第18章 頂へ
「おりゃぁっ!」
気合い一閃。百鬼の刀が襲いかかってきたモンスターを切り裂いた。
「邪魔するなら切るよ!」
ライの剣も冴え渡り、ソアラたちはヘル・ジャッカルを突き進む。
「無駄に命を捨てるな!八柱神候補である私の力を忘れたか!?」
ソアラは皆の先頭に立ち、誇り高く声高に叫んだ。己の胸に手を宛い強さを誇示するような姿に、冷静さを知らないモンスターたちでさえたじろいでいた。
「私はアヌビスの元へたどり着ければそれでいい!」
ソアラは実に凛々しく、まるで革命の指導者のように語った。
「凄い、まるでフュミレイみたい___」
フローラは今まであまり見たことのないソアラの一面にそう呟く。だがモンスターたちがそれほど聞く耳を持っているわけもなく、通路いっぱいにひしめき合ってソアラたちの行く手を阻んでいた。しかし___
「おいおまえら!」
大量のモンスターたちの中から声がした。それはソアラには聞き覚えのあるものだった。
「俺は彼女に完膚無きまでに叩きのめされた。それも彼女たった一人にだ。俺と戦って勝てる自信のない奴はさっさと立ち去った方がいいぞ。」
「なんだ?」
声の主はモンスターたちの後方にいるらしく、サザビーは思わず背伸びをして様子を伺った。
「う、うええ!」
「かなうわけないぜ!」
「俺は帰るぞ!」
「こんなところで死んだらかみさんにわるいんだな。」
「いや、うちのかみさんがねぇ___」
最後のはともかく、モンスターたちは声の主の顔を見るなり散り散りになってその場を立ち去りはじめた。おおかたのモンスターがいなくなって漸く声の主の姿があらわになる。
「レストルップ!」
思わずソアラが笑顔になった。それは戦劇で彼女と死闘を演じた竜戦士レストルップだった。彼に勝利したことがヘル・ジャッカルでのソアラの地位を確固たるものにしたと言ってもいい。
「勘違いするなソアラ。俺はあくまでアヌビス様の忠実な僕だ。だからこそこうして無駄な犠牲を抑え、尚かつおまえには万全の状態でアヌビス様に挑んでほしいと思っているんだ。」
レストルップはニヤッと笑って胸当てをはぎ取る。すると彼の胸にはまるで入れ墨でも彫り込んだような黒い染みが広がっていた。
「貴様に受けたこの傷、勲章に替えさせてみろ!」
それはつまり、彼がその傷を誇れること___ただの黒い染みではない、アヌビスを苦しめた女と渡り合ったときの名誉の負傷になるように。
「___ありがとう、レストルップ!きっと期待は裏切らないよ!」
豪放かつ騎士道精神に溢れる竜戦士の好意にソアラは笑顔で答え、アヌビス目がけて駆けだした。
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