3 頭脳明晰
淳は、高校時代は、勉強をしない人でした。
試験前にいつも勉強してなくて、それでも成績はまあまあなので、
私は時々、その話にうんざりしました。
でも淳は、私よりずっとカシコだったことが、後年のつきあいで見えてきました。
当時そのことに気付いていたのは、淳の初カレMと夫Tと国語教師Yだけだったでしょう。
淳の初カレMに「あなたは賢いが、淳は頭がよい。」と評されました。
淳が一見、ドジでのろまに見えるのは、
浮き世の人々とやっていくために身に付いたカモフラージュです。
淳は最後まで、羊の皮をかぶったままの一生でした。
淳が結婚しなかったのは、そのキレ味ゆえでしょう。
何ごともさらさらっとできてしまうので、がむしゃらになって何かを掴む、
ということのできない一生でした。
淳はいつも全体が見えてしまうので、人以上に気配りができてしまい、
メインではなくフォロー役に回ってしまいます。
多少ひとりよがりでなくては脚光を浴びれないし、主役にはなれません。
淳は、どんなドラマの主役になることもなく、世を去りました。
恋愛、結婚、親になること、ひいては生きることすら一歩退いて見えていたのです。
それで淳は幸せだったのか?わかりません。
でも、ライターという仕事は、淳の才能を存分に生かした仕事だったでしょう。
いつもそつなく芸能人をひきたてる淳の仕事ぶりは、多くの編集者から支持されました。
バブルがはじけた時も、仕事は減りませんでした。
フリーという立場上、来た仕事を可能な限り受けたので、
超人的なスケジュールになることもしばしばでした。
学生の時は試験前に勉強することを怠けていた淳でしたが、
皮肉なことに、いつも締め切りに追われていました。
そしていつも弱音を吐きながらも、きちんと原稿をあげれてしまうのでした。
そのために、最悪の病気になってしまったことは言うまでもありません。
少しの挫折があったなら、立ち止まることが出来たのに、と悔やまれます。
結婚や出産でその才能を埋もれさせてしまう人も多い中、
表舞台に生きた淳は幸せだったかもしれません。
でも、死んでしまった今、言えることは、
淳はこの世に何も残さなかった。
それだけは確かです。
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