3  無償の愛

  
 私の記憶がある限り、姉という人は、私のことをすごく愛していました。
 私がどんなにわがままを言っても、どんなに疲れていても、
 いつもしつこいほどに私を愛してくれました。
 私は一度もその愛情を疑ったことはありません。

 誰かから絶対的に愛されているという自信は、
 私の人格形成に大きく寄与しています。
 「渡る世間に鬼は無し」が、私の座右の銘ですが、
 私の性善説は、たぶん姉の愛情からきています。
 世の中はいい人ばかりで、私はいつも見守られているのです。
 こうしてのうのうと自分のことを書くことができるのも、
 そこからきているのでしょう。

 そう言い切る私は、他人からすると、誰よりもうざい奴かもしれません。
 実際はどうあれ、いいのです。
 絶対的に愛されている自信は、心地よいものです。
 その安心感の上にあぐらをかいてきました。

 姉は47年間、一度も私を裏切ったことはありませんでした。
 私にライバル心を覚えたり、嫉妬したりしたこともありませんでした。
 私以外の誰かが妹でも、姉はそうしたでしょう。
 うちの娘姉妹を見ていても、姉というのはそういうものかもしれません。
 少し先に産まれただけで、損な役回りです。

 姉と争うことがあるとしたら、それは私のためを思って姉が強制するからです。
 それが分かっていても、姉の愛情は私にはうざく、私はいらつきました。
 「もう、放っておいて!」
 姉の手を借りなくても、ひとりでできる。
 姉のうんちくを聞かなくても、とっくに分かっていた。
 私は姉よりもっとうまくやってみせる。

 姉は、私のことを愛してくれましたが、
 私は、受けた愛情のかけらも姉に返していません。

     NEXT→ 

 もどる