第6章 バドゥル
ポポトルとの戦いで散っていった者たちの慰霊碑は、カルラーン城下の一角にある共同墓地に建てられていた。そして慰霊碑を望める場所、日当たりの良いところにアレックスの墓があった。白い墓石に刻まれた年号が、彼の早すぎる死を物語っていた。
「将軍___」
ソアラたちは一人ずつ、墓に花を捧げ、深く祈った。我々をこう導いてくれた白竜の父に感謝の念を込めて。
(立派なもんだ。まるでこうなることが分かっていたみたいにこいつらを引き合わせたんだからな___)
いつまでも黙祷を捧げる四人の姿を一歩下がって見守るサザビーは、そんなことを考えていた。アレックスと会ったのは物心つく前だったが、印象に残る人物ではなかった。だが、彼のそういう無害なところが、人の輪を生む気質の源なのかも知れない。
「あたし、ちょっと街に出て武器を見てくるよ。これからどんな戦いがあるかも分からないし、自分のスタイルにあった武器が欲しいんだ。」
墓参りを終えて、城に戻ろうかというときソアラが言いだした。
「あ、なら私も一緒に行っていい?」
「いいよ、一緒に見にいこ。」
「ぼくもついていこうかな。」
「あんたたちはどうするの?」
百鬼とサザビーの方を振り向いてソアラが尋ねた。
「俺は城に戻るよ。」
とサザビー。
「俺も遠慮しておくよ。」
百鬼も気軽に断った。
「そう、んじゃまたね。」
「おう、気をつけてな。」
二人は今までとはどこか違った笑顔で、手を振って別れた。とにかく、ソアラの視線は百鬼に向くし、百鬼が手を振っているのはソアラだけ。ただ、ごく自然な中でそうなっただけで、ライやフローラが気づくほどではなかった。
ただ、サザビーはひと味違う。というか、彼は確信犯である。
「ふぁ〜。」
「眠そうだな。」
昼間から欠伸をしている百鬼に、サザビーが言葉を掛けた。
「まぁね。」
「昨日はよかったか?」
「あー。」
何気なく答えを返そうとしていた百鬼だが、その顔が急に凍り付いた。
「な、なんだと!?今なんて言った!」
「ま、ほどぼとにしておけよ。」
サザビーはニヤッと笑う。
「ど、どういうことだよ!」
百鬼は顔を真っ赤にして、彼の前に回り込み尋ねた。
「いやなにね。」
サザビーは煙草に火をつけた。
「夜中さ、酒が飲みて〜な〜と思ってさ、デイルのところに行ったんだ。だがあいつの所にはなくってな。聞きゃあ、おまえの部屋に古いのが一本残ってたって言うじゃねえか。」
百鬼は背筋を冷や汗が伝うのを感じた。
「んでぷらっとおまえの部屋に行ってみるとだ、中から妙な声がするんだよなぁ。」
「見てたのか___?」
「んなこたしねえよ。俺も覗かれるのは嫌だから。」
サザビーは高らかに笑って百鬼の肩を叩いた。
「どうだい、これからおまえの部屋で一杯。」
「___ははは。」
百鬼は引きつった笑みで答える。二人は好対照な顔色で、城へと戻っていった。
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