第7章 カウントダウン

 (時間は___あまり残されていない。)
 フュミレイは夜になると、催促をするように痛む胸の軋みに苦しんでいた。ソードルセイドにやってきてからすでに十日。救援物資も届き、長屋街ではケルベロスの作業員たちが素晴らしい働きを見せている。百鬼は感謝の思いを込めてフュミレイの手を取り、強く握手した。彼の喜びが胸の奥底から迸るものだったから、フュミレイは余計に辛かった。作り笑いもぎこちなくなりそうだった。
 「うぅっ!?」
 切迫の中に置かれたストレスだろうか?また発作のように頭が痛みはじめた。膨大な魔力に慣れてきた近頃では、発作の回数こそ少なくなってきてはいるが___
 「ぐぅぅぅ___うああああっ___!」
 まるで頭の中で巨大な鐘でも打ち鳴らされているような衝撃が走る。問題なのは、魔力を使えないということなのだ。魔力を適度に消費さえすればこんな痛みは起こらないだろう。魔力を使える生活に戻るのが先か、膨大な魔力を受け入れるだけの精神を手に入れるのが先か___答えは考えるまでもない。
 「フュミレイ___!?」
 「!」
 なんと運の悪いことか、たまたま通りかかった百鬼がフュミレイの部屋に飛び込んできた。嗚咽の声を聞きつけたのだろう、彼は驚いた顔になって、頭を抱えているフュミレイに近づいた。
 「どうした!?大丈夫か!」
 百鬼は躊躇わずにフュミレイの肩に手を触れた。
 「さわるな!」
 だがフュミレイは激しく身を捩り、彼から離れた。乱れた髪をそのままに、顔に汗を滲ませながら荒い息を付いて彼を睨んだ。
 「___」
 百鬼は戸惑い、閉口した。フュミレイは漸く落ち着きを取り戻し、頭部の痛みをかき消すようにして前髪をかきむしった。
 「すまない___ちょっと体調が悪いだけなんだ。放っておいてくれ。」
 「___あ、ああ___」
 百鬼は納得のいかないような顔をして、何度も振り返りながら部屋を出ていった。一人になると、何事もなかったように頭の痛みが引いていく。フュミレイは体中の力を抜くようにしてベッドに倒れ込んだ。
 「___もう___」
 百鬼に不可解を与えてしまった。今でこそ素直に下がったが、彼の心配は目に見えて分かった。子供ができて少し世話焼きになったソアラにだって話すだろうに。
 「やるしかない___」
 フュミレイは動くことを決めた___裏切りのために。




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