第12章 由来を知る
鋭い太刀筋が二の腕を掠めた。勢いよく後方に飛んだソアラだったが、跳躍力に勝る竜樹がグッと距離を詰めてくる。
「っ!」
ソアラの後ろには壁。しかし彼女はそのまま宙で身体を捻り、壁に両足を付けて斜め前へと飛ぶ。竜樹の一撃は壁に叩きつけられ、ソアラは地を転がって竜樹に向き直った。
先ほどからこういった動作が続く。竜樹は真っ向からソアラを仕留めに掛かり、ソアラは紫のまま逃げ回って竜樹の力を計っていた。
ゴゴゴ___
一瞬の間に三度斬りつけたらしい。白壁には三つの亀裂が走り、崩れ落ちていた。竜樹はゆっくりと踵を返し、少しだけ笑って俊足を飛ばす。
(スタミナが普通じゃない___守ってるだけじゃこっちがばてる!)
ソアラが黄金に輝くと、竜樹は少しだけ目を見開いた。今まで後ろに飛ぶばかりだったソアラが猛烈な速さで前に飛び出す。面食らって反応の遅れた竜樹の頬に痛烈な拳がめり込んだ。
ドガガガッ!
身体ごと殴り飛ばされた竜樹は煤けた石灯籠を二つほどぶち壊して、壁に横からぶつかった。壁に罅が入るほどの激突だったが___
「いたたた___」
竜樹は少し顔をしかめて頬を擦るだけで、また飄々とソアラの前へと歩み出てきた。
「___」
渾身の力を込めた拳と竜樹を交互に見やり、ソアラは呆れて沈黙した。
「さっきのよりももっと痛かった。」
口の中を切ったか、竜樹は血を吐き捨てるが笑顔では痛々しさがない。
「おもしろいなぁ、たまには俺も拳でやってやるよ。」
竜樹はおもむろに龍風を鞘に収め、指をポキポキと鳴らし始めた。彼女の笑み、ギラギラとした目の輝き、それは楽しみな出来事を前にした子供のようだった。
(あいつ___喜んでる?)
緊迫感はあるがこの戦いには悲壮感がない。竜の使いのソアラを前に、笑顔で拳を交えようとする敵なんて、あのアヌビス以来。でも竜樹の方が遙かに純粋だった。
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