第16章 大仕事

 榊が復活を遂げ、小鳥もまたサザビーの尽力で涼妃との再会を果たす機会を得ようとしていたこのとき、黄泉からは到底察知できない世界で、神をも恐れぬ大仕事が行われようとしていた。
 その仕事を請け負ったのは女であり、名をテイシャール・ラグナ・ドルヴェーサと言った。彼女を知るものたちは、その優れた魔力に、その明晰な頭脳に、そのしたたかな振る舞いに、敬服と嫉妬を抱く。
 彼女は偉大なる力を持つ魔族であるが、野心には乏しい。しかし情熱には溢れ、身を尽くす貞淑さも秘める。そして美貌も持ち合わせ、アヌビスの寵姫となった。
 アヌビスの故郷「冥府」。
 彼の留守を預かっているのがテイシャール。
 そして彼の崇高なる意志のために、その全てを捧げることも厭わない。
 彼が八人の戦士を彼女の元に送り込んできたのが開始の合図だった。
 彼の側近であるダ・ギュールは冥府に舞い戻ってきたが、アヌビスその人は戻ってこなかった。しかし寵愛を疑わないテイシャールはそれを悲しまなかった。
 「シャールめはあなた様の信頼に必ずや応えて見せましょう。」
 ウェーブのかかった青い長髪。はっきりとした二重と長い睫、黒目がちの大きな目は魔族らしい厳しさよりも、優しげな母性を放つ。高い鼻と厚みある唇、肉感的な身体。その肢体をくねらせて、テイシャールは闇に誓うのである。
 アヌビスのために偉大なる作戦を完遂することを。




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