第8章 動き出した三首犬
アンデイロにおける攻防は実に呆気ないものだった。アンデイロ城は海に面し、港に隣接している。海洋から接近する鉄機船の長距離砲を迎撃するには城に付随する砲台と木造船での艦隊戦しかない。そもそも鉄機船はその大半を水中に沈めた形を取っている。乗り移って乗っ取るといった作戦は不可能だった。
「フュミレイ・リドンの判断は懸命でしたな!これでは勝負にならない!」
アンデイロ城で砲撃の指揮を執っていたダグラスはアレックスを振り返っていった。
「確かに、白兵戦をするつもりはなさそうですね___」
アレックスは辛辣な顔で城壁の隙間から海洋を見つめた。鉄機船は砲撃を乱発してゆっくりと接近してくる。
「退きましょう。全て明け渡して我々はそのままカルラーンの支援に向かいます。」
「了解しました。港の兵たちを呼び戻します!」
ダグラスは一際大きな敬礼で答えた。
「ライ!おまえも来い!」
「はいっ!」
ダグラスとライは城の本陣から駈け出していった。
「俺は残ります。突破口をケルベロスだけには任しておけません。」
「頼みます。」
デイルは信頼の置けるスパイだ。アレックスは躊躇いもなく頷いた。
「さあ急げ!船は捨てていけ!」
ダグラスは埠頭の入り口で大声を張り上げていた。鉄機船との距離が縮まるほど砲撃は激しくなる。鋭い地響きが埠頭にも伝わってきた。
「ダグラスさん!これ以上は無理です!」
砲撃は的確に港の船を叩き壊していく。これ以上埠頭にいては自分たちの身も危なくなる。ライは爆風に顔をしかめて叫んだ。
「あまり派手に壊すな。使い物にならなくなる。」
閉鎖的な鉄機船の船内に大声はいらない。それは冷静な戦術を際立たせてくれる。
「おまえで最後か!?」
「はい!間違い有りません!」
ダグラスは最後の兵を見送るまで埠頭から離れることはなかった。
「ダグラスさん、早く!うわっ!」
埠頭の入り口付近に砲弾が着弾した。壮絶な爆発がライとダグラスの間で巻き起こる。その巻き添えを大きく食ったのは最後の逃走兵だった。
「ライ、急げ!彼を連れて行くんだ!」
「ダグラ___上!!」
「!?」
砲弾が城の物見塔の一つを足場から削り、切り崩していた。崩れ落ちてきた物見塔は埠頭へと倒れ込む。
「逃げろ!!ライ!!」
ダグラスは精一杯手を伸ばしてライを突き飛ばした。
「___!」
倒れ込んだときに目を閉じた一瞬。その一瞬のうちにライの目の前の景色は変貌した。物見塔が石畳にめり込み、激しい土煙を上げている。
「___ダグラスさんっ___!」
ライは心を強く持った。こみ上げてくる涙、わき出しそうな悲鳴を飲み込み、走り出した。精一杯の勇気だった。
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