2 山越えの秘策

 「気にすんなよソアラ、あいつがおまえを惑わそうと思っただけだ。」
 ミロルグのいなくなった荒れ地で、百鬼は必死にソアラを慰めていた。
 「ありがとう、もう大丈夫よ、気にしてないわ。」
 ソアラは百鬼の心配が杞憂に終わるかというほど、ケロッとした笑顔を彼に見せた。
 「本当か?」
 「ええ、むしろいいアドバイスよ、あれは。確かに、全ての可能性を否定するのは良くないこと。あたしだって自分が何者なのか、何でこんな色なのかずっと知りたがっていたんだから。ヒントになったわ。」
 その饒舌ぶりには無理が感じられたが、ソアラが自分に対して前向きな姿勢を持っているのはいいこと。百鬼はその気持ちを尊重しようと考えた。
 「ただ、一つだけ聞かせてくれる?」
 「ん?」
 ソアラは神妙な顔つきになった。
 「もしあたしが魔族だったとしても___あなたは私を愛してくれる?」
 「当たり前だろ!」
 まさに即答。半ば怒ったように声を荒らげた百鬼。ソアラははにかむように微笑んだ。
 「おりゃっ!」
 「うわっ!?」
 百鬼が突然ソアラの腰を掴まえると、まるで赤ん坊をあやすときのように、そのまま豪快に抱え上げた。そしてクルクルと回り始めた。
 「くだらないこと聞いた罰だ!こんにゃろっ!」
 「きゃっ!ちょっと!ウハハッ!くすぐったい!」
 ソアラの快活な笑い声が、周囲の木々に木霊した。遅れてやってきた三人は「なにやってんだこいつら」と思い、息を切らしてここまで走ってきた自分たちが馬鹿らしく感じるのだった。

 「アモンさんはきっとヘブンズドアで逃げたのよ。それこそミロルグの目の届かないような場所へ。」
 さて、ミロルグ相手に犠牲者が出なかったのは幸いだったが、ソアラの言うようにアモンが消えてしまったことで、彼らの今後に暗雲がたれ込める。
 「足でバドゥルを探し回ったら、それこそ半年や一年かかっちまうぜ___」
 と、百鬼。彼らを悩ませている一番の問題はバドゥルの明確な位置が分からないこと。ホルキンスの地図上で見当をつけることはできたが、何しろ不毛の大地。山岳地帯の奥に住む民族の集落に辿り着くのはかなりの困難が予想される。勿論それでもやらなければならないが、場合によっては目的地をグレルカイムに変更することも考えた方が良さそうだ。
 「アモンさんならピャーッとおくってくれるかと思ったのに。」
 ライも愚痴をこぼす。
 「チッチッ、それは甘いってもんよ。冒険はそんなに甘くない。」
 「一番最初にそう言いだしたのはソアラじゃん。」
 「あれ?そう?あ、ほら、あたし病み上がりだしさ。」
 「あーもう、そんなことはいいからさ、どうするか考えようぜ。」
 その時、しばし沈黙を守っていたサザビーが口を開いた。
 「策は___ないわけじゃない。」
 「え?」
 一同注目。
 「ただ、俺にしてみりゃ、ちょっと面倒だがね。」
 サザビーはポリポリと、頭を掻きながら言った。
 「ああ、あれだ。」
 サザビーに連れられて、皆がやってきたのはローザブルグよりも西に位置する乾燥した平原。小高い丘を登るとそれは全貌を現した。見渡す限り黄味がかった緑の草原が広がるが、その中に、回りの景色には不釣り合いな珍しい形状の建物群がある。金属の高い金網で覆われたそこには、巨大な敷地にまるで巨大な箱のような建物が並んでいる。
 「あれが科学技術研究所ってやつか___」
 百鬼は手を翳し、感心したような顔で建物群を見やった。
 「フランチェスコ・パガニンの自宅でもある。まあ、本人はケルベロスに出張したきりだけどな。」
 「ケルベロスが関連しているの?」
 「パガニンは発明王だが、発明は簡単じゃない。試作品を作るのにも大金がいるしな。とても個人でベルグランみたいな化け物は作れないだろ?つまりスポンサーさ。最初はゴルガが投資していたんだが、それほど熱は上げていなかった。大発明をするには更なる出資が必要になって、そこにケルベロスから申し出があったというわけさ。」
 「先物買いって奴ね。」
 「シャツキフ・リドンの功績だな。」
 策士と名高い宰相は、当時周囲の非難を押し切って多額の投資を決定したという。サザビーが説明を続けている間にも、敷地に近づくほどその建物の巨大さが身に浸みる。ある建物の煙突からは黒々とした煙が上がり、ソアラは少し胸を気に掛けた。
 「今じゃゴルガは土地を提供しているだけ。研究所の本部はあそこだが、実際はケルベロスにある支部の方が施設の広さも内容も上だ。」
 「それは分かったんだけどさ___あそこに行ってどうするつもりなの?あなたはゴルガの王子かも知れないけど、ずっと身分を隠していたんだもの。話が通じるとは思えないわ。」
 ソアラの言うことも尤もだ。だがサザビーは秘策と言った。
 「フランチェスコ・パガニンには息子がいるんだ。名前はマッシモ・パガニン。」
 「あ、その人が顔見知りなんだ!」
 ライがたまには鋭いところを見せようと、しゃかりきになって言った。
 「いや。」
 しかしあっさりと切り返されるいつものパターン。
 「マッシモ・パガニンは、研究中の事故で早逝している。彼の妻もろともな。俺が顔見知りなのは彼らの子供、つまりフランチェスコの孫さ。名前はジャンルカ・パガニン。俺がポポトルに行くまでの間は、デイルとジャンルカが遊び友達だったからな。」
 「そのジャンルカさんも発明家なの?」
 「発明家と言うよりは技術の天才だ。パガニンは技術の家系だからな。ベルグランのちっちゃいばんみたいな奴があれば、ちょっと拝借って奴さ。」
 「そんなにうまくいくのか?」
 辿り着いた科学技術研究所。鉄の金網は乗り越えられないように上部に有刺鉄線が張り巡らされ、銃で武装した警備兵が立つ門には、ケルベロスとゴルガの紋章が掲げられていた。
 「物騒なところねぇ___」
 「それだけ重要な施設だってことさ。」
 サザビーは肩にぶら下げた槍をソアラに手渡した。
 「俺が掛け合ってくる。暫くここで待ってな。」
 そう言い残して、サザビーは門番の元へと駆けだしていった。何らかやり取りしている様が見えるが、声までは聞こえない。だが、門番の顔色を見るととても期待はできそうにない。
 「あ〜やっぱり。」
 サザビーは連射銃の威嚇射撃を受け、慌てて皆の元へと戻ってきた。みんなは苦笑いで彼を出迎えた。
 「いやぁ___あいつじゃ話にならんな。とんだ能なしさ。」
 そんなことを言っても虚しいだけだったりする。
 「どうするつもり?ジャンルカ・パガニンに会えなかったら話にならないんでしょ?」
 「強引にいってみるか!?」
 「無茶よ。」
 百鬼は腕っ節を鳴らしながら言ったが、フローラが煙たい顔をする。
 「いや、無茶じゃないかもな。騒げば向こうから気づいてくれる。」
 「そんなに当てになるの?そのジャンルカって人は___」
 「あ〜、どうかな、あいつの性格は癖があるから。」
 サザビーの言葉には不安が残るが、それでも何かはやらねば進まない。元々ソアラや百鬼は強行突破が嫌いではないわけだから、結果として道は一つだ。

 「場所とか分からないわけ?ジャンルカさんがどこにいるとかさぁ。」
 ソアラは愚痴をこぼしながら、固い金網に手を掛けた。
 「それがわかりゃあ苦労はしない。」
 「しゃあないね。あー、何でこう行き当たりばったりなのかしら___行くよ!」
 ソアラは金網に触れたまま、その手を強く輝かせた。
 「プラド!!」
 爆発と共に金網が破られる。
 「急げ!目一杯騒ぎまくるぞ!」
 皆は一斉に研究所に駆け込み、散り散りになった。遅れてサイレンが鳴り響いた。
 「賊だ!始末しろ!」
 在駐の警備兵たちが連射式の新型銃を手に続々と掛けだしていく。
 「うわっ!結構多いな!」
 発砲音の方向を見やると、二十人以上の警備兵がこちらに向かって駆けてくる。
 「思い切ってみるさ___読書の成果!ドラゴフレイム!!」
 ソアラはまだ距離が遠いうちに火炎の呪文を放って牽制をかける。兵士たちは炎に怯んだが、弾丸の連射は炎を突き抜けてソアラを襲った。
 「っ!凄い銃!この距離で届くなんて!」
 ソアラは走り出す。止まっていては蜂の巣だ。
 「銃に剣で渡り合おうってのは、分が悪いぜ!」
 そこに別の警備兵を引き連れて逃げてきた百鬼が合流する。
 「まったくよ!プラド!」
 ソアラは片手に一つずつ、二つのプラドを放った。狙いは兵士たちが向かってくるところの足もと。派手な爆発と弾け飛ぶ瓦礫は、派手な見栄えも足止め効果も充分だ。
 「ウインドビュート!」
 一方ではフローラが向かってくる兵士たちに牽制を駆ける。その隙を縫ってライが兵士たちの懐に飛び込み、鞘に収めたままの剣で彼らを叩いた。
 「やめろライ!相手にすんな!とにかく逃げ回るんだ!おっと、いいもんめっけ。」
 サザビーが二人に合流し、ライが殴り倒した兵士から銃を奪い取ると威嚇射撃する。兵が怯んだ隙を見て、こちらもまた全力で逃げ回りはじめた。
 外の騒々しい騒ぎは、当然建物内の研究者たちにも伝わる。彼らは怪訝そうに、また不安そうに、外の銃撃戦を見ていた。
 「___喧しいな。」
 丁度手を休め、三階の窓際で休息をとっていた中肉中背の男は外の様子を見下ろしていた。
 「ったく邪魔くさい。」
 研究の妨げを嫌うこの垂れ目の男。整髪剤でまとめた金髪が気の強さを印象づける。この男こそ、ジャンルカ・パガニンである。
 「___ん?」
 出来過ぎた偶然ではあるが、サザビーができるだけ目立とうと広い場所に出たことが功を奏し、彼の目にとまった。もう随分と会ってないとはいえ、親友の顔は直感が察する。
 「何やってんだ、あいつは。」
 ジャンルカはゆっくりと歩き出した。
 「おい、戦車動かすぞ。」
 「ほ、本気ですか!?所長代理!」
 「本気だ。」
 それから。
 「あ?何だ、兵たちが引いてくぜ。」
 「ホントだ。」
 奇跡的にかすり傷一つなく逃げ延びてきた百鬼とソアラは、背をつけあって辺りの様子を伺った。これまで散々追いかけてきた兵士が退いていく。
 「おーい!」
 ライたちが駆け寄ってきた。
 「どうしたんだろうね、誰も追いかけてこなくなっちゃったよ。」
 「いんや、そういう訳じゃなさそうだ。」
 サザビーは、兵たちが退いていった方角を指さして苦笑いした。
 「な、なによあれっ!」
 けたたましい機械音と共に現れた鉄の車。三台並んで迫り来る黒々とした鋼鉄の兵、おぞましくこちらを狙う砲塔の一つが、火を噴いた。
 「に、逃げろ!」
 「うわあああっ!」
 五人は一目散に逆方向へと走り出した。後方から強烈な爆風が背中を煽る。
 「あつあつ!」
 火の粉を浴びてライの尻にも火が付いた。
 「何でみんなまとまって逃げんのよ!こう言うときは散り散りが鉄則でしょ!」
 先頭を走るソアラが後ろの四人に怒鳴りつけた。
 「んなこといっても!」
 「ああっ!」
 「うおっ!」
 「げげっ!」
 「きゃっ!」
 「うわっ!」
 ソアラが急ブレーキを掛け、後ろの四人が次々と彼女に激突した。あっという間にソアラを下敷きに五人の人山ができあがる。
 「あ!前見て前!」
 一番上で余裕のあるライが前方を指さして叫んだ。
 「またか!」
 今度は前方からも戦車が進んでくる。完全に挟み撃ち!
 「あ〜、さてどうしたもんかね。」
 と、下から二番目にしては余裕のあるサザビー。それは役得があったからに違いない。 「サザビー!やめなさいよっ!あーもうっ!どうでもいいから早くどけって!」
 「いや、まだいいだろ。ンガッ!」
 ソアラの下に手を回しているサザビーに、百鬼は思い切り拳骨を見舞った。
 「もう、みんななにやってるのよ!早く立ち上がって手を挙げて。」
 フローラに叱責され、いつまでも寝転がっている三人もそそくさと立ち上がる。両手を上げて降伏の意志を見せると、戦車は砲撃せずに五人との距離を詰めてきた。
 「うは〜、近くで見るとまた圧巻ね。」
 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」
 「出て来るぞ。」
 先頭の戦車のハッチが開いた。
 「よう、元気そうでなによりだ。サザビー。」
 中から現れたのは、ひねくれた印象を与える金髪の男。ジャンルカ・パガニンだ。
 「相変わらずだなてめえは___もうちょっとやりかたってもんがあるだろう。」
 ジャンルカがスッと手を挙げると、戦車の上に登ってきた兵たちが彼らに一斉に銃口を向けた。
 「わっ、待て待て、悪かった悪かった。」
 「わざわざおまえがやってくるなんて、まさか俺に会いに来たわけでもあるまい?」
 「そのまさかさ、会いに来たんだよ。」
 それを聞くとジャンルカは顔を歪め、酷く眉間に皺を寄せて舌打ちした。
 「おい、こいつらを牢にぶち込め。」
 「え〜!なによそれ!サザビーはあんたに会いに来たって言うのよ!」
 「やめろソアラ___!」
 反抗的な姿勢を見せたソアラをサザビーが宥める。
 「あいつの性格を忘れてたんだ。巧くやるから黙ってみてろ。」
 そしてこっそりと耳打ちすると、急に笑顔になって両手を広げた。
 「いや、なんつーかな、おまえが相変わらずくだらない研究やってるのかと思ってよ。」
 「くだらないだと___?」
 「そうさ。おまえろくなもん作ってなかったじゃねえの。いつも失敗作ばかりだ。」
 ジャンルカはキッと歯を向くと、戦車のハッチから飛び出した。
 「言ってくれるじゃねえか、この野郎!」
 「だってそうだろうよ、現に俺はおまえの作ったグライダーで大怪我したんだぜ。」
 「あれはおまえの操り方が間違ってたんだ!」
 ジャンルカはサザビーに詰め寄ると、グッとその胸ぐらを掴んだ。
 「ほーう、じゃあおまえは自由に空を飛べる代物を作ったって言うのか?あのベルグランみたいな。」
 「けっ___ついてこいっ!」
 ジャンルカはサザビーを突き放し、踵を返して歩き出した。
 「なっ、うまくいきそうだろ?」
 「天の邪鬼って奴か。」
 ジャンルカに案内され、五人がやってきたのは研究所内の巨大ドック。大きなゲートの横にある扉を潜ると、そこには圧巻の代物があった。
 「何だこりゃ___?」
 ドッグに電灯がともる。するとそこにいたのが、丸形の、まるで横長な風船のような乗り物であると分かった。百鬼が思わず呟いた。
 「飛行船だ。ベルグランのような飛空艦とは違う、遊覧飛行用に開発した空飛ぶ船だ。だが機動駆関はベルグランと同様の技術を使っている。小回りではこちらが上さ。」
 ジャンルカは飛行船を見上げ、自慢げに語った。
 「どうだサザビー、恐れ入ったか?」
 「飛んでいるところを見たわけじゃねえしな。そういや、おまえらベルグランに乗ったんだろ?比べてみてどう思う?こいつ。」
 振り返って尋ねたサザビーは、ソアラに向かってウインクした。ソアラはニヤッと笑って百鬼と目を合わせると、わざとらしくバカにするような表情を作って見せた。
 「どうかしらねぇ、安定感なさそうだし。乗り心地は悪いんじゃない?」
 「そうそう、ベルグランは世界のどこへでも行けるんだろ?こいつじゃ、東の大山岳地帯だって越えられなさそうだよ。」
 「何だと!素人の分際で!」
 ジャンルカは肩を怒らせて、拳を震わせていた。
 「素人だから疑うのよね。」
 「そーう。」
 「どうだいジャンルカ、あいつらもおまえのことを疑ってる。何しろ俺たちゃ、自分で体験しないと信じないたちでね。」
 ジャンルカ・パガニンは苛ついた様子で頭をかきむしると、居合わせた警備兵の一人を指さした。
 「おいおまえ!ハッチ開けさせろ!それからグロリアのクルーを二三人呼べ!」
 「し、しかし___」
 「いいから早くしろ!これからグロリアでこいつらに目にもの見せてやる!」
 警備兵は仕方なく走り去り、サザビーを中心に、五人は手をたたき合って喜んでいた。勿論ジャンルカは騙されているつもりなどない。とにかく彼は、自分の発明品に高いプライドを持っている。それを虚仮にされるのが許せないだけだ。
 「あ〜、所長代理ってばすっかりのせられちゃってるよ。」
 「しかし何者なんだろうね、あいつら。」
 「紫の牙だろ、あれ。」
 「あ〜、あの___そんな奴等がなにしてるんだ!?」
 傍観していた技術屋たちが慌てたのも束の間、ドッグの壁にプロペラの風が吹きつけると、五人とジャンルカを乗せた飛行船がゆっくりと動き出した。
 「見てろよ、サザビー!」
 「おーう、しっかり見てるよ。」
 舵を握るジャンルカはすっかり血の気に溢れていた。もはや誰にも止められまい。
 「昔っからああだったの?」
 「そっ、俺はともかく、よくデイルにのせられてたなあ。」
 ソアラの耳打ちに、サザビーはニコニコ顔でジャンルカの後ろ姿を見つめ、懐かしそうに答えていた。
 「飛行船グロリア!発進!」
 エンジンの振動が船全体を揺さぶる。浮上の力に身体を引っ張られ、震動が収まったときには、窓から見える景色はまるっきり変わっていた。
 「わおっ!」
 ソアラは思わず窓際に駆け寄った。遅れて他の面々も寄ってくる。さっきまで目線にあった科学研究所が見下ろせる。しかもあんなに小さくなって。
 「ベルグランの時も感動だったげと、空っていいねぇ。」
 と、ライも浮かれ気味。
 「ふんっ!どうだ!恐れ入ったかサザビー!」
 ジャンルカは鼻息荒く、胸を張って言い放った。サザビーはそんな彼に拍手をしてやる。
 「ああ、おまえは大した発明家だ。それでな、ついでと言っちゃあなんだが、俺たちはある旅の途中でね、ちょっと足で行くには大変な場所が目的地なんだ。」
 「な、なんだと?」
 話が変わってきた。ジャンルカが不可解そうな顔になる。
 「どうだい、性能を見せるついでにそこまで運んでくれるか?」
 「て、てめえ騙したな!」
 ライとは違った意味で気づくのが遅すぎる。と、ソアラたちは思った。
 「騙した?おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。それとも何か?こいつじゃ東の大山岳地帯は越えられないか?」
 ジャンルカはきつくサザビーを睨み付けると、コクピットのパネルを叩いた。
 「よーしいいだろう!運んでやろうじゃないか!」
 「所長代理!」
 部下たちの心配をよそに、ジャンルカは突っ走る。
 「命令だ!進路、大山岳地帯の中心部!」
 こうしてサザビーの秘策は功を奏し、五人は一路、大山岳地帯へと向かうのでありました。
 一方そのころ___飛び立った飛行船の上に、ゆっくりと音もなく降り立つ二つの影があった。
 「四つの均整を壊すったって、そんなのどこにあるかだって分からないのよ?」
 まるで虹色のような派手な髪を丁寧に編み込んだ長髪。そして、大きな宝玉をつなげた首飾りに、胸回りだけを隠した鮮やかなスーツ。腰蓑のようなものをつけたそいつは、はっきりした大きな目を伏し目がちにし、オレンジのルージュが目を引く唇をムッと歪ませた。
 「俺たちの任務は四つの均整の発見と撃破だ。それには、守ろうとしている奴を追いかけるのが吉。」
 かたや、紺色のマントに身を包み、額に灰色のターバンを緩く巻いた男。ターバンと前髪で隠れがちな目線は鋭く、その口は多くを語らない。背負った剣は、古びた包帯でぐるぐる巻きにされ、所々漆黒の刃が顔を覗かせる。柄には真紅の宝玉が埋め込まれ、その長さは長身であるこの男の身の丈に近い。
 「あたしは___ミロルグの言っていた紫色の魔族もどきを、すぐにでも殺してやりたいのに。」
 派手な女は舌なめずりして、飛行船の天辺から下を睨み付けた。
 女の名はリュキア。
 男の名はバルバロッサ。
 殺戮行為を得意とする、超龍神の側近である。




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