5  ゴールデントリオ   

 高1の時、淳と一緒に夫Tと知り合いになりました。
 夫Tは、はじめから淳のことが大好きでしたが、私にアタックしてきました。
 私はそれをうまく伝えれないまま、淳に手紙を読まれてしまいました。

 たいした内容の手紙ではありませんでしたが、
 淳が読んでいる間、私は身体が硬直しました。
 前の席に座っていた淳は「私が読むべきじゃなかったみたい」と振り向いて返しました。
 その時の気まずい空気は、今でもはっきりと覚えています。
 何と言い訳したらよいか解らず、
 その後は、いつもいっしょにいる友達でありながら、
 彼の相談はしない、という関係になってしまいました。

 最後に淳に会った時、死の床の中で淳が言いました。
 「ひろちゃん、あの時、手紙を読んでしまってごめんね。」
 私は「なんのこと?」とトボケましたが、
 淳にとっても34年間、禍根の事実だったのです。

 「ああ、あの時ね。あれは配慮のない私のほうが悪かった。」と言いました。
 「私、バカだからさ、何も考えずに取っちゃって。」と、淳。
 不器用な15歳だった私達が避けられなかった、一瞬のタイミングのズレ。
 どこにでもある話なのですが、
 お互いにどれだけ長い間後悔していたのか?と思うと、不憫です。

 しかしながら夫Tは、そんなことがあったとも知らず、
 出会ってから淳が死ぬまで、淳のことが大好きでした。
 淳もその愛情に上手に答えてくれました。
 淳が夫Tと一緒になったら、淳の人生も違ったのに、と思います。
 もちろん、私は他の人ともっと幸せになっている、という前提ですが。

 夫Tと淳は性格が良く似ているので、友情以外の関係にならなかったのでしょう。
 どちらも異性と仲間関係を築くことが出来る人なので、
 器用に合わせてくれていたのかもしれません。
 もし私が、別の誰かと結婚していたら、淳はうちの家族の一員にはならなかったでしょう。

 3人で良く飲み、良く話しました。
 うちらはばつぐんのチームワークで、NYやバルセロナを旅しました。
 淳を普遍的に好きだった夫Tにも、淳にも感謝します。

 でも淳が死んでしまった今、うちら夫婦の間に入る淳の代わりは存在しません。
 これからは、「夫婦」という、つまんない単位でしか、行動できなくなってしまいました。                  

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