮したソアラはサザビーを背にぶら下げたままその手をより一層光らせた。
 「ディオプラド!!」
 黒塚の輪に白熱球が炸裂し、強烈な爆発を巻き起こす。傷ついた黒塚たちが次々と地に落ちていく。そして道に落ちた黒塚の多くが、虎鋏に挟みつけられていた。
 ボドッ___
 男の横にも身体をねじ曲げた黒塚が落ち、黒い血をまき散らした。
 (あれは___妖魔なのか?だとしたらあの能力は何だ?)
 男の視線は厳しいまま。しかしその意味は変わっていた。あの紫だった女はどうやら相当の実力者だが、こちらを侵略してきた様子ではない。そう分かるとむしろ興味が先に立っていた。そしてソアラは___
 「サザビー、あの妖魔の能力の見破り方が分かったわ。」
 己の光で地を照らし、黒塚が落下していく様を見てひらめいた。彼女は輝きを消すと今度は両手から次々とドラゴンブレスの火球を放った。無数の炎は眼下の道に点在する。そしてサザビーもそれが何のための炎か気が付いた。
 「なるほど、影か!」
 「そう!」
 この黄泉は薄暗いが夜の世界ではない。かといってどちらかに太陽があって、日が差し込むわけでもない。光は常に真上から注ぐため、影らしい影ができないのだ。それがこの男の能力を成り立たせていた。
 (早い、もう見破ったか。)
 目映い光源が道を四方八方から照らすことにより、保護色は意味を失っていく。色は誤魔化すことができても、その立体が生み出す影だけはどうにもならない。上空から見れば、道に浮き上がった無数の影が一目瞭然だった。
 「傷の分ぐらいはやり返したい!異論は!?」
 「ない!」
 サザビーの力強い声を聞くと、ソアラは道に浮き上がった一際長細い影に急降下した。
 ダンッ!
 力強い蹴脚が影を裂いた。しかし裂け目からは木目が覗く。それは、道の色を纏った倒木___まんまと替え玉を使われたようだ。
 「ずいぶんと複雑な能力を持っているが、見慣れない妖魔だな。」
 「!」
 ソアラは眉間をきつくして声の方を振り返る。そこでは妖魔の男が全身を露わにして立っていた。
 「おまえは餓門(がもん)の息のかかった妖魔か?」
 「がもん?誰かの名前?」
 男が全くの素手で、攻撃の用意さえしていないのを見て、ソアラは道に彷徨う炎を消滅させる。そして男もまた彼女が無知なのを知ると表情を解した。
 「失礼、どうやら招かれざる客ではなさそうだ。事情を知らず、しかも力強い妖魔は歓迎する。」
 細身の男は、長髪が道に届くかと思うほど身体を折り曲げて礼をする。
 「???」
 ソアラは眉間に力を込めて首を傾げ、まだ彼女の背にしがみついているサザビーも、ちゃっかりとソアラの胸を鷲づかみにしながら不思議な顔をしていた。
 「___」
 「育った?」
 「さっさと離れろっ!」
 サザビーは当然殴られ、しかも___
 「いっでぇぇ!」
 虎鋏に尻を挟まれた。
 「私の名は仙山(せんざん)、よろしく。」
 「は、はぁ。」
 顔を上げた男は髪を掻き上げて名乗り、ソアラは一人で尻を押さえて騒いでいるサザビーを軽く蹴飛ばしながら、ペコリとお辞儀していた。




前へ / 次へ