3 伝説の相違

 朱幻城内の庭園に立つ茅葺きの庵。静粛なるこの場に座するは榊、仙山、ソアラ。心静かに茶を立てるのは榊であった。
 静かなる庵の中でも、城に響く鐘の音が聞こえた。
 「誰かが来る。」
 閉じていた目を開け、仙山が呟いた。
 「棕櫚か!?」
 先ほどまでの落ち着きはどうしたのか、榊は勢いよく立ち上がり茶器を蹴飛ばしてしまった。
 白廟泉探しに出た棕櫚を追いかけた榊らであったが、結局彼を見つけることができなかった。榊はいつまでも探し続けようとしたが、仙山とソアラの説得の末、ようやく朱幻城に舞い戻った。茶は榊が自身の気を鎮めるために立てていたものである。が、警戒にあたっていた黒塚からちょっと知らせが入っただけでこの有様だ。
 「あ〜___!」
 畳に広がる茶を見て、ソアラが素早く布を取って駆け寄る。腕白な子供たちを育てていた彼女だけに、咄嗟に身体が動いたようだ。
 「そんなものは後でも良かろう!仙山、誰じゃ!」
 「分かりませぬが棕櫚の時は鐘二つ。今は鐘三つ、すなわち棕櫚ではない味方を意味する鐘の音。」
 「間違いかもしれぬ。ゆくぞ!」
 「はっ。」
 「あ、ちょっと待って!」
 勇んで庵を飛び出していった二人を、ソアラは染みが残るであろう畳に未練を感じながら追いかけた。

「なんだ___」
 朱幻城を近くに見る森の上空。黒い翼の鳥たちに取り囲まれたミキャックは、困惑の面持ちで宙に止まっていた。鳥たちはミキャックを取り囲んで旋回しているが、彼らも迷っている様子でそれ以上のことはしてこない。顔つきに敵意も感じないが、ミキャックが動くと旋回に乱れが生じることから気を許しているわけでもない。
 「ミキャックー!」
 と、緊張感を断ち切る声。澄んでいて良く通る声の主が誰かすぐに分かったミキャックは、こちらに向かって飛んでくる紫を見つけて溌剌とした笑顔になった。
 「ソアラ!」
 互いの名を一度呼び合えば、後は抱きしめ会うまで言葉はいらない。二人は全身で互いの存在を感じあい、ただ互いの笑い声を聞いて宙をクルクルと回った。
 「でかい女じゃな。」
 「左様で。」
 それを大地から見上げる榊は、自分とはあまりに背丈の違うミキャックを見て苦笑していた。
 「良かった!よく無事で!」
 「ソアラだって、元気そうで良かった!」
 「本当、本当に心配したのよ、でも良くここに___」
 ソアラは両手でミキャックの頬を挟み、宙であるのを良いことに背高な彼女と額を付け会った。ミキャックは少し照れくさそうだった。
 「サザビーのおかげだよ。」
 「あいつも来てるの?」
 「ううん、彼はここには来ないわ。」
 彼女の言葉と、寂しげながらもどこかすっきりとした微笑みに、ソアラは小さく首を傾げた。

 黄泉に来てからミキャックの身に起こった出来事を聞いたソアラは、次第に表情を曇らせた。彼女の身に降り懸かった不幸はもちろん、サザビーの身の上にも絶句せずにはいられなかった。
 「サザビーには本当に感謝してる。落ち込んでいたあたしを元気づけてくれたんだ。」
 「鴉烙って確か___」
 「私も奴に命を握られておる。」
 ミキャックが話している間は上座で沈黙を守っていた榊が、口を開いた。
 「お主らの知る棕櫚、風間も同じじゃ。」
 ソアラは鴉烙と出会ったことがない。しかし接点は数多く持つ。彼の呪縛から仲間たちを助けたいという気持ちも強い。いずれは___相まみえることがあるかも知れない。そう予感せずにはいられなかった。
 「そなたは一度この城に来たことがあるな。」
 女三人が鴉烙に対してそれぞれ思いに耽っていると、仙山がミキャックに問いかけた。
 「はい、おそらくは。でも本来の記憶を失っていた時の出来事には少し曖昧な部分もあるものですから。」
 礼儀というものだろう、仙山の問いにミキャックは改まって答えた。
 「私はそなたに助けられた。」
 「そうでしたか___」
 「命を救われたのだ、礼を言う。」
 仙山が深々と礼をすると、ミキャックは彼にニコリと微笑みかけた。そんな姿を見て、ソアラは彼女の精神的なゆとりを感じた。何が彼女を成熟させたのだろう?この黒い翼かな?などと冗談めいた考えを巡らせる。
 「お主は先ほど人売りの元からある妖魔に買い付けられ、充足した日々を過ごしたと申したな。」
 「はい。」
 「名前は言えぬのか?」
 榊は猫目を鋭くして、問いかける。
 「我らもまだ戦乱の中じゃ。派閥が千々乱れた今、たとえ由羅と旧知の者でも油断はできぬ。」
 「姫___」
 「いえ、そのお心はよく分かります。」
 突如現れたミキャックへの疑念を消さない榊に、ソアラが眉間に力を込めて反論しようとする。しかしミキャックは彼女の手に触れ、すぐに榊に向き直った。
 「私があなた様と敵対する妖魔の使いかもしれない、そうお考えになるのは多くの人々の命を預かるお方として当然のことです。あいにく私の主人はあまり人様に内情を知られたくない方なのです、ですから先ほどは名前を伏せました。しかしどうしてもお聞きになりたいのであれば明かします。」
 さすがに管理職の経験者、右にも左にも差し障りのない言葉は榊を満足させた。
 「由羅、お主や砂座よりも遙かに出来た娘じゃな。」
 「はは___」
 ソアラは苦笑するばかりである。
 「して、うぬの主は?」
 「姫凛と申します。」
 その響きを耳にして、息を飲んだのはソアラただ一人。
 「広義には黒麒麟と呼ばれています。」
 「黒麒麟!?」
 ソアラは勢いよく立ち上がった。庵が薄暗いことを差し引いても、さっきまでの陽気な顔が今は蒼白にさえ見えた。
 「黒麒麟ってあの黒髪で顔を半分隠している___!」
 「そう、知っているの?」
 「あなたあの女と一緒にいたのね___彼女は何者なの!?」
 ソアラの物言いは決して穏やかではなかった。そこには嫌悪があり、怒りがある。ミキャックは少しだが返答に詰まった。
 「凛様は偉大な方よ、何があったのかは知らないけどあの方は悪い人じゃないわ。」
 そして彼女の擁護を口にする。それはソアラの望んだ答えではない。
 「あたしは___殺されかけたの。」
 ミキャックは僅かに目を見開いた。
 「それだけじゃないわ、あたしはこの黄泉で見つけたあたしの生まれ故郷で彼女と遭遇した。彼女はあたしの母、黄泉では寧々と呼ばれていた母さんをネメシス・ヴァン・ラウティと呼び、あたしのこともシェリル・ヴァン・ラウティって呼んだのよ!?」
 「___」
 ミキャックは言葉を失った。親愛なる黒麒麟の内側が俄に混沌としている。彼女が黄泉ではなく、天界や中庸界の匂いばかりを感じさせるのはなぜだ。
 「ねえソアラ、フュミレイ・リドンさんって___知ってるんだよね?」
 突然そんな名前をミキャックの口から聞いたものだから、ソアラは目を丸くした。
 「聞いてる?」
 ミキャックが呆然とするソアラの目の前で手を振った。
 「知ってるもなにも!フュミレイはあたしにとって___!」
 ソアラは高ぶった気を静めるように胸に手を当て、少し長い息をついた。
 「あたしにとって大切な友人よ。」
 そして当惑の面持ちを掻き消し、答えた。
 「凛様のところで、彼女は冬美と名乗っている。」
 「いるの!?フュミレイが!?」
 その狼狽ぶりといったら、落ち着いたはずのソアラはミキャックを押し倒さんばかりの勢いで彼女の肩を掴んだ。その勢いに圧せられたか、ミキャックはただコクリと頷くだけだった。
 「サザビーと彼女が知り合いだったから、あたしは彼と行動と共にすることができるようになったんだ。」
 「今もその屋敷に黒麒麟とフュミレイがいるの?」
 「今はいないよ、どこか旅に出るといって___ね___」
 また姉様という言葉が口をついて出そうになった。
 「冬美さんはあたしがその旅についていくのは苛酷だから、サザビーに預けたみたいなんだ。」
 「旅って___どこへ?」
 「それはわからない。それから、凛様がどんな人かも分からない。ただ、これはサザビーに言われて気づいたことだけど、私も冬美さんも元は異世界からこの黄泉にやってきたってことは同じなのよ。」
 「黒麒麟という名は、ある時からこの黄泉でも少しずつ聞かれるようになった。」
 仙山が口を開く。
 「そうじゃな、しかし噂で聞く程度。この黄泉に、悠然と屋敷を持って女の配下数人だけを持つ淑女。強欲な男が何度か彼女をものにしようと挑んだが、ことごとく返り討ちにあったとか。」
 榊もそう話した。
 「じゃが、彼女が一体いつからその姿を見せたのか___それは誰も知らぬ。随分と昔の話であるとは思うが、いかんせん彼女の話題は噂以外にない。」
 「あたしはソアラの血縁者じゃないかと思っていた。」
 ミキャックの肩に手を宛ったまま妖魔二人の意見を聞いていたソアラ。その手にミキャックがしなやかな手を重ねる。
 「それは___あたしも少しそう思っている。」
 そう思わせるのは北斗の言葉。彼がソアラを白廟泉に導いた理由、レイノラと血統が似ているから。
 そう。そうだ、レイノラだ。
 彼女は黒麒麟ではなくレイノラだ。
 「ねえミキャック、彼女は黒麒麟じゃないわ。」
 「え?」
 ミキャックは一瞬冗談かとも思ったが、ソアラの眼差しは真剣そのものだった。
 「彼女はレイノラって言う名前なのよ。」
 「レイノラ___」
 ミキャックは辿々しく呟いた。
 「レイノラ___レイノラ!?」
 全身が総毛立ったかと思うほど、ミキャックは露骨に震えた。実際に反射的に翼が開き、榊と仙山を驚かせた。
 「知ってるの___?」
 ソアラはミキャックの前へと回り込み、両肩を掴んで彼女と見つめあった。
 「知ってるもなにも___伝説の神___竜神帝と双璧を成す闇の女神だよ!」
 ソアラは愕然とした。どうやら北斗の言っていたことは全て真実だ。あの黒髪の美女が天界の女神であったとは___しかしなぜそんな彼女が黄泉にいるのか?そしてなぜソアラを襲い、アヌビスの邪輝に似たような技を使ったのか。
 「邪悪の神じゃ___」
 「そんな!全然違う!だって帝様とレイノラ様は愛し合っていたんだよ!?」
 「えぇ!?」
 ソアラが驚きで飛び上がる。
 パリン!
 その際に茶器を蹴飛ばし、鉄の茶釜にぶつかって器が割れた。
 「あ。」
 我に返ったソアラ。振り返ると憮然とした榊がニヤリと笑った。

 ミキャックの知るレイノラは伝説の女神であった。
 いま天界を統べるのは竜神帝。
 しかしかつては闇の女神レイノラと共に広き天界を統べていた。
 二人の神は互いを愛し、光と闇の融合は世界に平穏と調和をもたらした。
 しかし邪悪なる者の侵攻により、平和は崩される。
 邪悪は闇を好む。レイノラの闇の力は邪悪の侵攻の糸口になった。
 多くの天族が死んだ。
 邪悪の力添えとなることを憂えたレイノラは天界を去り、その身を遙か地の果てへと封じた。
 レイノラを失った竜神帝は、その偉大なる力で邪悪を討ち滅ぼした。
 しかし光とて過度ならば破壊の力となりうる。
 闇との調和を失った竜神帝の力は天界をも破壊する。
 邪悪は滅されたが、天界もまた深い傷を負った。
 悲劇的な戦乱を終え、竜神帝は自らが持つ破壊の力を封じた。
それが伝説の顛末。

 でも、それはレイノラの語る伝説とは少し違う。
 「___」
 「___」
 頭に拳骨をもらったソアラと、展開に伝わる伝説を語り終えたミキャックは互いに俯いて沈黙してしまった。二人とも、この黄泉で聞いたレイノラが語る伝説を知っている。話していたミキャックも聞いていたソアラも「違い」に気が付いたから、俯いてしまった。
 粗筋は同じである。
 二人の神は愛し合っていて、戦いがあって、それを原因に二人は別れて、レイノラが果ての世界に去る。しかしレイノラの語る伝説は少し違う___
 かつては翼のある天族とない天族がおり、戦いは天族同士の争いだった。レイノラを標榜していたのが翼のない天族であり、この戦いを諫めるためにレイノラが果てへと去った。そして竜神帝ことジェイローグは、翼無き天族の住む島を消し去り滅亡に追いやる___というもの。
 食い違いがないところといえば「二人がかつては愛し合っていたこと」くらいである。
 「あの___」
 「ねえ___」
 ソアラとミキャックは同時に顔を上げた。話し出した声が重なり、二人はどうぞどうぞと焦れったいやりとりをする。実のところあまり口にしたくないのだ。竜神帝を誰よりも信頼している二人だから。
 「順に話せ、まずは由羅からじゃ。」
 まどろっこしい二人を制して、榊が扇子でソアラを指した。
 「___あのさ、あたしレイノラの口からも同じような伝説を___」
 そこまで口にすると、ミキャックはソアラの唇に指を当てた。
 「あたしも知っているんだ。同じことを聞いた。」
 二人はまた黙り込んでしまう。
 「帝に直接聞いてみるしかないね。」
 「___そうだね。」
 二人は竜神帝に疑念を持っているわけではない。しかしレイノラの言うことも嘘に思えないのだ。なにしろ彼女がかつて天界にいたことを疑う要素は何一つ無いし、竜神帝を酷く恨んでいる。
 詰まるところ竜神帝の言い分を聞くしかない、ということか。
 「一度天界に帰った方がいいと思うんだ。サザビーにもそう言われた。」
 「そうだよねぇ、そうなんだよねぇ___でもねぇ___」
 ソアラは苦笑を浮かべ、がっくりと項垂れて両手を床に着いた。
 「指輪無くしたの___」
 「___ぇええぇぇえっ!?」
 唖然とするミキャック。
 「ど、どうするの!?それじゃああたしたち天界に帰れないの!?」
 「ご、ごめん〜___」
 謝って済むことではない。ミキャックに身体を揺さぶられたソアラはグッタリとして身を任せるしかなかった。
 「かくなる上は___」
 思い詰めたソアラの視線の先には___
 「ん?」
 榊がいた。

 「ふぅ〜。」
 髭もすっかりそり落とし、暑い日差しの下で日に焼けた百鬼は精悍さを増していた。彼は溶岩流に埋もれたポポトルの旧市街地を避け、密林の残る南西部を生活の地に選んだ。今では密林の奥に木組みの家らしきものも建てた。
「お、見えた。」
 彼はマントを風呂敷にして背にかけ、密林の奥に建つ家を目指した。
 「お父さ〜ん!」
 リュカが密林の奥から声を掛けて手を振っている。ここしばらくの間に背も伸びて、父以上に日焼けして逞しくなった。
 「ほら、屋根ができたよ!」
 「おお、ご苦労さん。」
 木組みの家に大きな葉っぱの屋根が着いていた。百鬼が出かける前には細い枝で骨組みをしていた状態。リュカが頑張ってくれたらしい。
 「また石拾いしてきたの?」
 女の子なのにお構いなしで服の裾を破いてしまっているルディー。彼女も日に焼けていて、帰ってきた百鬼に果汁の豊富な果物を渡した。
 「ただの石じゃないぞ、こいつは。」
 風呂敷を降ろすと、中からいくつかの黒々とした鉱石が転げ出てきた。百鬼はその一つを拾い上げ、ルディーに見せる。
 「火山の力で地層の奥底から噴き出した石でな___」
 「もう前にも聞いたよ。」
 「あ、そうか?」
 「リュカも食べる?」
 「うん。」
 最初のうちはポポトルでの生活にかなり戸惑っていた二人だが、幼子は慣れるのも早い。少なくともリュカはこの野性的な暮らしを楽しんでいるようだ。
 ただ他に人が居ないのは気がかり。確かに正反対な環境での暮らしは素晴らしい気分転換になるが、他人との触れあいがないことが今後思春期を迎える子供たちにとって良いことだとは思わない。
 「こっちに来てから随分たったよな。どうだよ、ここでの暮らしは。」
 木組みの家の周りで三人それぞれ果物を囓る。その時、百鬼が何気なく尋ねた。
 「おもしろいよ。」
 リュカはにこやかに答えた。
 「あたしはちょっと物足りない。」
 一方でルディーはお構いなしに不満を口にした。
 「確かにいいとこだけどさ、あたしたちしかいないんだもの。」
 ソアラの気の強さをしっかり受け継いだような彼女は、口を尖らせて歯に衣着せぬ発言をする。
 「そうだろうとは思っていたんだ。リュカもちょっとつまらなくなってきただろ。」
 「そ、そんなことないよ。」
 少し口籠もったリュカの仕草を見て百鬼は微笑んだ。
 「俺も少しそう思っていた。」
 「なぁんだ。」
 「でもまだここを離れるつもりはないぞ。」
 「え〜。なんでよ。」
 仕草や口の利き方がソアラに似ていて、百鬼は思わずマジマジとルディーを見てしまった。
 「なぁに?」
 「おまえの喋り方、母さんに似てるよな。」
 「!」
 ルディーの頬はたちまち赤くなり、しゃかりきに果物を囓った。しかし渋かったらしく、顔をくしゃくしゃにする。嬉しいけど面と向かって言われると照れくさいようだ。
 「いいな〜。」
 「おまえも顔は俺に似てるから。」
 「え〜、お父さんか。」
 「おいおい___」
 苦笑する百鬼。そのとき空から白くキラキラ光るものが降ってきた。
 「ん?」
 「雪!?」
 懐かしい白い煌めきかと思ったリュカが空を見上げる。白いものは次々と舞い落ちてくるが雪よりも大きい。
 「見ろよ、羽だ。」
 百鬼が手元に落ちてきた煌めきを拾い上げると、それは美しい純白の羽だった。鳥でもいるのだろうか、たしかに背高な広葉樹の上で枝葉が揺れる音がする。
 「んぁ?」
 「あーっ!だ、誰かいる!」
 百鬼が眉をひそめたのと、リュカが上を指さして叫んだのはほぼ同時だった。陽光が眩しくてはっきりしなかったが、よく見ると枝葉の狭間に引っかかって藻掻いている男がいる。
 「ねえお父さん、翼があるよ。」
 手を翳して見上げるルディーが言った。
 「天族___!」
 その時、百鬼は思い出したのだ。ソアラが天界を目指すきっかけを作ったのは天族の男だと。ソアラが帰ってくるのか?淡い期待をした百鬼だったが___
 「す、すみません!羽が引っかかって!助けてください!」
 どうもはずれのようだ。
 「ルディー、助けてやれ。」
 「シザースボール!」
 簡単な魔力の蓄積でルディーの掌から風の球体が放たれる。切れ味鋭い球は小気味よく動き回って男を絡めた枝をそぎ落としていった。
 「うわっ!」
 男の身体は突然宙に放り出され、瞬間バランスを失う。しかしそこはそれ、大きな翼を開いてホバリングしながら三人の元に下りてきた。
 「おまえは天族だな?」
 彼が地に降り立つよりも早く、百鬼が問いかけた。
 「はい、トーザス・フレア・ランドワールと言います。」
 そう、彼はソアラを誘いに来た男、トーザスであった。




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