第24章 黒幕

 戦いを終えて、ドラゴンズヘブンには暗い影が落ちていた。ミキャックに肩を借りて城へ戻る竜神帝の惨たらしい姿、黒麒麟の狙撃により崩れた城、混乱の内に命を落とした者たちの亡骸、すべてが人々を絶望させた。そしてなによりも、黒麒麟が放った「宵闇の裁き」の黒。それがドラゴンズヘブン上空を漆黒に染め、島に本物の影を落としていることが人々の心を暗くしていた。
 唯一の救いである竜の使いの登場と有能な補佐官の帰還も、竜神帝の敗北を見た今では何の足しにもならなかった。
 「お母さぁん!」
 ソアラの周りにも、明るさと翳りが半々だった。
 「ごめんね。悲しい思いばかりさせて___」
 城の廊下。彼女と離れても母への変わらぬ愛敬を抱いていたリュカは、何一つ躊躇うこともなくソアラに飛びついた。ソアラもまた、しばらく見ないうちに少し背が伸びた我が子を片腕に抱きしめる。
 「僕頑張ったよ。ドラゴンの背中に乗って悪い奴と戦ったんだ。」
 「___」
 目元を真っ赤にして純朴に微笑むリュカと鼻先が触れる距離で見つめ合い、ソアラは言葉が出ずにただ何度も頷いた。我が子を裏切った己の愚かさを悔いながら。
 「強くなったのね。」
 「うん!」
 頬を寄せ、きつく抱きしめる。動かない左腕がもどかしい。
 「お母さん怪我してるの?」
 動かそうとすると痛みが走る。その些細な痙攣を感じたリュカが心配そうに問いかけた。それだけでも無邪気なだけだった幼子の成長を感じる。
 「大丈夫。大したこと無いよ。」
 短いやりとりだが、黄泉の冷酷な空気とのギャップは大きい。ソアラの心はリュカの所作、言葉一つ一つに安らぎを感じていた。
 「そうだ、ルディーは?」
 「えっと___」
 感動も安らぎの中に溶けていくと、ソアラはもう一人の愛児を求めた。しかしリュカは途端に口籠もってしまう。
 「ソアラこっちだ。リュカ、悪いが城の様子を見回ってきてくれるか?」
 「いいよ!」
 部屋の入り口に寄りかかっていた百鬼。ソアラと再会した直後は顔が綻び続けていた彼だが、リュカが走り去るのを見届けた後の彼は見ようによっては厳しい表情に変わっていた。そしてソアラも彼の顔つきに悪い予感を抱かずにはいられなかった。




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