第5章 犬の紋章 

 「水には癒しの力があるの。だから私が使える呪文には、傷の治癒とか、解毒とか、そう言ったものがあるのよ。」
 「魔力とフローラの熟練が高まれば、癒しに限らずいろいろな呪文が使えるっていうこと?」
 「論理的には多分___」
 ソアラとフローラは最近あまり話す機会がなかった。フローラがリングのことで忙しかったのと、あの日まではソアラが百鬼と行動していたからだ。この船上は実に良い機会である。
 「ねえソアラ、一つ聞いていい?」
 「なに?」
 「喧嘩の原因って何だったの?」
 フローラは思い切って尋ねてみた。ソアラは苦笑いしてから答えた。
 「あいつがノックもせずにいきなりあたしの部屋に入ってきたことと、勝手に写真立てを取って見ちゃった事よ。」
 「ラドの?」
 「そう、ラドの。カッとなって取り返したとき、写真立てが壊れちゃってさ、頭に来るやら悲しいやら___」
 「ソアラ、ラドのこと大好きだものね___」
 ソアラはテーブルに頬杖をついて溜息をついた。
 「そう。別に何のことない写真だったらあたしだってあんなに怒らなかったよ。ラドのだもの。あいつにはなんだか余計に見られたくなかった。」
 「そうね___でもソアラ、いつまで口聞かないでいるつもりなの?」
 ソアラはポンッとフローラの肩を叩いた。
 「あたしの性格知ってるでしょ?こういうところで頑固なのよあたしって。そりゃそろそろ許してやってもいいかなって思ってるよ?でも自分から言いたくはないじゃない。あいつが反省してるのかだって分からないし。」
 何かきっかけがあれば仲直りできるんだろうけど___ソアラだって、せっかくできた友達をこんな形で失いたくはないのだ。




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