第17章 激闘ヘル・ジャッカル
「名前は___レミウィスだったか?」
玉座に悠然と腰掛けるアヌビスの前に、レミウィスが立っていた。絨毯の青だけが嫌に鮮やかな謁見の間にあって、レミウィスの白さが華やかに際だつ。
「レミウィス・リドン。」
「レミウィス・リドンか___おまえはこっちの世界が長いようだな。」
「だったら何だ?」
レミウィスは一切油断を見せようとはしない。射るような視線でアヌビスを睨んでいた。
「おまえもなかなか変わった色をしている。白子か?」
「どうでもいいことだ___」
まともに取り合うつもりはない。いつまでこの態度が通用するか知らないが、レミウィスはできる限り「虚勢」を張り続けていようと考えていた。
そう、怖いのは怖い。ここは奴の城、この世界で竜神帝から最も遠い場所だから。
「特技は?」
「___」
「なにも話してくれないんだな。まあそれもいいだろう。」
アヌビスは小さなため息をついて立ち上がった。
「付いてこい。」
「___」
「腕を折ってでも連れていくぞ。」
じたばたしても仕方ない、それにアヌビスに興味があったのも確かだ。レミウィスは彼に手を引かれる前に自分から歩み出した。
「なぜ私を選んだ?」
やがてなにもかも暗黒、壁と床の境目すら良くわからない部屋へとたどり着く。そこには古風なテーブルと椅子、それから酒瓶の並ぶ戸棚があった。
「ん?」
木製に椅子に腰掛け、アヌビスは問い返した。
「あの場にソアラの子供たちがいたのは知っていたろう。彼女を急がせたくば彼女の子らを浚うのが妥当なはずだ。」
「別にソアラを急がせるためじゃない。」
いつの間にかレミウィスの手にはワインのボトルが握らされていた。アヌビスは空のグラスを彼女に差し出す。
「他人の子供は側にいたって煩わしいだけだ。おまえの方が楽しい。」
「奇怪な___」
レミウィスはボトルを傾け、アヌビスのグラスにワインを注いだ。血のように赤いワイン___
「おまえのような女がいるだけで酒は数段うまくなる。」
アヌビスは上機嫌でレミウィスの注いだワインを飲み込んでいく。その様にレミウィスは、いずれ来るやもしれぬ情景が頭をよぎっていった。
アヌビスが血の器でソアラから搾り取ったワインを飲み干す姿が___
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