第21章 殺戮の鬼神

 天界の夜。透き通るような空は若干の明るさを携え、黒よりも紺や藍に見える。つまり、迫りくる冥府は天界の夜以上に暗く、その影形を紛れさせることは決してない。
 「ジェイローグめ___小手先の抵抗がなんになる。」
 この戦いの司令塔たる仮面の女、黒麒麟。彼女は冥府を先導するように、巨大な闇の前で浮遊する。冥府の強烈な吸気も彼女には遠慮をしているのか、黒麒麟は服の裾どころか髪の一本もざわつかせずにそこにいた。
 「堕落した天界にもまだ猛者がいたことは驚きだ。しかし奴らは所詮は一天族でしかない。冥府を止めるほどの力は持たない___」
 じっとその場に止まり、黒麒麟は感覚を研ぎ澄ましていた。アヌビスに見出された八柱神の働きをつぶさに感じ取るためである。そして竜樹の敗北を感じると、彼女は愚痴るように呟いていた。
 「紫の竜の使いは黄泉にいた、そしておそらく生きてはいないだろう。冥府を止められるのは竜神帝と呼ばれるおまえを除いて他にない。それはわかっているはずだ。」
 黒麒麟は苛ついた様子で一つ舌打ちし、また平静を取り戻した。
 「私がおまえの前に現れるまで待つつもりか?もしそうなら___」
 そこまで呟いて、彼女は残りの言葉を飲み込んだ。
 (おまえは本当に卑怯だ___)




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