第20章 「竜」対「竜」

 天界最大の島、シュバルツァー。人口も、産業も、兵力も、天界の中で最高位の島。かつては竜神帝の側近から成り上がり、野心家として知られたシドマー・キゥ・パドルシンが頭首を務めていたが、他島への侵略失敗を契機に失脚した。その後、キジェット・ダン・フォルクワイアが頭首となったものの病のため早世、混沌の時代を迎え、天界一のスラム島とのレッテルを貼られた時代もあった。
 しかしキジェットの息子、ラゼレイ・ダニス・フォルクワイアが頭首となってからは落ち着きを取り戻している。ラゼレイはパドルシン時代の遺産である人力、財力、地力を、侵略ではなく平穏に向けることで、シュバルツァーに安定をもたらしたのである。
 「天族の誇りである島を捨てた我らを受け入れていただいたこと、深謝いたします。このエンデルバイン、フォルクワイア殿の仰せのままに。」
 「何を申されるかエンデルバイン殿、貴公の行いは数多の民を思ってのこと。何を恥ずべき事があろうか。」
 玉座に座る人物は端正なる美少年の面もち。やや痩身で、すらりと細い顎。栗色の髪は艶に溢れ、色白な肌も実に瑞々しい。彼がラゼレイであった。
 「あなた様の決断が、他島の皆さんを誇りの鎖から解き放つかもしれません。深謝すべきは我々です。」
 隣の玉座にはシンプルなドレスに身を纏ったブロンドの乙女。穏やかで、桃色の花のように優しい美しさを持つ。彼女はラゼレイの妻、フォルティナ。
 「___なんと勿体ないお言葉。」
 ラゼレイとその妻フォルティナは若く、見る者に希望を与える輝かしさを持つ。トライファルスから逃亡したダイアン・シス・エンデルバインも、若き頭首に希望の光を感じてシュバルツァーにやってきたのかも知れない。




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