第10章 道

 「メリウステスが敗れ、聖杯___聖杯か___あれは奴らの手に渡った。」
 アヌビスは六枚のカードをテーブルに並べ、見守るダ・ギュールに呟いた。顔つきは穏やかで、うっすらと笑みまで浮かべている。
 「おそらく奴らはネルベンザックに渡り、竜神帝を捜す。そして光は蘇るだろう。」
 「宜しいのですか?いくら力無き神といえど、奴が驚異的な存在であることには変わりありませぬ。」
 ダ・ギュールは神妙に、アヌビスに注意を促すような口調で言った。
 「俺は竜神帝の力の凄まじさを知らない。だからこの目で見てみたいという思いもある。だが奴はおまえの策略に落ち、自らの力を葬り去った。今は無力だ。」
 アヌビスはカードの上に指を這わせ、目を閉じる。
 「まあ、それもソアラしだいかもな___それにネルベンザックは奴らにとって、一つの旅の決着をつけなければならない場所だ。今はその決着の方が大きいかも知れない。」
 一枚のカードの上で指を止める。純白のカードが瞬く間に黒く染められた。アヌビスはそれを裏返しにする。そこには黒い斑紋が、無造作にばらまかれたようにして浮かんでいた。一種の占いだ。
 「きっかけを与えたものが、ただの傍観者でいられることはない。きっかけを与えたその時に、すでにそいつは事象に組み込まれる。ソアラたちにきっかけを与えたのは奴であり、奴にきっかけを与えたのはこの俺だ。俺にきっかけを与えたのが竜神帝であるとするならば、ソアラたちは奴の存在を知ったその時から、俺と相まみえ、竜神帝を求め彷徨う定めだったのかもしれない。」
 アヌビスは牙を見せて笑い、黒い炎でカードを燃やした。



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