第11章 戦いの歌

 「やらせておけばいい!刃向かう奴らをまとめて掃討する好機だ!」
 煉の言葉通り、恐れずに幅広く伝播させたことで餓門の耳にも守宮ヶ原集結の報が届いていた。だが彼はこれといった対策を打とうとはしない。いや、彼はでなく夜行はだが。
 「奴らがここまで来たら、ぶっつぶす!そして、奴らの拠点を潰せばいい!」
 夜行の言葉は正確に餓門から発せられなかった。夜行は、敵を金城に引きつけて少ない優秀な戦力でたたき、同時にその隙をついて反逆者の主要な集落を制圧する、と餓門に話していたのだ。
 投げられたサイが手に帰ることはない。水虎が尊命の頃から餓門に仕えていたものは、金城には少なくなった。それでもここまで残った者たちは、もはや一蓮托生と覚悟を決めている。そして後からやってきた流れ者の妖魔、それに牙丸のよこした戦力は戦いを好む者が目立つ。
 「来るなら来い、煉!水虎の栄光を俺が書き替えてやる!」
 覚悟を決めているというか、もはや戻れないところまで行き着いているのは餓門も同じだ。単細胞を丸出しにしながら、目をギラギラと野心に輝かせる。その一直線な姿は少しずつではあるが周りに期待を抱かせていた。
 もう少し理性を手に入れれば、水虎のような存在になれるかも知れない___と。
 戦いの相手が水虎を感じさせる男、煉であることは餓門にとって何よりである。今の覇王が誰であるか世に知らしめるために、少ない戦力で狙うは「圧勝」。そう夜行に勧められた。そして餓門にも異論はない。
 「___」
 沈黙の謎めいた策士、夜行を快く思う妖魔は少ない。ただ彼に従っていれば今の所はうまくいっている。実際この男と牙丸が現れたことで、過渡期の覇王を消し去ることができたのだ。その功績がある限り、夜行の言葉に逆らう妖魔は今の金城にはいない。
 (ソアラが現れたこともむしろ好都合。)
 餓門の気炎を見届けて、夜行が消える。謁見の間には集まった妖魔たちの緊張感が蔓延っていた。とにかく決戦の時は近い。




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