1 激闘のポポトル
「何故だ!?貴様らだってこのポポトルが滅びては都合が悪いだろう!?」
ギャロップが額に血管を浮かび上がらせて激昂していた。ポポトルの軍事本部は島の中心に位置する休火山のカルデラに位置している。その奥の奥、大幹部しか訪れることのできない場所に彼はいた。
「我々は超龍神様の側にいるだけだ。貴様らの力になるつもりなどない。」
彼が必死の思いで食ってかかっているのは黒い女。決して身体の色が黒いのではない。漆黒の長髪と、暗黒のマントに身を包んだ怪しい女だ。雰囲気で言えばフュミレイに近く、精悍な美しさを宿した冷たい女。そんな印象を与える。
「約束が違うぞ!軍事国家ポポトルが窮地に陥ったときには力を貸すという約束ではなかったのか!?」
「もうよせよギャロップ。」
同じ場所に居合わせた、比較的若い男がギャロップの肩を掴んだ。目鼻立ちのはっきりとした顔つき。自己主張の強い二枚目顔で、若い割には貫禄を兼ね備えている。
「貴様が口を挟むな!」
ギャロップは荒々しくその手を払いのけた。
「俺はおまえらよりも遙かにこいつらを知っている。俺たちがどんなに直訴したって、取り合ってくれないって時はどう足掻いても駄目だ。」
若い男は黒い女を指さして言った。
「プロパガンダの分際で___!」
ギャロップは男の襟首を掴んで締め上げようと力を込めた。しかしスッと細くしなやかな手が現れると、彼の手首を捕まえた。それは黒い女がマントの影から表した、か細い腕だった。
「放せ。」
「ぐ!?」
女が触れた手首から、ギャロップの皮膚が音を立てて裂け始めた。
「ぎゃああっ!」
ギャロップは痛みのあまり、反射的に男を放した。
「悪いなミロルグ。」
「なに___」
黒い女もギャロップから手を離す。彼女はミロルグと呼ばれた。
「俺は超龍神の世話で忙しいんだ、おまえらのまいた種はおまえらで刈り取ってくれよ。」
男はそう言って馴れ馴れしくミロルグの肩を抱いた。ミロルグはキッと彼を睨み付け、白い掌に電撃のようなものを示してみせる。
「冗談冗談___」
男は苦笑いして彼女の肩から手を離した。
「けっ___貴様ら、ただですむと思うなよ!」
ギャロップは捨て台詞を吐いてその場から逃げるように立ち去っていった。暗闇ばかりが目立つ部屋に、男とミロルグだけが残った。
「人間も弱くはないぜミロルグ。空から爆弾が落ちてきたらここだって崩れ落ちる。」
「我々には関係ない。あまり馴れ馴れしい口を利かぬ事だ。貴様とて___超龍神様の呪縛より逃れようと必死なのは手に取るように分かる。」
ミロルグは男の心を見透かすように、人並みはずれた眼力で彼を睨み付けた。
「ちっ___相変わらずつれねえな。」
「我々を利用しようとは思わぬ事だ。身を滅ぼすぞ___」
ミロルグの身体が黒い炎に包まれる。次の瞬間には、炎と共に彼女の姿も消えていた。
「さて___俺は生き延びることができるか?」
一人残された男は自分の居場所に帰るために歩き出した。彼の居場所は、ポポトル本部の別塔。ここに彼は___軟禁されていたりする。
「良いか!これはアレックス将軍の弔い合戦でもある!ポポトルの残党の手に掛かり命を落とされた将軍の無念を晴らすのだ!」
もはや白竜軍の大船団はポポトルを見る位置にあった。その旗艦の甲板にて、トルストイは全霊を以て声を張り上げた。アレックスはポポトルに殺された。ケルベロスからの報告。事実、ゴルガ城でポポトルの兵服を纏った男が発見されている。
死体は?という疑問にもフュミレイは、とりあえず納得させるだけの答えを返した。
「ゴルガ近隣にはアレックスの旧友であるアモン・ダグが住んでいる。大魔導師と謳われる彼ならば万が一と思い、アレックスを託した。」
むしろケルベロスの誠意を見せつけた格好となった。アモンの出方は気がかりだが、時既に遅し。もはやポポトルとの戦いは始まろうとしている。そして幾らアモンが真実を語ろうとも、それはダビリスの手駒、総帥アイザックの力でもみ消されるだろう。
「こうして白竜は腐っていく___万が一、白竜軍が我々に対して反旗を翻せば、容赦なく戦いに打ってでるまで。あわよくば___邪魔なリドンの娘に罪を着せ、断頭台にかけることもできるやもしれん___」
ハウンゼンの嘲笑が聞こえてきそうな展開だった。
「先行して爆撃を仕掛ける。これに続いて白竜軍が上陸し、白兵戦が行われる。我々は、火口付近にあるというポポトル本部に降下し、直接侵入して内側より破壊する。」
フュミレイはベルグランに乗り込んでいるケルベロス兵を前に、作戦行動を指示していた。
「この戦いで今後が決まる。健闘を祈るぞ。」
トルストイが気合いを表に出して怒鳴りつけていたのとは対照的に、彼女は落ち着いた口調で、最後にほんの一つ微笑みを見せたに過ぎなかった。それでも兵の士気は同じように高まる。
「フュミレイ、おまえはベルグランに残れ。」
兵たちがそれぞれの持ち場に散っていくと、ハウンゼンがフュミレイを呼びつけて、一つ命令した。だがフュミレイは不可思議に思って小首を傾げた。
「ここは摂政殿がおられれば充分で御座いましょう。私目は前線に立ちます。」
「おまえは残れ。まだ腹の傷も完全ではないのだろう?」
ハウンゼンは優しい口調で促した。
「は___」
「将来有望のおまえを、こんな所で死なせては私の責任問題でもあるからな。功を焦るでないぞ。」
「了解しました。」
フュミレイはハウンゼンに敬礼し、彼女はベル・グラン内でこの戦いを「鑑賞」する立場に回った。ハウンゼンがこうさせたことには恐らく意図があるのであろうが___
「強欲な男___そんなに己の身が心配か?」
フュミレイはその呟きを飲み込んで、優しい上官の面をしたハウンゼンの横顔を去り際に一瞥した。
「ポポトル港より出航する軍艦捕捉しました!」
ポポトルとて黙ってはいない。鉄機船は失ったが、海軍全てが消滅したわけではない。しかしベルグランからの景色はまさに高みの見物。両軍の出方をうかがいながら、反撃無視の攻撃を繰り出せばいいだけなのだから。
「白竜軍に光信号送れ!二秒後に爆撃を開始する!海洋のネズミはできる限り駆逐しろ!白竜のために道を開くのが我らのつとめだ!」
フュミレイの凛とした声が、騒々しい船内に響き渡った。
「爆撃開始します!」
ベルグランの爆撃が始まりの合図だった。白竜軍はベルグランの後方につくようにして進撃を開始し、迎え撃つポポトルも広く展開して爆撃を逃れようとする。戦局はまず兵器のぶつかり合いとなった。
「船は砲撃で牽制すればいい!とにかく上陸することだけを考えろ!」
それからが勝負だ!アレックスの無念を晴らせ!その気持ちを胸に、一つとなった白竜軍の快進撃が始まる。海洋の防御網はあっさりと突破され、白竜軍艦隊は一気に埠頭へと着岸した。
「一気に突き進め!」
白兵戦だ。兵たちは鈴なりになって船より飛び出してくる。だがすぐさま銃声が轟き、隊列の一角が崩れる。ポポトルも最新の銃器を持ち出して決死の応戦の構えだった。
「だから言ったんだ、あまり当てにするとろくな事にはならない。」
近衛隊長のシークは、非常時にあっても本部内でリラックスの面持ちだった。彼の所へ対策を練りに行ったギャロップは彼の態度に業を煮やす。
「貴様も少しは働け!」
「本部に敵がやってきたら戦おう。」
シークは自信を覗かせる。
「ぬうう、ガルシェルはどうした!?」
「大門の守護に回っている。おまえこそ___たまには前線を味わってきたらどうだ?」
シークはギャロップに苦言を浴びせてニヤリと笑った。
「言われずともないわ!ポポトルが作り上げた究極の陸上兵器の力を見せてくれる!」
そしてギャロップは血気盛んにある場所へと走り去っていった。
「躊躇うことはない!一気に突き進め!」
アルベルトは剣を振りかざして兵士たちに指示を送る。既に港を完全制圧した白竜軍は、次から次へとポポトルの街並みに雪崩れ込んできた。だがこの快進撃を止めるだけの力が、まだポポトルにはあったのだ。
ドォォォンッ!!
「!?」
艦船の大砲を放ったような音が、町中で轟いた。そして同時に、すぐ近くの街並みで爆発が巻き起こり、破片はアルベルトの居場所にまで弾け飛んできた。兵士たちも突然の号砲と爆発に、思わず足を止める。ベル・グランはもはや本部近くにまで進んでいる。
「なんだ!?」
まったく分からない。だがアルベルトが我に返るよりも早く、先の交差点からカルラーンの兵たちが逃げ惑うように飛び出してきた。その中にはサラの姿も。
「サラ!?」
「アルベル___!うわっ!!」
再び。通りの右側から炎の塊が飛んできたと思うと、交差点の中央付近に打ち付け激しく炸裂した。爆発をもろに喰らった白竜の兵士は、その身体を五メートルは舞い上げられただろうか。サラも風圧に背中を押されてアルベルトのいる通りに倒れ込んできた。
「サラッ!!」
アルベルトは彼女に駆け寄り、素早く抱き起こす。そんな二人を構わず、兵士たちはとにかく逃げ惑った。アルベルトにもすぐに理由が分かった。交差点の向こうから、金属が石を食う音と激しい機械音が響いてくる。それはどんどん大きくなり、やがてその全貌を彼の前へとさらけ出した。
「な、なんだこいつは!?」
それは巨大な鉄の塊。金属の身体の両側面には、無数の車輪が付き、そしてなにより、真正面に突き出した巨大な砲台。
「化け物よ!」
サラが力ずくでアルベルトの身体を路地に引っ張り込むのと、鉄の塊の砲台が火を噴いたのはほぼ同時だった。
ドゴォォォッ!!
通りを爆風が駆け抜けるのをアルベルトとサラは戦慄の面持ちで見るしかなかった。兵士たちの悲鳴が聞こえ、機械音がその余韻をすぐにかき消す。路地に潜む二人の目の前を、鉄の塊は威風堂々と突き進んでいった。もう一度、大砲が放たれた音がする。
「港に向かうつもりか!?あんなのが相手じゃひとたまりもない!」
「何とかするしかないわ___」
「何とかっておまえ___」
路地から飛び出そうとしたサラの腕をアルベルトが掴み、引き留めた。
「放して。」
「あんなのにぶつかっていってどうするって言うんだ!?勝ち目はない!」
「隙は必ずあるわ。」
サラは気丈な目でアルベルトを見据え、アルベルトは彼女の無謀なまでの大胆さに閉口した。
「ぐははは!見たか白竜のクズども!」
この声。サラは無理矢理、路地から顔を出した。鉄の塊の後ろ姿が見るが、その屋根の部分から、男が顔を出して怒鳴り散らしていた。
「この戦車の力をとくと思い知れ!」
言いたいことだけ言って、ギャロップは車内に戻り、屋根の蓋を閉じた。再び戦車が唸りを上げる。
「あいつ___ギャロップだ。ポポトルの大幹部!」
「ほら、隙が見つかったじゃない。」
サラは自分の上から路地の様子を見ていたアルベルトを見上げ、勝ち気な笑みを見せた。
「本部への降下、完了しました!」
ベル・グランの船底からは複数のワイヤーロープが下ろされ、ケルベロスの兵たちはこれを使ってポポトル本部へと降り立った。これでベルグランは一つの大仕事を終えたわけである。
「フュミレイ様!」
「なにごとだ?」
後方の監視を任されていた兵士が慌ただしくブリッジに駆け込んできた。
「ポポトルの市街で激しい爆発が連続しています!路上を走る黒い塊のようなものも確認され、これがポポトルの兵器ではないかと!」
空からの景色というのは実に壮観で、想像以上に細部まで目が届く。
「隠し球か___」
フュミレイは小さく舌打ちした。
「摂政殿、よろしいですか?」
「うむ、白竜侵入後の爆撃は無しと言うことだったが___状況が状況だ。」
ハウンゼンは策士の笑みでこれに答えた。
「ベル・グラン市街地に進路を取れ!ポポトルの新兵器を空爆で排除する!」
白竜軍の足は戦車の登場で確実に止まった。だが一台の戦車でその全てが食い止められるわけではない。しかし、まだ白竜軍の兵は、市街地の奥に設けられた大門を抜け、本部にたどり着くには至っていない。
「あが___」
それはこの男の存在にあった。
「七十六人目___か。」
大門の前に陣取るガルシェルの後ろには人垣ができていた。七十六人目の骸を引きずり上げ、彼は人垣の上へと重ねた。山積みになった骸は、まさに狂気の沙汰。その前に立つ二刀流の男に恐怖を感じない者などいないだろう。
「あの化け物相手にどうするって言うんだ!サラ!」
アルベルトは必死に走ってサラを追いかけた。そして彼の少し前を走るサラもまた、必死になって暴走する戦車を追いかけている。
「乗っ取るのよ!あの化け物を人の力で止めるのは無理。でも乗っている奴さえ何とかすれば!」
「無茶だ!」
確かに常識的ではない。動くことをやめようとしない戦車に取り付いて、屋根から乗り込もうというのだから。
「でもやらなければたくさんの人が死ぬでしょ!?」
だがサラは決意を曲げない。アルベルトは未来を信じているからこそ、彼女に危険な真似をして欲しくなかった。
あのパーティーの後、二人きりだけで交わした言葉。
「戦いが終わったら___俺、白竜をやめようと思っている。」
「どうして?」
「新しい仕事がしてみたいんだ。新しい生活ってやつ。ゴルガ辺りに引っ越して、何か商売をはじめてみようと思う。」
「いいね、夢がある話で。」
「それでさ___おまえさえよければ、俺はおまえと一緒に人生の続きを歩きたい。」
「___」
「___」
「___いいよ。あたしはあなたについていく。」
決して長いやり取りではなかったが、それからの二人は満たされていた。だが逆に、サラが戦いに積極的な姿勢を見せると、アルベルトの心はただならぬ不安に苛まれるのだ。
ギュン!
走るアルベルトの足もと。戦車がガタガタにしていった石畳に弾丸が食い込んだ。振り返ると、戦車の登場で息を吹き返したポポトル兵たちが血眼で迫ってくる。
「くそ!」
アルベルトは覚悟を決めて足の回転を速めた。女のサラに追いつくのはそう難しいことではない。
「!?」
アルベルトはサラに追いつくとすぐさま彼女の肩にしがみつき、そしてすぐ脇の路地へと力任せに引っ張り込んだ。
「なにするのよアルベルト!」
サラは怒った顔になって必死に彼を睨み付けた。
「まともに追っていたらいつまでたっても追いつけないぞ。裏道から回り込むんだ!」
アルベルトの決意が滲む眼力を受け、サラから瞬く間に怒りが消え失せた。
「___ええ!」
サラはアルベルトに手を引かれるようにして走り出した。
「うわあああ!!」
戦車の脅威は大砲だけではない。ギャロップはその鉄の塊の巨体と、勢い良く回転する車輪で白竜軍の兵たちを容赦なくひき殺していく。
「なんとかならんのか!あの化け物は!」
トルストイも側近部隊を率いて戦車が見える場所まで進んできた。しかしその圧倒的な破壊力を前に撤退を余儀なくされている。
「ぐははは!ぶち殺してやるぞトルストイ!」
ギャロップが再び戦車から顔を出した。どうやら彼はトルストイに的を絞ったらしい。
「どうすれば___」
トルストイには施策がなかった。この圧倒的な化け物にどう対処すればいいのだ?近づくまでにこちらが砕け散る。勝算を見いだしはじめていた戦いの暗転にトルストイの髭も乱れる。しかし、兵士の一人が彼の側によってそっと耳打ちしたことで、彼から敗色は消えた。
「相手にするな!徹底してあの化け物から逃げ回るのだ!始末は彼らに任せればいい!」
彼も気が付いたのだ。ネズミを追い回すイタチがあの鉄の塊ならば、それを狙う赤い大鷲が空から近づいてきていることに。気づいていないのは、戦車に乗っているギャロップと、それを追うことに夢中になっているアルベルトとサラくらいだった。
「この高さなら何とかなる。ここからあいつの上に飛び乗るんだ。」
アルベルトとサラは蛻の空になっていた通り沿いのバーに入り込み、その二階の窓から、悟られないよう身を隠して通りの様子を伺った。
「足を踏み外して車輪の方に転げ落ちたらアウトね___」
「巧くやるさ。俺がやる。」
アルベルトはサラを窓の側から遠ざけようとした。
「でも。」
「大丈夫。巧くいくさ。俺たちは未来を誓い合ったんだぜ?こんな所で未来を消してたまるかっていうんだ。」
アルベルトはサラに力強く笑って見せた。普段はもう一つ頼りがいに欠ける彼の姿に、サラは心を締め付けられた。
「また後でな。」
「必ず。」
戦車が近づいてくる。実に都合良く、スピードが少し緩くなった。好機!アルベルトは二階の窓から満を持して戦車の屋根に飛び降りた。
「く!」
戦車の進む力に流されそうになったアルベルトだが、素早く屋根に突き出た飾りのようなものにしがみつき難を逃れる。
「いける!」
アルベルトはすぐさま態勢を戻して、屋根の中央にある車内への入り口の取っ手に手を掛けようとした。空が驚くほど暗く、自分の身体にも影が落ちていることなど、まるで気にも留めなかった。
ドゴゴゴゴ!!
「!?」
アルベルトは己の目を疑った。耳も、触覚さえ疑った。たった今自分が飛び出したバーが粉塵を巻き上げ、崩れ落ちて行く。壮絶な爆発と共に炎が立ち上った。
「サラ!?」
突然すぎた。アルベルトは取っ手から手を離し、すぐさま戦車から飛び降り、バーの前に転げ落ちるとすぐ立ち上がって慄然と崩れ行く建物を見つめた。
ドゴォォアッ!!
すぐ近くで再び巨大な爆発が巻き起こる。振り返り見れば、たった今まで自分が乗っかっていた戦車の屋根が炎を浴びて燻っている。見上げれば、空には巨大な狂気が浮遊し、黒い塊が無数に大地に降り注ごうとしていた。
「嘘だ___嘘だろ!?」
生き残らなければ___サラを助けられない!
アルベルトには爆弾の難を逃れるしか道は残されていなかった。燃えさかり、崩れ落ちて行くバーから、サラが既に脱出していることを祈るしかなかった。
そしてそのとき。
「ん?」
一筋の光が舞い降りたのは、百九十七人目の骸をガルシェルが人壁に加えていたときだった。アモンがイメージしたのは、概ね代わり映えがないであろうと踏んだ本部への大門。光が弾け飛ぶとそこには、三人がいた。
「ほう。」
ガルシェルは予想外の獲物に目を細めた。
「ここは___ポポトルか!?」
「ベルグランがいる、間違いないよ!」
百鬼とライはまず空を見た。そしてベルグランを見つけてここがポポトルだと感じた。フローラは、回りの景色ですぐにここが大門だと分かった。そして、医師の嗅覚を刺激する血生臭さと、師の鋭敏な殺気を感じ取り、まずガルシェルを見つけた。
「私たち___とんでもないところに飛んできたみたいよ。」
フローラは腰にくくりつけたボウガンを取り外す。ライと百鬼も後ろを振り返って、すぐに戦闘態勢に入った。誰なのかは分からなかったが、彼の持つ二本の剣と、彼の醸す殺気と、彼の後ろに積み重ねられた人の山がそうさせた。
「誰だあいつ___ただ者じゃねえな___」
「ガルシェル___ポポトル最強の戦士___そして私とソアラの戦いの先生よ___」
そう呟くフローラの胸元はしっとりと濡れていた。師の強さを知るあまり、勝手に身体が汗を滲ませていた。
「やるしかねえな?」
「本部に行くにはここを通る以外に道はないわ。」
戦わないわけには行かない。
「今ここに百九十七の死体がある。おまえたちで二百だな。」
ガルシェルは油断のない男。笑顔はない。余裕を見せる素振りすらない。フローラに再会の言葉を掛けることさえしなかった。
「進みたくば___こい!」
いつもなら、真っ先に仕掛けていくのは「あいつ」だろうに。紫色の突貫娘を失った三人。最初に飛び出したのは___
「うおおお!」
百鬼だった。激闘は___これからだ。
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