3 死体狂の罠
ゴルガの上空で留まっていたベルグランが動き出した。
「良かった、なにもしないのか!」
百鬼はケルベロスも今の状況を異常と感じて立ち去ったのだと考え、ホッと胸を撫で下ろす。
「奇妙なものを作るのだな、人間は。」
「魔族ほど強くないからな、そういう知恵が働くんだろ。」
アモンの言葉にミロルグは納得した様子で頷いた。彼女は氷の剣を8の字に振るった。
「続き、やるか?」
「よし!」
二人が再び剣を交えようかというその時。
「おいおまえら!」
突然通りにサザビーが飛び出してきた。それも百鬼とアモンに対しミロルグを挟撃するような形、すなわちミロルグの近くに現れたのだ。
「なんで出て来るんだ!おまえケルベロスに行ってたんだろ!?」
百鬼はいるはずのない男の出現に驚き、歓迎しない登場に憤怒した。
「え?もしかして風のリングが狙い!?」
サザビーはしまったと言わんばかりの苦笑いで、自分の右手を隠した。しかしミロルグは、彼を見て敵意のない笑みを浮かべていた。
「私の目的はリングだけじゃない。」
「なに?」
ミロルグが前触れもなくディオプラドを放った。百鬼は身を守るが、白熱球は彼の足下にぶつかると、大量の土煙を巻き上げて爆発した。
「こっちにこい。」
ミロルグは素早くサザビーに近寄ると、無理矢理にその手を取った。
「お、おいなんだよ___」
「いいから来い___!」
サザビーは戸惑ったが、ミロルグに敵意がないと知ると彼女に引かれるままに狭い路地へと姿をくらました。
「ウインドビュート。」
アモンの呪文が土煙を吹き飛ばす。
「くそ___あ!?」
剣を構えた百鬼は目を丸くした。
「いないぞ!?」
「どうなってるんだこりゃ?」
百鬼は慌てて辺りを見渡し、アモンはとりあえず一難が去ってくれたことを歓迎していた。
「おいおい、どこまでいく気だ?」
「そうだな、ここならいいか。」
ミロルグはサザビーを通り沿いのアパート、それも三階の一室に引っ張り込んだ。明らかに二人きりになろうとしている。サザビーは訳が分からず首を傾げた。
「どういうつもりだよ、ミロルグ。」
彼女は風のリングをつけている右手を握っていたというのに、リングには見向きもしない。サザビーはそれを不思議がった。
「おまえは風のリング以外の全てのリングが我々の手の内にあることを知っているか?」
「なんだと?そりゃ初耳だ___」
サザビーはすでにソアラたちがリングを奪われたことにも驚いたが、それをミロルグが自分に語ったことにはもっと驚かされた。
「ならば、おまえのリングが最後であると言うことを知った上で、私の話を聞いてほしい。」
ミロルグの訴えかけるような眼差しに、彼はただ頷いた。
「スレイが生まれた。」
一瞬キョトンとしたサザビーだったが、すぐに正気になって笑顔になる。
「そうか!そりゃよかった。って、なんでおまえが知ってんのよ。リュキアが話したのか?」
「父の名は聞いていないが、リュキアの様子を見ていて分かった。しかしおまえという奴は___そこまでやるとは思わなかったよ。」
ミロルグは呆れたように笑った。サザビーも苦笑いする。二人は旧知の間柄とはいえ、こうも笑いあって話すのは初めてだった。
「それにしても随分早いな。あれからまだ二ヶ月ちょっとじゃないのか?」
「色々あってな、ちょっとした細工をさせられたのさ。まあ母子ともに健康だから、心配はしなくてもいい。」
サザビーはひとまず納得した様子で頷く。しかし煮え切らない部分もあった。
「それは分かったが、おまえは俺にそれを伝えるためにここに連れ込んだわけじゃないだろ?」
ミロルグが真顔に戻る。
「___その通りだ。」
小さな間が空いた。いつになっても、誰が相手でも、嫌な過去を語るのは気が引けるものだ。
「実はなサザビー、私にもおまえのような男がいたんだ。」
「ああ、不思議じゃないよ。」
そんな反応は初めてだった。ミロルグは呆気にとられてサザビーを見つめる。
「どした?」
「いや、不思議じゃないのか?」
「ああ、おまえとももう長いからな___おまえは元々、情に深い女さ。それを無理に殺しているところがある。」
ミロルグは感心した様子で小さく唸った。
「大したものだな。とにかくだ、私は人間の彼と愛し合っていた。」
「トラブルがあったのか?」
「ああ、子供ができたんだ。それが超龍神の逆鱗に触れた。」
サザビーは何度か頷いた。リュキアの歩みに似ていると感じたのだ。
「超龍神は私と彼の子を消し去り、私に己の子を孕ませた。それがリュキアだ。」
サザビーは口を開けて硬直した。
「聞いているか?」
ようやくサザビーが瞬きをする。
「___ぁ〜、ああ、オーケー、正気に戻った。」
サザビーは片手で自らの頬を張った。
「おまえは俺の義母ってわけか?」
「そうともいえるな。」
「そうかそうか。」
サザビーはミロルグの肩に腕を回した。ミロルグも特に拒みはしなかった。
「で、続きは?」
「___」
サザビーはミロルグの顔を間近で覗き込んだ。彼女の顔が晴れやかでないことが気に掛かったのだ。
「スレイは今は無事だ。だが超龍神はどうするか分からない。リュキアは少なくとも、暗黒の亡者になる教育を施された。そして彼女はスレイに同じ轍を踏んで欲しくないと思っている。だが、超龍神はリュキアを嫌っている。分かるか?」
「リュキアに自由はないな。」
「あるとすればそれは、超龍神が一つの目的を達成したときだ。リュキアが風のリングを持ち帰り、超龍神がもはや我々の力を必要としなくなったときだ。」
ドンッ。
サザビーはミロルグの肩から手を離し、逆の手で彼女の胸を突いた。ミロルグはよろめきながら後ずさり、二人の間に距離ができた。
「できないぜ。」
サザビーは言った。ミロルグは口を結んで黙り込む。
「風のリングを渡すことはできない。」
「___」
「おまえの気持ちも分かるが___このまま超龍神の思い通りにさせるわけにはいかない。」
「そうだな、それが当然だ。」
ミロルグは堪忍したように答えた。だが彼女の顔色が冷静でないのはサザビーにも感じ取ることができた。それは悲壮であり、憂いである。
「俺たちと一緒に行動すればいい。」
「無理だよ。リュキアはおまえにこそ心を開いているかもしれないが、あの子はさっきも言ったように超龍神の手で徹底的に邪悪の教育を受けてきた。人間界の汚れに触れ、裏切りを目の当たりにしては衝動を抑えられない。」
「殺戮の本能か___」
「今もこうして、おまえの故郷を破壊する。それが私たち魔族なんだ。」
ミロルグは疲れたようにアパートの壁に身を擡げた。
「スレイにだって悪影響だ。あの子は魔族の成長曲線を取っている。五年もすれば青年になるだろう。」
「世間は不思議がるだろうな___」
まともな生活は望めないかもしれない。そして彼自身、どんな理不尽な苦悩をするやもしれない。ソアラのように。
「だが、どうしようもなくなれば仕方ない。おまえたちと行動を共にすることはなくとも、私はリュキアとスレイを連れて誰もいない場所へ逃げ出すだろう。」
「一生追われ続けるぞ。安息はどこにもない。」
「それはいつだって同じだ。超龍神は不完全なリュキアを嫌悪しているし、従順でない私を邪魔に感じている。外へ出れば___おまえたちと戦うことになる。」
ミロルグは小さな溜息を付き、寂しげな笑みを浮かべた。
「悪かったな、故郷を滅茶苦茶にしてしまって。」
「これからどうするつもりだ?」
「おまえはここにいなかったことにして黒鳥城に帰るよ。殺されそうになったなら逃げる算段をするさ。」
ミロルグはそう言って、雨樋まで閉じられた窓に手を触れる。
「待ちな、ミロルグ。」
サザビーは振り返ったミロルグに向かって小さな物を投げつけた。彼女は易々とそれを掴み、絶句する。
「___!」
「持っていけ。」
ミロルグの手中にあったのは風のリングだった。
「駄目だ!おまえさっき自分で渡せないって___!」
ミロルグはすぐさま彼に駆け寄ってそれを返そうとする。だがサザビーはミロルグの身体を優しく抱き留めると、彼女の唇に自らの唇を重ねた。ミロルグは面食らったが、それでも目を閉じて彼に身を任せた。キスなんて___十年以上していない。それこそ___
アンディとの最後のキス以来だった___
サザビーは互いの共有を感じ、唇を放すと彼女の黒髪に手櫛を通した。
「世界を救う方法はまだあるはずだ。だが、おまえとリュキアを救うことは俺にしかできない。」
ミロルグには返す言葉がなかった。そしてこみ上げるものを押さえることもできなかった。
「___甘い___甘過ぎる___サザビー___!」
「女には甘い。それが俺流だ。」
ミロルグはサザビーの胸の中で泣いた。涙を押し殺すことができなかった。そしてサザビーは、彼女のリュキアに対する深い愛情を痛感する。全ては、彼女の母性がさせていることなのだ。
「ミロルグ、俺は風のリングはくれてやる。だが代わりにおまえにも約束して欲しいことがある。」
「言ってくれ___」
ミロルグはサザビーの胸に身を埋めたままで答えた。
「戦いのために俺たちの前に姿を現さない、超龍神から離れる、無闇に命を奪わない、この三つだ。もちろんリュキアにも守らせろ。」
ミロルグはしっかりと頷いた。
「分かった___必ず約束する。」
窓の向こうから声が聞こえてきた。
「おーい!サザビー!いるんなら返事しろーっ!」
百鬼だ。
「お迎えが来たな。」
「サザビー、風のリング、私は返してもいいんだ___」
「持ってろ。」
サザビーはミロルグの身体を放した。
「なあミロルグ、悪人にするみたいで悪いが、呪文で俺をここの窓からぶっ飛ばしてほしい。建前はリングを奪われたことにしなくちゃ誤魔化しきれねえや。」
「それは構わないが___」
ミロルグはあまりに申し訳なく、風のリングを握りしめることをできないでいる。
「あ〜、おまえらしくねえなぁ。プレゼントは笑顔で受け取れよ。」
「___本当にすまない___この借りは必ず返す___!」
サザビーは窓際に立ち、ミロルグは右手に光をともした。
「借りはベッドの上で返してな。」
サザビーはニッコリと笑った。そして。
ドウッ!
「あっ!?」
百鬼は空を見上げた。見れば近くのアパートの三階からサザビーが落っこちて来るではないか。
「いでっ!」
地面に激突する際、下から風が吹きつけ、彼への衝撃は最小限に抑えられた。ミロルグの呪文だ。
「風のリングは確かに頂いた!」
ミロルグはそれらしい台詞を吐き、小さく「ありがとう」と呟いて飛び去っていく。百鬼はそれを捕まえようと駆けたが、叶わなかった。
「はぁっはぁっ___」
ライは肩で息をしながらもフローラの前に立ちはだかり、フローラはいつでも呪文を放てる用意をする。そんな二人を見ていたリュキアは、なんだか戦意をかき消されていく思いだった。それは彼らがサザビーの仲間であるということもあるし、恋をしている間柄であると感じたためでもある。
「もうやめよっか。」
リュキアが唐突に言った。
「は?」
ライは顔をしかめて聞き返した。
「あたしは別にあんたたちと戦いに来たわけじゃないのよ。サザビーに会えればそれでいいの。」
リュキアは取りだしていた矢を矢筒に戻し、あっけらかんと言った。ライとフローラは警戒を残したまま互いに顔を見合わせる。
「サザビーはどこ?さっさと連れてくれば見逃してあげるわよ。」
「その用ならすんだよ、リュキア。」
戦場に暗黒の霧が立ちこめ、その中からミロルグが現れてリュキアの横に立った。その手にはしっかりと風のリングが握られていた。
「ミロルグ!」
「まさか___あのベルグランにサザビーが!」
なぜ彼女が風のリングを手にしているのかまったくもって理解できない。フローラは混乱した様子で叫んだ。
「よくもサザビーを!」
ライは歯を食いしばって剣を強く握る。
「案ずることはない、彼は無事だ。」
その言葉はライとフローラに向けられたものだが、リュキアもホッとしていたのは間違いない。
「ほう、それが風のリングですか。」
死体遊びに飽いたのだろう、カーツウェルもこの場へと戻ってきた。
「悪趣味な遊びはすんだのか?」
「ふふ、相変わらず手厳しい。風のリング、実物を見るのは初めてなんですよ。見せてもらえます?」
ミロルグはカーツウェルにリングを渡した。彼は手柄というものにまったく興味を示さない。渡しても特に問題はないと感じていた。
「このままでは引けない!」
ライにも意地がある。風のリングをあっさり持ち帰らせてなるものか!彼は剣を振りかざして駆けだした。フローラもなけなしの魔力を絞り出す。
「ウインドビュート!」
風が唸りを上げて最前にいたミロルグに襲い掛かる。しかしミロルグはキッと目を見開いただけで風の魔力を退けた。
「無駄に傷つくな___」
「うああっ!」
そして飛びかかってきたライに対しては、しなやかに右足を突き出し、その胸元にカウンターのキックをたたき込んだ。ミロルグらしからぬ攻撃に、ライは尻餅を付いてしまう。
「リュキア、ちょっと見て下さいよこのリング。」
「え?なになに?」
カーツウェルがリュキアに何かを語りかけ、彼女が近づいていく。そのやりとりに気を取られたミロルグは、一瞬ライから目をそらしていた。その隙をライは見逃さない。
「この!」
「___!」
ライは素早く飛び上がり、ミロルグに向かって剣を突いてきた。その照準は至って正確で、反応の遅れたミロルグは負傷を覚悟するしかなかった。
ズシャッ!!
赤い飛沫が舞い散る。それは彼女の肉体を一瞬にして真っ赤に染めるほど、大量に、全身から___!
刃は彼女の身体を完璧に捕らえ、命の断絶へと失踪させる。そしてその状況を目の当たりにした三つの命。
その一つミロルグは、片腕にライの剣を掠め、裂傷を作っていた。血は彼女の腕を流れ落ちたが、それはそれだけだ。ライもそこからさらに剣を動かすことはできない。なぜなら全ての視線がリュキアに集中していたからだ。
「___ァ___カ___ツウェ___」
リュキアの身体は宙に持ち上げられていた。カーツウェルの鋭い爪によって。
カーツウェルの爪は剣のように伸び、その十本がそれぞれ、リュキアの片目、首、両肩、胸、腹、腕、両足、そして新たな命を育んでいた下腹部に突き刺さっていた。超龍神の血を引くリュキアは簡単に息絶えない。だがそれはこの壮絶な痛み、我が物顔に食らいつくカーツウェルの爪、理不尽な地獄から逃れられないことを意味する。
「かっ___!」
カーツウェルが爪を軋ませると、十点のそれぞれから鮮血が弾け、リュキアの口からも血が零れた。彼女の救いを求めるような視線に、ミロルグは何を思ったのだろう。この状況、理解できても認められない。カーツウェルが超龍神から何らかの指示を受けていたことは理解できるが___リュキアがその毒牙に掛かったことは認められない!
「カーツウェル___!!」
虚無に落ちたミロルグが全ての感情と言動を取り戻す。彼女の全身から黒い波動が吹き出し、暗黒の炎となってその身を包み込む。それは壮絶なまでの魔力が体現されたオーラだった。彼女の精悍な面立ちは烈火のような激昂に代わり、その殺気はあまりにも露骨で近くにいたライを震え上がらせた。
「怒りますよねぇそりゃ。目の前で娘を殺されて、それが父親の指示で、それも同族の手で実行された。とてつもない屈辱でしょう。」
カーツウェルの邪気もまた、露骨なものになる。ライとフローラはただ硬直してこの対峙を見守ることしかできない。
「許さん___!」
「私を倒すおつもりで?それは面白い。」
カーツウェルは腕をグッと突き出すとリュキアの身体は爪から滑るように抜け落ち、十の赤い曲線を描き、ミロルグの前へと放り出された。黒い炎がリュキアの身体を優しく受け止め、ミロルグの隣へとゆっくりと横たえる。だが彼女はリュキアに一瞥をくれただけで、カーツウェルを睨み続けた。
「___ライ、リュキアを連れてここを去れ。」
そして彼女は怒りに震えながらもなお冷静さを保っていた。
「でも___」
「___あの空飛ぶ船はサザビーが運んできたものだ。住民たちの多くが避難している___おまえたちもそこへ急ぐんだ。」
ミロルグの全身に汗が滲んでは、黒い炎の中に蒸発して消えていくのがライにも見えた。彼女は衝動を抑えるので必死にいる。それは虫の息のリュキアだけでなく、この場にいる彼やフローラの身を案じているからに他ならない。
「早くしろ!おまえも死にたいのか!?」
ミロルグの一喝。ライはやむなくリュキアを担ぎ上げる。
「事情は分からないけど___死なないで!」
そして一つだけミロルグに言葉をかけ、フローラの元へと走っていった。状況を飲み込んだフローラと共に、二人は走り去っていく。カーツウェルの手が輝き、ドラゴンブレスの火球が三つ、ライを追いかけようとする。しかしいずれの火球もミロルグの横を通り過ぎることはできず、消滅した。
「優しくなりましたね、いつからでしょう?昔は邪悪の塊だったあなたが___」
カーツウェルは風のリングを黒い箱に入れて空へと放り投げる。それは空へ一気に上昇し、流星となって黒鳥城まで運ばれていった。
「邪悪とはなんだ?我欲を弁えぬことが邪悪か?奪うためには手段を選ばぬことが邪悪か?殺戮の気配と恐怖を呼ぶことが邪悪か?」
カーツウェルは笑みを絶やさずにミロルグを見つめ、直角に首を傾けた。
「さて。最後のじゃないですか?」
「違うな。邪悪とは___全ての生命に共通する倫理を踏みにじることだ。それは生であり、死である!命を易々と奪うことであり___命を失った者を弄ぶことだ!」
ミロルグの手が黒い輝きを発する。
「都合のいい御託ですよ、ミロルグ。あなたも死んで私のものになりなさい___!」
カーツウェルは大きな口をニッと歪めた。
「やっぱり駄目よライ!」
突然フローラがその足を止めた。ライも慌てて踏み止まる。
「な、なにが!?」
「リュキアよ!幾ら魔族だからって___このままベルグランまで運ぶのは無理!治療するわ!」
だがディヴァインライトを連発したフローラの魔力が、限界に達しているのはライだって知っている。それでも彼は医師たる彼女の気迫に従い、リュキアを大地に横たえた。
「リヴリア!」
リュキアは辛うじて息をしている。だが意識はない。フローラは必死に魔力を絞り出して回復呪文を唱えるが、彼女の掌では魔力の灯火がついたり消えたりしていた。
「く___!」
一瞬視界がぐらついてフローラは首を振る。
「ライ、アモンさんを捜してきて___!」
「分かった!でも君も無茶はしないで___!」
「一人の命が掛かっているのよ___いま無理しないでどうするの!」
フローラは誰よりも命の重みを知り、尊んでいる。例え傷ついているのが敵対している人物であろうと、彼女の慈愛に分け隔てはない。それを感じているから、ライも戦闘で受けた痛みを振り切るように、全力でゴルガの街を駆けた。
「リュキアを見捨てるわけにはいかない!」
それが二人に共通した思いだった。
「こいつぁとんでもない魔力___きっとミロルグだぞ!」
街の一角で激しく迸る魔力を感じ、さしものアモンも息を飲んでいた。それほどミロルグが発する波動は強烈で、アモンはその魔力があまりにも冷静でないと感じていた。
「だがこいつは凄すぎる___幾らあいつでもエネルギーが切れるぞ!」
そう、これほど波動が外に向かって発せられているというのは、言い換えれば無駄遣い。漏電も同じだ。
(何があった___ミロルグ___!?)
サザビーはミロルグの異変にただならぬ不安を感じていた。
「ん?あれは___ライ!」
百鬼がキョロキョロしながら走っているライを見つけて声を張り上げた。
「みんな!アモンさん!」
ライはその場で立ち上がって大声を張り上げた。
「どうした?」
「アモンさんすぐに来て!酷い怪我人が居るんだ!」
「誰だ!?フローラか!」
アモンはライの方へ駆け寄りながら尋ねた。百鬼とサザビーもそれを追う。
「違うよ、リュキアなんだ!」
「なにぃっ!?」
百鬼はそれを聞いて頬を引きつらせた。
「リュキアはカーツウェルにやられたんだ!おかしいだろそんなの!それにまだ辛うじて生きてるんだ!」
ライの必死の訴えに、百鬼も言葉を失う。
「ライ、ミロルグはどうした?」
サザビーは真剣な眼差しで問いかけた。
「カーツウェルと戦ってる。僕らはリュキアを連れてベルグランに逃げろって言うんだ!だから百鬼とサザビーは先にベルグランへ行って!さあ、早くアモンさんこっち!」
ライはアモンの腕を引っ張るようにして走り去っていく。
「どうなってんだまったく!?サザビー、ベルグランに行くぜ!」
「いや、おまえ一人で行け。」
「なんだと!?」
サザビーは百鬼の制止を無視して走り出した。
「おいサザビー!」
「俺が戻ってこなくても構わずベルグランを発進させろ!いいな!」
「サザビー!」
サザビーはがむしゃらに走った。ミロルグを助けなければならない。古来より一対一の対決では、我を忘れた方が負けるのだ!
「ドラギレア!」
ミロルグの掌から、周辺一帯を火の海に包むであろう大火炎が吹き出す。だがカーツウェルは身じろぎ一つせずに銀色の水晶を取りだし、迫り来る火炎に向かって放り投げる。
カッ!
水晶は輝きながら弾け、中から壮絶な猛吹雪が吹き出した。それはまさしくヘイルストリームの吹雪であり、両者は真っ向からぶつかり合って輝きと共に弾け飛ぶ。
「クッ!」
魔力が逆流してミロルグの右手の皮膚が破けた。血が弾け飛ぶが彼女は素早く傷を塞ぐ。
「覚えていますか?今の魔法の玉はあなたに魔力を込めてもらったんですよ。」
カーツウェルの基本戦術は、伸縮自在で強烈な切れ味を持つ爪を用いた接近戦。しかし戦場は彼にとって、死力を尽くして敵を倒す場ではない。日頃の研究の成果を試す、実験の場だ。
「ヘイルストリーム!!」
ミロルグは掌を返して今度は左手で、最大の吹雪をカーツウェルに向かって放つ。だがこれは明らかな失策だ。立て続けに莫大な魔力を消費した彼女からは俊敏さが失われ、なによりカーツウェルは宙に浮遊することができる。
「!」
吹雪はカーツウェルの足の下を過ぎていく。そして奴は一気にミロルグに向かって急降下してきた。
「くうぅっ!」
尖鋭な十の刃が襲い掛かる。ミロルグは防御すらままならず、ただ後方に倒れ込むようにして致命的な爪から逃れるにとどまった。いくつかの爪は彼女の足を捕らえ、深く抉り込んだ。
「ディオプラド!」
爪が食い込んでいれば避けることはできない。ここぞとばかりにミロルグはカーツウェルに爆発呪文を浴びせる。反動で両者の身体が離れ、一つの間が生じた。
「さすがに一筋縄ではいきませんね。」
だがカーツウェルにはさほど効いていない。服の胸元が裂けて薄い胸板が露わになってはいるが、彼はそもそも痛みに鈍感だ。
「まったく、どうやってそんなに強大な魔力を手に入れたのでしょう。魔力に関して言えば、あなたは超龍神だって上回るかも知れません。いや、まったく興味深い___」
「___」
赤い滴が爪先まで達する。ミロルグは既に傷を塞いではいるが、これまでの戦いを経て彼女の身体には幾重もの乾いた血痕がこびりついていた。蓄積したダメージは想像を絶するものがある。もとより、彼女はそこまで打たれ強い魔族ではなかった。
「いつまで強気でいられますかね。」
そう言ってカーツウェルが指をスナップする。すると、突然ミロルグは何者かに足首を掴まれた。
「ぐっ!?」
見れば足下の土中から、白骨の手が彼女の両足を掴んでいる。
「ここの近くに墓地がありましてね、土の中を掘ってここに集まってもらったんです。」
次から次へと、地中から骸骨たちが飛び出してきた。そしてミロルグを羽交い締めにしていく。
「くっ___この___!」
死体が込める力というのは常軌を逸している。それこそカーツウェルの念次第で死体は自分の骨が砕けるほどの力を込めてくるのだ。
「!」
気付いたときにはもう遅い。目前の骸骨はその手に自らの肋骨を握っていた。その先端は決して鋭いとは言えないが、けた外れの腕力によってそれはミロルグの腹を食った。
「っ___!」
立て続けにもう一撃。腹の中を湾曲した肋骨が暴れる。
「はっ___がはっ!」
魔力は確実に萎え、叫ぶこともできず口から溢れるのは鮮血ばかり。だが苦しみ喘ぎながらも、魔女は生き延びる道を捨ててはいなかった。
「ぁぁぁぁあああ!___ドラギレアァァッ!!」
ミロルグは自らの身体をドラギレアの炎で包み込む。全てを焼き尽くす火炎の前には白骨たちも無力。火炎が彼女の回りをまっさらにすると、彼女はその場へ崩れ落ち、四つん這いになって血を吐き出す。それでも必死に歯を食いしばって手を輝かせ、傷を塞いだ。ミロルグは顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。口の中に蟠る血液を吐き捨て、再びカーツウェルを睨み付けた。
「もう完全に私が優性ですね。」
「なに___」
大地が捲れ上がりミロルグを取り囲むようにして、十数もの骸骨が姿を現した。
「死体はまだまだいっぱいあります。どうします?またドラギレアで消し飛ばしますか?」
ミロルグの顔色が変わった。強気一色で彼を睨み付けていた彼女の顔に、口惜しさが滲み出ていた。
(仕留められる呪文はある___だが、唱えるための時間がない___)
しかし彼女は折れない。それが自身のためであり、リュキアのためであり、超龍神への思いの丈だ!
「ディオプラド!」
前方から迫ってきた骸骨を呪文で砕く。すぐさま反転して背後から迫る骸骨にドラゴンブレスを浴びせる。だがそれでも全てを捕らえるには至らず、骸骨の一体が硬い骨の拳でミロルグの頭部を殴打した。
「ぐっ!あっ、うあっ!」
足下に飛び出した腕に足首を跳ね上げられ、ミロルグは俯せに倒れ込む。そこを骸骨たちは足で滅多打ちにした。抵抗の呪文も最初だけだった。
「はい、やめやめ。」
カーツウェルが手を叩くと骸骨たちは動作を止め、後ずさった。そこには大地に突っ伏して時折思い出したように痙攣するミロルグがいた。カーツウェルは笑みを浮かべて指を動かすと、骸骨の一体が乱暴に彼女の頭を鷲掴みにし、持ち上げた。
「さてひと思いに仕留めてやりなさい。これ以上ずたぼろにされると研究に支障を来します。」
カーツウェルの言葉に従い、肋骨を手にした骸骨がミロルグの正面に立つ。
「ドラゴンブレス___!」
だがミロルグは眼力だけで魔力を飛ばし、骸骨を炎に包み込んだ。カーツウェルはその執念にほとほと感心していた。しかし___
「ぎっ!?あああっ!」
頭を鷲掴みにしている骸骨の手に強烈な力が込められる。ミロルグは悲痛の叫びをあげ、髪の隙間から頬へと血が滴ってくる。この状態では呪文など唱えられるはずがない。二つ目の骸骨は、彼女の前で悠然と肋骨を振りかざした。そして___!
ドゴガッ!
砕けたのはミロルグを掴みあげていた骸骨。ミロルグは力無くその場に倒れ込み、正面の骸骨が振りかぶっていた肋骨は空を切る。そして鋭く伸びた槍の一撃に、砕け散った。次、次、次!周囲を取り囲む骸骨はしなやかな孤を描く槍に次から次へと叩き壊されていく。軋む頭を振り払って顔を上げたミロルグは、そこにいた男の姿に胸の詰まる思いだった。
「生きてるか?ミロルグ。」
全ての骸骨を叩き壊したサザビーは、素早く彼女に駆け寄ってその身体を抱き起こした。
「サザビー___どうしてここへ___!?」
「どうして?一人で無理しているおまえを放っておけるか。俺が風のリングをくれてやった理由、忘れたわけじゃないだろ?」
おまえとリュキアを救えるのは俺だけ___ミロルグは顔をくしゃくしゃにして彼の胸を叩いた。
「馬鹿!」
「ははっ。」
サザビーは笑顔で彼女の頭をポンッと叩き、すぐさま立ち上がってカーツウェルに向き直る。ミロルグも呪文で傷を癒しながら立ち上がった。
「アンディの次はサザビーですか。本当にあなたも人間好きですね。アンディなんて全然大した男じゃなかったのに。」
カーツウェルはせせら笑ったが、ミロルグの表情は強ばっていた。
「なんだと___貴様がなぜアンディを知っている!」
「超龍神はけじめをつけさせるために、あなたにアンディを殺してくるように命じましたね。でもあなたは嘘を付いた。だから私が殺してきてあげました。つまらない死体でしたよ、あれは。」
カーツウェルは簡単に言ってのける。ミロルグは拳の震えを押さえ込むのに必死だった。
「いい加減おまえには嫌気がさすよ___あたしにとっての重大な事柄にはいつもおまえが一枚噛んでいるじゃないか___それでいてのほほんとしているおまえには腹が立つが、それに気付かずおまえを認めてきた私自身にもっと腹が立つ!」
「ははは、教えてあげたんだから感謝してほしいですね。」
先程の骸骨たちが現れた穴から、別の骸骨たちが姿を現した。サザビーは腰を深く落として、全周囲に警戒を張り巡らせる。
「ミロルグ、秘策は___?」
サザビーはいつの間にか煙草をくわえていた。
「ある。だが魔力の蓄積に時間が掛かるし、ゴルガの街並みが吹っ飛ぶかもしれない___」
ミロルグは荒い息づかいで囁いた。彼女は既に両手に魔力を結集しはじめている。
「どれくらい掛かる?」
「あと一分半___だがおまえの故郷が破壊されるぞ___」
「今更だ。それに俺はそれほど文人じゃねえ。建物はまた建てればいいだけだ___一分半だな、何とかしてみせる。」
その言葉を期待していなかったかといえば嘘になる。だがミロルグは心から彼に感謝した。そして黒鳥城では使うことのないであろう言葉を口にした。
「ありがとう。」
サザビーはそれを聞いて横顔でウインクして見せた。じわりと骸骨たちが距離を詰めてきた。
「吸うか?」
「それでいいよ。」
サザビーは自分のくわえている煙草をミロルグにくわえさせてやる。そして自分は新しい煙草を取り出す。先端をミロルグの手に近づけると火は簡単に灯った。
「覚悟しやがれ!この変人野郎!」
サザビーはカーツウェルを睨み付けて怒鳴った。
「あなたって昔っからミロルグ寄りですよ。私にはちっとも話しかけてくれない。興味あったのに。」
「研究対象としてだろ?」
「当然。」
骸骨たちが一斉に飛びかかってきた。
「駄目だ、これはもうどうにもならん。」
ベルグランの救護室。応急的に回復呪文を施されたリュキアはここへ運び込まれ、棕櫚の植物によって呼吸を促進され、フローラによってありったけの医学的措置を受ける。だがアモンは回復呪文をやめた。
「呪文は通用しない。回復呪文で増幅させるだけの生命力がこいつには残っていない。」
それはフローラも感じていた。アモンがどんなに呪文をかけても、リュキアの傷口が完全には塞がらなかった。だが諦めというのはあまりにも口惜しいのだ。
その時、ベルグランが大きく揺れ、浮上を始めた。震動はリュキアに覚醒を促すこととなる。
「___う___」
片目の潰れた顔でリュキアはぼんやりと天井を見た。
「リュキア___!」
現れたフローラの顔にリュキアは暗くなる。
「しっかりして、リュキア。」
だが彼女が労りの言葉を口にすると、リュキアの顔つきは少しだけ優しくなった。声はもはや絶え絶えだったが、フローラは彼女が口を動かそうとしているのを悟り、そっと耳を近づけた。
「ミロルグは___」
「___ミロルグはカーツウェルと戦っているわ。」
フローラはリュキアに優しく語りかけた。その手を握ってやることを忘れない。
「サザビーは___」
「え?サザビー___?」
リュキアがミロルグの次にサザビーのことを気に掛けたのは不思議だった。
「サザビーはきっとミロルグの手助けに行ったと思うわ___」
「___いないの___」
リュキアが酷く悲しげな顔をした。彼女とサザビーの間に何らかの関係があることは、フローラならずとも感じ取ることができた。
「___サザビー___」
「リュキア___」
フローラは小さく震えた彼女の手を両手で握ってやる。彼女の切なさを少しでも分かち合うために。
「なかなかやりますね。」
「当たり前だこの野郎。」
サザビーの回りには砕けた白骨が散乱していた。だが彼の身体にも細かい裂傷が幾つも付いている。
「でもサザビー、墓場にいるとき、全ての白骨が綺麗な状態で残っていると思います?」
「なに?」
突然だった。足下に砕けていた白骨が、まるで糸で結ばれているかのように組み合わさって、元の骸骨に戻ってしまったのだ。
「なんだと!?」
「砕き壊せると思っちゃいけませんね。」
カーツウェルは離れているサザビーに向かって手を翳す。
「サザビー!横に飛べ!」
「なにっ!?」
ミロルグが叫んだ瞬間、正面の骸骨を突き破って、五本の爪がサザビーを襲う。
「がっ!」
辛うじて横に身を捩ったサザビーだが、爪の一本が彼の頬を深く切り裂き、煙草が転げ落ちた。
「このっ!」
サザビーはそのまま横の骸骨に体当たりし、素早く身を翻して迫り来る骸骨を槍で叩き壊す。
「あっ!」
そのうちの一体がミロルグに向かっていくのが見えた。サザビーはすぐさま駆けだして真っ先にその骸骨を叩き壊す。だが隙だらけになった彼の背中を、別の骸骨が肋骨で切り裂いた。
「サザビー、そのまま倒れろ。」
そこはすでにミロルグのすぐそばだった。彼女の顔は妙に落ち着いていて、その両手には派手なオーラはなかった。ただそれは嵐の前の静けさに過ぎない。サザビーは背中の痛みに任せてミロルグの足下に倒れ込み、骸骨はけたたましく骨を鳴らして二人に迫る。カーツウェルは薄ら笑いを浮かべ、ミロルグは___
「エクスプラディィィィィルッ!!」
絶叫と共に全てを開放した。
その瞬間ミロルグの両手が真っ白に輝き、一筋の波動砲となって放たれる。エネルギーは周囲にその輝きを拡散させて骸骨たちを吹き飛ばし、その壮絶なまでのスピードで一挙にカーツウェルを捕らえた、その瞬間!
「あ、あれ!」
丁度ゴルガの上空を通り過ぎようとしていたベルグランの船体が激しく揺れた。窓からは凄まじい光が射し込んでいる。見ればゴルガの街並み、カーツウェルとミロルグが戦っているであろう場所に、ドーム状に光が広がり、すぐさま強烈な爆音となって火柱をあげ、轟音が響き、噴煙はベルグランより高い位置にまで立ち上った。それがプラドの最上級呪文、エクスプラディールの破壊力だ。激震はベルグランを激しく揺さぶり、轟音は腹の奥底まで深く染み渡るものだった。その瞬間、リュキアが小さく血を吐き出し、首に力を失ったことにフローラが絶句する。
「ウヒャヒャヒャ!私が___この私が死ぬ___!?ついに私も永遠を手にするのですね___!」
光の中、カーツウェルの叫びは轟音にかき消され、そして彼も爆発の中にかき消される。
「ぐおおおっ!」
「くぅぅぅっ!」
大地にへばりついて爆風を堪えていたサザビーだったが、堪えきれずに吹き飛ばされ、エクスプラディールを放ちきったミロルグもまた、踏ん張っていられずに飛ばされた。
「うっ!?」
ミロルグは背後の煉瓦ビルに身体を打ち付けることを覚悟した。だが彼女への衝撃は些細なもの。それは先に飛ばされたサザビーがクッションになってくれたからだった。
全ての光が消滅し、火柱が消え失せるまでおよそ三十秒。最後に強烈な突風を吹き出して、爆煙は全て消し飛ばされた。呪文の破壊力はそれほど強烈で、サザビーとミロルグの前に広がる景色は全くの更地だった。
「ははは____こりゃすげぇ。ぐっ___!」
「サザビー!?」
サザビーが自分の背で呻いたため、ミロルグは慌てて振り返り、崩れ落ちた彼の身体を抱き留めて回復呪文を施してやる。
「おまえの魔力って本当に底なしだな___」
半ば呆れたように笑ったサザビーに、ミロルグも穏やかな笑顔で答えた。しかしすぐに真顔になって、彼に立ち上がるよう促した。
「リュキアが気になる。おまえの念を頼りにあの船に飛ぶ、いいな。」
「了解。」
サザビーはベルグランの内部を思い浮かべ、強く念じた。ミロルグは彼の額に手を当ててその情景を感じ取った。
「ヘヴンズドア!」
声と共に黒い輝きに包まれた二人は、荒れ果てたゴルガの街並みから消え失せた。
そのころ___
「六つのリングが___揃うな。」
超龍神は手にした風のリングを眺め、満足げな笑みを浮かべていた。
「下で巨大な爆発があった。おまえの送った戦士たちは無事に帰ってくるだろうか。」
珍しく上機嫌な超龍神の隣で、ジュライナギアが言った。
「さあな。まあ、仕事は果たしたのだ、どうせ奴等は用のない捨て駒よ。」
超龍神はリングを凝視して、指先から放たれた闇にそれを包み込んだ。すぐに彼の手元からリングが消え、封印の解除はフェイロウの手に委ねられた。
すなわち、アヌビスの復活はカウントダウンの段階に入ったのだ。
前へ / 次へ