17  無言の帰宅

  
 関西に着いたのは、夜遅かったので、大阪には行かず、神戸に1泊しました。
 母に最後のことなどを話してもらいました。
 翌朝大阪に行くと、姉はきれいにお化粧され、リビングの横の和室にいました。
 姉の死顔は笑顔だったので、「ねえちゃん、なに笑ってんの〜〜」
 と、思わず声を出して笑ってしまいました。

 子ども達も笑顔でした。
 遺体を前に、誰も泣く気にはなりませんでした。
 たぶん全員が、唯一自分のできることは、取り乱さないで笑顔で過ごすことだ、
 と暗黙のうちに解っていたからでしょう。

 姉は生前、こっそりお葬式用の写真を撮って、神棚の上に隠していました。
 母はそれを委ねられていました。
 けれども母は、そのことを言うのをすっかり忘れていたので、
 すでに全く別の写真が飾ってありました。

 それは、ほんの2ヶ月前の姪の成人式の時の写真でした。
 写真館で、姪の写真を撮った時に、みんなで、ともう1枚撮ったそうです。
 引き延ばしたので、粒子は粗いけど、いい顔をしていました。
 正真正銘、生前の最後の写真です。

 姉はその時の写真を使うつもりではなかったと思います。
 姉の許可もなく使って、姉はどう思っているでしょうか?
 「もっとふっくらして綺麗な写真を用意してたのに〜〜。」と怒るかもしれません。
 「あん?そんなん何でもええよ。」と興味を示さないかもしれません。
 姉のことなのに、本人の意見が聞けないなんて、不思議な気がします。

 お通夜と葬儀は、自宅から徒歩10分のお寺で執り行われるので、
 ほどなくして姉はお棺に入れられ、運ばれて行きました。
 夕方になって、夫T、長女、次女が揃い、義兄の親戚が揃い、
 お通夜が始まり、滞りなく済みました。

 人の死顔なんて、今まで怖くて凝視したことなどありませんでしたが、
 やはり家族の場合は、違うもんなんですよね。
 来てくれた人に「おねえちゃんの顔、見てやって」という気持ちになるのは、
 自分でも不思議でした。

 怖いどころか、気持ち悪いどころか、明日焼かれてしまうと思うと、
 名残惜しくてたまりませんでした。

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