9  死の宣告   

 2007年1月下旬に、淳は激痛で動けなくなってしまいました。
 一晩中うずくまっていたそうですが、一向に治まる気配がないので、
 胃潰瘍をした時にかかったNクリニックに行きました。

 レントゲンを診て、ドクターは「こ、これはまずいっ」と、青ざめました。
 「すぐに家族を呼びなさい」と言われましたが、
 淳は家族を呼ぶことは拒否し、ひとりで説明を受けました。
 そして、100%死が待っていることを宣告されました。
 大きい病院を紹介するから、そこですぐに手術することを指示されました。

 この時、淳がどんな気持ちだったか、と思っても、想像できません。
 淳は最後まで、淡々と運命を受け入れていました。
 「しばし入院するが、心配するな」とメールが来ました。
 もちろん、折り返し電話しましたが、淳ははっきり言いません。
 何度も病名を問い詰めると、やっと
 「がんよ」と言いましたが、「よ」の部分で涙声になりました。

 いやがる淳をつかまえて、2月6日に新宿で会いました。
 すぐに開いて、悪い所を取るが、すでに肝臓に転移している。
 肝臓のがんは星のように散らばっているので、切除できない。
 と、冷静に語りました。
 腫瘍は服を圧迫するほど大きくなっているらしく、
 淳はカバンをひざの上に置いて、ファスナーをゆるめました。

 
 その時の私は気付いていませんでしたが、この時は、すでに姉も発病していました。
 2ヶ月後に姉を亡くし、1年後に淳まで逝ってしまうなんて、想像もしていませんでした。
 1年半前の自分には、淳も姉もいたのだなあ、と思うと、
 その時の自分がうらやましくなります。

 同様にこれから、今の自分がうらやましくなる日がくるでしょう。
 夫Tがいて、母がいて、娘がいて、友達や同僚がいる。
 全ての生が永遠にあるものではありません。
 ひとつずつ手放して、ついには自分も消滅してしまうのです。
 今生きている人ときちんと関わって、悔いのないようにせないかんなあ、
 と思います。     

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