第17章 思惑の交錯

 舞台転じて黄泉へ。
 巻物の地図に記された辺りにそれらしい泉を見つけられなかった棕櫚は、捜索の範囲を広げていた。植物の根は水を探し当てる力に長ける。だから彼の能力は一度に広範囲を捜索することができた。それが地図の枠を飛び出した探索へとつながり、彼を捜しに出た榊らとの接触を断つ結果へと繋がっていた。
 彼自身、この意欲で己の身に鎖が巻かれることになろうとは思いも寄らなかった。
 「しまった___なんて迂闊な___」
 泉を捜して森を駆けずり回っていた彼は、いやに景色の開けた、街道のような所に飛び出した。そこは大地が波打ち、なぎ倒された木々の残骸が転がっていた。そして木々が倒されている方向には巨大な虫がデンとその身を止めていた。
 皇蚕である。
 「___!」
 鴉烙の手の者に感づかれる前に、立ち去らなければ。踵を返そうとした棕櫚だったが、その足を止めざるを得なかった。
 「性懲りもなくまた来たのか?術泥棒。」
 切り飛ばされた右手が棕櫚の足首を掴んでいる。指が食い込むほど力強く、手だけが掴んでいた。声のする方を見れば案の定、右手首から先のない甲賀がいた。最悪の展開である。
 「たまたま通りかかっただけですよ。」
 「それで誤魔化したつもりか?」
 良く見れば、皇蚕の周囲では他にも鴉烙子飼いの妖魔たちが目を光らせている。棕櫚を捕らえるためではなく、何かを警戒している風だった。
 「おまえの命の契約は消えていないぞ。黙って中へ来い。抵抗すれば私から鴉烙様へ事を伝えるまでだ。」
 棕櫚の前に道は一つしかなかった。




前へ / 次へ