第9章 命を賭けろ!

 鞍を乗せたキュクィの背にまたがり、ソアラの後ろでハートウィンが遠ざかっていく。ソアラは街を振り返ることもなく、神妙な面もちで前だけを見ていた。
 そうしていたかったのには訳がある。ハートウィンを振り返るのは、イェンの快活な笑顔を思い出すきっかけになり、何よりファボットを抹殺してみせた竜の使いの恐ろしさを再認識することになる。だが逃げることもまた許されない。
 「考えなければならない___でも、もう少し離れてからにしよう。」
 この街にはもう戻りたくない。また、指導者を失って迷走するであろう街を心配するのも不要なことだ。
 竜の使いのことを考えるのは、できれば別の街にたどり着いてからにしたい___そう思ったソアラはキュクィを急がせた。
 旅の支度、資金は調っている。奴隷を解放した報奨金が、街のとある旧家から渡され、キュクィも、旅装束も、ブーツも、武器も、食糧も、全て買いそろえることができた。しかしそれだけにハートウィンの臭いは体に残されている。キュクィで進む間も、ソアラは目を閉じることはしなかった。ほんの数秒でも瞼を閉じれば、朽ち果てるイェンと、恐れ戦くファボットの姿が浮かび上がる。
 イェンを守ることはできなかった___
 ファボットを殺すことはできた___
 竜の使いのなんたるかを疑わせる矛盾がソアラの中には沸き上がっていた。
 竜の使いの力は、守護ではなく___破壊のためにある。だとすればそれはアヌビスや八柱神と変わらないのではないだろうか?と。



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