第8章 誰がための命
愛娘との再会を果たしたその時、彼女はすでに母に語りかけることのできない身体になっていた。いや、母の抱きしめる体温さえ、感じることができなくなっていた。
「リュキア___!」
ミロルグはリュキアを強く抱きしめ、彼女の血で汚れた頬に、愛おしそうに自らの頬を寄せた。黒い女と呼ばれ、暗黒の息吹を漂わせ、邪悪を口にするミロルグの姿はそこにはなく、ただリュキアの死を悲しみ涙をこぼしていた。
「サザビー、おまえもこの子を抱いてやってくれ。頼む___」
ミロルグは涙を拭いサザビーに願い出た。サザビーは黙ってリュキアの側に跪き、彼女の頬に手を添える。リュキアの肌は酷く物質的で人肌ではなくなっていた。そしてゆっくりと彼女の頭を抱き上げて、血にまみれた唇にキスをする。
「___」
その様子をゼルナスも見ていた。だが彼女は一人の死に対する沈痛を変えようとはしない。サザビーとリュキアの間に何があったとしても、それはすでに悲しき結末を迎えてしまったことなのだ。それについて自分がとやかく彼に何か言うことではない、ゼルナスはそう考えていた。
「驚いたよ、おまえとリュキアが親子だったなんて。」
「誰でも驚くことさ___」
百鬼は自らの横に立ったミロルグに声を掛け、ミロルグは目尻に指を這わせ小さく首を振った。だが親子という言葉が彼女に重大なことを思い出させる。
「スレイ!」
そう、リュキアの愛息はまだ黒鳥城に残っているのだ!
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