第4章 リングが示す道標

 「そのさ___なんて言うかやっぱりちょっとしっくりこないなぁ。」
 玉座に座るドレス姿のゼルナスは、どうも落ち着かない様子で髪に手櫛を通し、ティアラがずれた。
 「なにいってんだ、何年か前まで住んでた城だろ?自信持っていけよ。」
 サザビーがからかい半分に言った。
 「フィラ王女、まさかご無事でいらしたとは!ああ、なんと申してよいか!」
 「おまえは___ロベールだったな。覚えているよ。」
 「ああ、ありがたき幸せ!」
 また一人、謁見の間にかつてナターシャ時代に仕えていた判官たちが駆け込んでくる。ボンドの手で出奔させられていた者たちは数多いが、彼らの一部は変装をして今もなおクーザーに残り、機をうかがっていたのだ。フィラ・ミゲルが国民に名乗りを上げてすぐに、彼らが舞い戻ってきたおかげで、クーザーは建て直しに向かってスムーズなスタートを切ることができそうだ。
 「この調子なら、もう俺たちの仕事は終わりで良さそうだな。」
 そう言ってサザビーは煙草に火をつけた。
 「行ってしまうのか?」
 ゼルナスの問いにサザビーは頷いた。
 「俺たちの目的はまだ先にあるからな。」
 「超龍神か___」
 ゼルナスは一つ溜息を付いた。
 「大丈夫、サザビーならやれるよ。」
 「ああ___」
 ライとフローラはテンペスト医院に向かっている。フローラも旅立つために準備が必要だった。謁見の間には衛兵もいない。時折慌ただしく誰かが駆け込んでくるだけで、サザビーとゼルナス、二人だけだった。
 「吸うか?」
 「ああ。」
 ゼルナスはサザビーから煙草を受け取ると、リラックスした様子で彼と煙を共有した。
 「また___会えるよね。」
 「会えるさ。おまえに殴られに来るよ。」
 ゼルナスは煙草をサザビーの口に戻すと、徐に風のリングを外し、彼の指へ。
 「これは預けておくよ。私だと思って大事にして欲しい。」
 風のリングは柔軟に形を変え、指の太さがまるで違うサザビーの指にもしっかりと馴染んだ。
 「おまえだと思って、毎日磨いてやるよ。角が少しでも丸くなるようにな。」
 「言いやがったな!」
 ゼルナスは怒った顔を見せ、すぐに笑顔になった。二人は笑い会う。敢えてさよならを言うことはしなかった。
 ゼルナスはサザビーのちょっかいに嫌な思いをしながらも、いつの間にか好きになっていた。
 サザビーは、今こうしてゼルナスが玉座に戻ったその時に、ナターシャとの約束の完遂を感じていた。つまり、もうゼルナスに対する思いはナターシャに左右されるわけではない。
 二人は再会を約束しながらもその時を定めはしなかった。そんな大雑把なところが、気まぐれな風の申し子たる所以なのかも知れない。




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