第23章 怒れる女神

 「なんということか___」
 百鬼の肩を借りてテラスに出たラゼレイは愕然とした。迫り来る闇はあまりにも巨大で、しかもすでに島の木が傾ぐほどに吸い込む力を発揮している。闇の動きは想像よりも遙かに速く、トーザスが見晴らし塔で見た時よりも一段とシュバルツァーに迫っていた。
 「人々を逃がさなければ。」
 「間に合いませんよ___」
 「でも逃げるしかねえだろ。あんなのに飲まれたら全滅だ。」
 弱気の虫を覗かせたトーザスに、百鬼が語気を強くして言った。
 「なんだか凄く怖いね___」
 「うん___」
 リュカはルディーを支えながらテラスで闇を目の当たりにした。子供たちから快活さを奪うほどに、闇の存在感は圧倒的だった。
 ギュン!
 闇の景色を遮るように、テラスの前に光の球体が飛んでくると急停止した。そして勢いよく弾け飛ぶ。
 「遅くなって申し訳ありません!」
 現れたのはブロンドのショートカットが凛々しい天族の女性だった。
 「私はロザリオ・クレイ・ベルハースと申します!ドラゴンズヘブンより皆様をお救いするために参りました!」
 「ロ、ローザ!?」
 勤務先が同じなのだから知り合いでもおかしくないが、トーザスは酷く驚いていた。
 「ああ、いたのね。」
 トーザスに気が付いて淡泊な返事をしたものの、ロザリオは鬼気迫る面持ちを崩すことなく皆の前に青い鉱石を差し出した。
 「竜の瞳です。これに魔力を込めればドラゴンズヘブンに飛ぶことができます!」
 希望の糸はまだその一辺を残していたのだ。




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