第15章 血の器

 「ミキャック!」
 陽光が眩しい空から、白い翼を輝かせた天族が栄光の城へと舞い戻ってくる。
 「ああ懐かしいな!私たちの城!」
 どこで身を隠していたのかは分からないが、栄光の城に神の光が戻った翌日から、続々と天族たちが城に戻ってきた。それを出迎えるのはミキャックの仕事。再会の悦びを分かつこともあるが、どさくさに紛れて招かれざる者が侵入しないようにチェックするためだ。何しろ彼らは喜びのあまり平気で幻影を突っ切ってくる。
 「今日もいい天気___」
 謁見の間にはソアラがやってきていた。リュカとルディーもいる。
 「本当に、活気づいてきましたね。」
 下から賑やかな声が聞こえてくると、ソアラは穏やかに微笑んで語りかけた。
 「おまえたちの働きがあったからだよ。」
 ソアラの前には、竜の顔が浮かび上がっていた。顔は表情を変えることはないが、その存在感を示すには十分な幻影。それを生み出しているのは、部屋の奥に構える竜の浮き彫りだった。
 「なんだか照れますね。」
 「謙遜せぬか。」
 「ははっ。」
 ソアラは遠慮がちにはにかんだ。冗談一つ言うにも気恥ずかしさが見える。なにしろ、この偉大なる幻影の前で戯言を口にするのはそれ相応の勇気いる。
 浮き彫りの顔をそのまま幻影として浮かび上がらせたような凛々しき竜。表情がなく、向こう側が透けて見えるほど実在感はないが、その姿を見ながら威厳ある声を聞くだけでソアラの身は自然と引き締まった。そう、声の主は竜神帝。黄金の皮膚に天差す角、白銀色の牙に純白の顎髭、無限の光を感じさせる黄金色の瞳、その全てが今まで目の当たりにしたドラゴンとは全く違う神々しさを携え、どんな賛美の言葉ももてあますほど。
 たとえ幻影であっても、この勇姿の存在感だけは揺らがなかった。
 「城に光が戻ってから、世界が変わったような気がします。」
 「変わったのだ。地界にも光はあるが、おまえたちの故郷である中庸界よりもその輝きは弱い。我が光は地界の輝きを強くする。」
 復活は簡単だった。ソアラが光の源に己の輝きを注ぎ込むと、すぐさま竜の浮き彫りから栄光の城全体へ、流れるように光が広がっていった。そして浮き彫りの輝きは謁見の間に幻影の竜神帝を呼び起こした。
 つまり光の源は竜神帝との通信機の役目も持っていたのだ。
 「ソアラ、レミウィス、ミキャック、おまえたちの尽力には礼の言葉もない。勿論、百鬼、ライ、フローラ、サザビー、スレイ、棕櫚、バルバロッサ、バット、リンガー、リュカ、ルディー、そして不幸にもこの場に居合わせることの出来なかった者たち。全ての勇者に私は感謝する。」
 神から礼を言われるほど畏れ多いこともあるまい。特にレミウィスは思いの丈が爆発し、双眼から涙を溢れさせていた。
 そして復活の翌日から、栄光の城には活気が充ち満ちていったのだ。



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