第13章 翼の守護者

 「夜明けか___」
 アヌビスは珍しくヘル・ジャッカルの外へと出ていた。岩肌に開いたテラスからは海原を一望できる。眩しい光がヘル・ジャッカルの上空にも広がっていく。しかし島の真上だけは澱んだ霧を保っていた。
 「グルーは恐らく___」
 隣でダ・ギュールが呟く。光を煩わしそうに、神官帽を目深にした。
 「どうせこの光の下だ。奴は本領を発揮できない。」
 アヌビスは遠くにうっすらと見える大陸、それを照らす日の光を見つめ続けた。
 「アヌビス様。」
 落ち着いた声がアヌビスの耳に届く。振り向かずとも声の主がガルジャであることは十分に分かった。
 「フォンが戻ってまいりました。ただいま傷の手当を受けておりますが___アヌビス様に折り入ってお話があるとのことです。」
 「フォンが___?」
 敗戦の陳情か?いや、因縁の果ての何かか___ともかくおもしろそうな話が聞けそうだ。
 「分かった、謁見の間に連れてこい。」
 「畏まりました___」
 アヌビスはもう一度日の光に一瞥をくれてヘル・ジャッカルへと戻っていった。



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