21  密葬   


 9時半頃、お母さんから電話がありました。
 私は電話が鳴るたびに「もしや、じゅんが?」と怯えていたのに、
 その時は、何の電話か見当がつきませんでした。
 
 淳のお母さんは、「葬儀は身内だけで。落ち着いたらまた連絡します。」
 と言いました。
 すぐに淳の大学の友達のYちゃんから電話があり、
 とりあえずYちゃんが家まで行ってみる、ということになりました。

 ところがYちゃんは、やはりお葬式は遠慮したほうがいいだろう、
 という結論を報告してくれました。
 淳の姿は、変わり果てていたとのこと。

 そうは言われても、とにかく灰になってしまう前に行かなきゃ!
 と、葬儀場を探して電話してみましたが、
 受付の人に「親族だけの式ですので、遠慮して下さい。」と、
 きっぱり断わられてしまいました。

 親族、って、何なんですか?
 淳は、ずっと一人暮らしだし、結婚もしてません。
 15の時から一緒に育って来た、うちらは親族なんですけど!
 と、納得できませんでした。

 淳の亡きがらにさよならを言わないと、死んでしまったことにはなりません。
 淳が死んでしまったなんて、現実ではありません。
 ばかばかしくて、泣く気にもなりませんでした。
 実際私は、1滴の涙もこぼしませんでした。

 密葬なんて、淳の遺志でしょうが、淳はバカです。
 自分勝手の大バカものです。
 結婚式もお葬式も、自分のためにするものではありません。
 自分が結婚することと同じで、自分が死んでしまったことを、
 ちゃんとあいさつしないで、どうやって終わりにできる、というのでしょう。
 自分1人で生きていた、と思っている、バカヤローです。

 結局淳は、友達の誰からも見送られず、灰になってしまいました。
 淳が死んだ証しをどこにも残さずに。

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