第2章 ソアラの魅力 

 そこは薄暗い場所ではあったが、岩壁にはいくつもの赤い篝火が掲げられ、人の影形を見ることに何ら不自由はない。壁が天然の岩肌で作られているのに対し、床は細かな石を敷き詰めて固めたような容貌。その上には青い絨毯が玉座まで真っ直ぐに伸びる。玉座は大きく、幅広で、所々凝った細工が入り、やや堅めの黒いシートが印象的。
 「ふふん。」
 そしてそこに腰掛ける人物は、よく効く鼻を高くして、細長い口で一つ舌なめずりをする。黒い被毛に黄金の瞳。細長い耳に研ぎ澄まされた牙。その面立ちは精悍な黒い犬にも関わらず、身体は筋骨隆々たる人の姿。肩から胸の辺りを隠した前掛けに、膝丈程度のスカートはいずれも独特の紋様が刺繍され、見たこともない生地で作られている。この男、顔が犬であることを除けば人と違うところは全身が黒色なことくらい。身体は人、首から上は鋭く攻撃的な空気を漂わせるジャッカルのような犬。
 玉座の主はこの男に他ならない。
 「誰かこっちに来たな。」
 「そのようです。」
 玉座の背後に開いた闇への口から、一人の男が姿を現す。顔以外のほとんどを、赤紫色のローブと司祭がかぶるような帽子で隠した長身の男。肌は褐色で、高い鼻と皺の畳まれた頬が際立つ。だが老いたその顔に反して、ローブに隠れるその体格は際立っていた。
 「偵察を送るか。ライディアに行かせろ。」
 「はっ。」
 「場所は想定できるな、ダ・ギュール?」
 ダ・ギュールと呼ばれた褐色の男は小さく一礼する。
 「無論です、アヌビス様。」
 そして彼は、黒犬のことをアヌビスと呼んだ。
 



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